第47話 主君の教え
『おいっ!ヴェクター!いつになったらあの忌々しい魔王軍を駆逐し防壁を突破できるのだ!』
アストリア王国軍司令部では、将軍のロイズが苛つきを隠そうともせず声を荒げていた。
『ロイズ将軍、敵に増援が現れたようで少々予定に狂いが生じております...既に兵士型のゴーレムも4機ほど破壊されておりますので、念の為に例の特殊個体を投入した方が宜しいかと...』
『クソッ!薄汚い魔物共めっ!素直にやられておけば良いものを!....まぁよい、死ぬ前に絶望を味あわせてやるのも一興か...よしっ!特殊個体を準備しろ!』
『分かりました。準備が出来次第、投入致します...フフフ』
この、ロイズの決断が後に魔王軍を絶望の底に沈める事となるのだった...
その頃戦場では....
『うぅ〜、ホワイトファング!』
メキメキ....グシャッ!!
素早い飛び込みから一瞬でゴーレムの頭部をいとも簡単に潰しあげるハク。
まるで白狼が咬撃でゴレームの頭を嚙み砕くかのように、両手で顎の形を作り挟み込むような技を繰り出したのだ。
ホワイトファング…白狼の王シュバルツ直伝の技だ。
『俺、強い!』
『むー!やるね〜ハク!じゃあ私も〜!』
ゴーレムを倒して、これみよがしにサムズアップしながらドヤ顔を向けてくるハクに対して、自分もやるぞ!と気合いを入れて一気に遥か上空まで飛翔するヒメル。
『よ〜し、いくよ〜!竜星墜〜!!』
敵の遥か上空まで飛翔したヒメルは、その掛け声と共に一気に加速して眼下のゴーレム目掛けて急降下を行う。
そのあまりの速度によって、次第に空気抵抗が高まり、ヒメルの体を熱と光が覆っていく…
その姿はまるで、高速で燃えながら一直線に落ちてくる流星のようだ。
ヒュオオオオオォォォ……ッ!ズバァァァッ!!
激しい衝撃波を発生させながら通過したヒメルの後には、腰から上が消し飛んだゴーレムが2体。
竜星墜…ホイズとの修行で、ホイズのメテオスマッシュから着想を得た技だ。
『私もつよ〜い!』
さっきのお返しとばかりに、ハクに両手でサムズアップを返すヒメル。
その身体からは、つい今しがた放った技の熱がまだ残っているのか、薄っすらと煙が立ち上がっている。
『い、一体どうなってるんだ...兵士型とはいえあんな簡単に...』
余裕すら見せるハクとヒメルの強さを目の当たりにしたハインツは、驚愕の声をあげた。
本来ならば兵士型とはいえゴーレムを撃破するためには、大きなリスクを冒す必要がある。
騎士数人で囲いながら戦ったとしても、多くの場合は怪我人や死人が出ていた…そう…今までの経験上、無傷でゴーレムを討てたことなど一度も無い…それを一人で、しかもいとも容易く倒してしまうなどハインツからすればあり得ない話だった。
『シグルド…魔王国は思った以上にヤバイ国かもしれねぇわ…』
『現段階では友好的な関係だ…ハインツ…絶対に無礼な振る舞いは避けろよ…』
魔王国を怒らせるのはやめた方がいい…意見を一致させる二人だった。
そして、強い援軍を得た魔王軍の反攻の勢いは収まらない。
時を同じくして、防壁上部ではシュプールが機銃の部品換装を終わらせていたのだ。
機銃の銃身は細く長いものに替えられ、その銃身上部にはスコープ代わりの小さな魔法陣が数個連なって浮いているのが見て取れる…連射形態では照準の魔法陣が一つだったことから、その魔法陣スコープは長距離射撃用だということのようだ。
『よ~し!換装完了です~!…うぅ〜ん...太いのも魅力的だけど、長いのも凄く良い〜』
そんな事を口走りながら魔法陣式のスコープを覗き込むシュプール....そして風魔法の応用で数Km先までハッキリと見えるそのスコープで、敵軍後方に控えているゴーレムを照準に捉える。
『では一発熱いのを発射しちゃいますよぉ〜!ファイア〜!』
ズドォォォンッ!
