第48話 消えた指南役
突如、ハクとヒメルの前に立ちはだかったネイビーブルーの特殊個体。その身体は他の兵士型のゴーレムに比べ大型ではあったが、シルエットはほっそりとした、どこか女性を思わせる形をしていた。
『なんかもっとデッカイのきたね〜』
『俺、大きいコイツ、倒す!』
その特殊個体に剣の切先を向けられているにも関わらず、ワクワクしたような表情の二人。
先に動いたのはネイビーブルーの特殊個体だった...
『帝国式刺突剣術...銀針三閃...』
技名をボソリと呟くやいなや、その手に構えるレイピアで三連撃の突きを放つ特殊個体。
その突きは、目視する事は叶わない程の速さで放たれハクとヒメルの喉元に迫る…
『ー!!』
ガキィンッ!キンッ!キンッ!
油断しきっていたハクとヒメルは不覚にも反応できず、躱すことは叶わなかった…
しかし、そんな二人を守るように間に割って入り、三連撃の突きを防いだ人物がいた。
アビスナイトのベイルだ。
ベイルは魔剣スレイブと右腕を同化させ、究極に高められた剣技で、特殊個体が放つ目にもとまらぬ突きを弾いたのだ。
『ハク、ヒメル、遊びすぎだ…真面目にやりなさい…』
子供を叱るように二人に声を掛けるベイル。
『はぁ~い…』
『クゥ~ン』
二人は叱られてしょんぼりした様子だ。ハクなどは両耳が横にねてしまい、落ち込んだ子犬のようになってしまっていた。
『こ奴は、我に任せろ…』
そんな二人にベイルは、その一言だけを伝え、その身と一体化させた魔剣スレイブを正眼に構える。
特殊個体もそれに応じたように、手に持つレイピアをベイルに向け、独特な構えを取る。
開始の合図などはない…これは試合ではなく死合なのだから…それを理解している両者は、どちらからともなく示し合わせたかのように同時に踏み込む。
特殊個体の鋭い突きを魔剣スレイブの腹で受け流し、そのまま横薙ぎに払うベイル。
大剣とレイピア…決して相性は良くはない、勿論不利なのは大剣だ。
鋭い突きと、身軽さを活かした素早い動きが特徴のレイピアに対して、大剣は剣自体の重量にものをいわせて、一撃に質量を乗せた強力な攻撃放つのが特徴だ…ボクシングで例えるとヒットアンドアウェイのアウトボクサーと一撃必殺のハードパンチャーだろう。
どこかの仮面の赤い人が、当たらなければどうとことはないのだよ…と言っていたが、まさにその通りで一般的には攻撃速度が遅く、攻撃線も直線的な大剣は機動力の高い相手が苦手なのだ。
しかし、そんな一般的な常識はベイルには通用しない。
ベイルは巨大な魔剣スレイブの重さを全く感じさせない程の鋭い剣捌きで特殊個体の突きを全て弾き、反撃までして見せている。
しかも左手は添えるだけ…もしていない。魔剣スレイブと同化させた右腕一本で剣を操っていた。
だが、ネイビーブルーの特殊個体も黙って弾かれているだけではない。その弾かれている剣筋に変化を加え変則的な突きへと変えてくる。
『帝国式刺突剣術...幻光一突...』
ヒュンッ!バシュッ!
『ムッ!』
ベイルの鎧にレイピアの傷が入る…
幻の如くレイピアの軌道が無数に分かれて迫り、弾いたと思ってもそれに手応えはなく、気付いた時には傷を負っている…そんな技だった。
しかし、ベイルも黙ってやられはしない。
『魔剣一体…カースブレイカー…』
ベイルの身体から発せられている、どす黒いオーラが右手と同化した魔剣スレイブに集まっていく…
その見るからに凶悪な呪いを孕んだようなオーラを纏いし魔剣を、居合切りのような構えから一気に横に薙ぎ払う。
ヌ゛…ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
魔剣から放たれた斬撃は呪いの呻き声のような音を立てながら特殊個体へと向かい飛んでいく。
バキィィィンッ!!
その余りの斬撃の速さに、避け切れなかった特殊個体は直撃を受け後ろに体を仰け反らせながら、その胴体に大きな亀裂を走らる。
そしてベイルの斬撃を受けた特殊個体の身体の周りには、黒いオーラが動きを阻害するように纏わりついていた...これこそがアビスナイトへと進化を果たしたベイルの奥義カースブレイカーの特殊効果だ。
お互いに引かない技の応酬…そのような剣戟が繰り広げられていく中、その素晴らしくも恐ろしいまでの剣技に、周囲で戦う者達も無意識のうちに戦いの手を止め、固唾を飲んで勝敗の行方を見守るようになっていった...まるでこの戦いの勝敗が戦争の行方を左右するかのように。
しかし周囲の者達とは明らかに違う様子で、剣戟を見つめる者達がいた。
その顔は青褪め、驚きを隠せない表情だ...
その者達とは、ジュダース帝国皇女親衛騎士団、団長のシグルドと副団長のハインツだ。
『あ、あの技は…帝国式刺突剣術…なぜあの特殊個体が…』
『おい、シグルド...まさかアイツは...あの特殊個体は...』
二人はネイビーブルーの特殊個体が駆使しているレイピアの技に見覚えがあった...いや、二人がよく知る人物の技だったのだ...
その人物とは…
『あの技を使えるのは、我らが帝国騎士団の細剣術指南役…エレオノーラだけだ…』
そう、シグルドが言う通り、あの特殊個体の技は、数ヶ月前に姿を消した帝国騎士団細剣術指南役エレオノーラの技だった…
『まさか、エレオノーラ殿は王国に...』
『やめろ!ハインツ、エレオノーラに限って王国なぞにすきにされるわけがあるかっ!彼女は帝国一の剣士なのだぞ!』
『だが!!だが...シグルド...お前も見ただろう...あれは彼女の技だ...指南役のエレオノーラ殿の...失踪したお前の婚約者の技だろうが!!』
『くっ....!』
『確かめよう、シグルド...あの特殊個体が、お前が探していた婚約者、エレオノーラ殿なのか...』
『...あぁ...いくぞ、ハインツ...』
失踪した帝国騎士団指南役のエレオノーラは、シグルドの婚約者だった...何も告げずに忽然と姿を消した婚約者...その婚約者の技を目の前の特殊個体が使っている...まさかそんなずはない、そう思いながらもシグルドは悪い予感が拭えぬまま、ハインツと二人、その特殊個体の元へ急ぐのだった...