空気を切り裂く轟音の通過と共に、その眉間に大穴を開けて崩れ落ちるゴーレム...
部品の換装により、いわゆる対物ライフルと化した機銃…その機銃で狙撃したシュプールは、なんと数Km離れたところに待機していたゴーレムの眉間を撃ち抜いたのだ。
『ふぅ~…やっぱりぃ〜連続発射も良いけど〜熱い1発も捨てがたいですね〜』
どこまでもこんな感じのシュプールだが、すでに結果が証明する通り、射撃の腕は超一流となっていた。
残るゴーレムは、あと2機…
ホイズ達が戦闘に介入してからは、ゴーレムの攻撃により崩壊寸前であった魔王軍前衛も立て直しが進んでおり、今では前線を押し返すほどにまでその状態を回復していた。
もちろん帰還して早々その猛威を振るっている魔王軍幹部の二人や、ハクとヒメルの活躍は大きいが、遅れて到着した兵士達も本来の所属である魔王親衛隊や騎士団、魔法師団へと編成が完了し、魔王軍本来の力を発揮しだした事も戦況を好転させた大きな要因であった。
『アローラ殿!これは私達の勝ちは間違いなさそうですね!』
『フィオレリア殿…以前の私もこのような状況において、そのように早計に判断したことがありましたわ…でも油断は禁物ですわ。戦は終わってみるまで結果は分からないもの…最後まで気を緩めず戦わねばならぬと私は主君に教えられましたわ』
前回の王国軍との戦闘では、幾度となく勝ちを確信し、その都度魔王ガルスに諫められていた事を思い出すアローラ。そんな油断が先の敗戦に繋がったのだと自身の愚かさを呪わなかった日はなかった。アローラは魔王ガルスが捕らわれたのは自分のせいだと責任を強く感じていたのだ。その思いからアローラは二度と同じ轍は踏まないと心に決めていた。
『なるほど…そうですね。どうやら私は気が逸っていたようです…そのような訓示を与えて下さりありがとうございます』
『いえいえ、私も主君の受け売りのようなものですから…』
フィオレリア皇女が勝ち確信するのも無理はない…自身の親衛騎士団もシグルドとハインツを中心に各所で王国軍を退けており、如何にゴーレムが残っていようとも、もはや王国軍に勝ち目は無いように見えていたからだ。
『魔王軍全軍に告ぐわ!我々は二度と同じ過ちは繰り返さない!恐らく敵は奥の手を隠しているわ!今の状況に油断することなく最後まで戦い抜きなさいな!!』
『『『ジジジ…オウッ!!!』』』
フィオレリアとの会話から今一度軍全体を引き締める必要があると思い、インカムを通して檄を飛ばすアローラ…そんな中インカムを装着していないあの二人は…
『よ~し!ハク!残りのあのデッカイ奴ら、どっちが倒すか競争だよ~!』
『俺、沢山倒す、だから負けない』
戦場を飛んだり跳ねたり走ったりと縦横無尽に敵を撃破して回っていたハクとヒメルは、残りのゴーレム2機を獲物と定め、どちらが先に倒すかといった内容の話をしていた。
二人にとっては、もはや相手の王国軍兵士はもとより、兵士型のゴーレムなど脅威には感じておらず、遊び感覚に近い形で戦っていたのだ。
キラッ!ヒュオンッ!
そんな警戒心の無い二人の行く手に、急に現れた何かが立ち塞がる…
『あ、あれは特殊個体…』
遠くにいたシグルドが、ハクとヒメルの前に立ちふさがる何かを見て反応する…
その何かは、先程までハクとヒメルが相手にしていた兵士型のゴーレムの2倍ほどの大きさ…特殊個体と呼ばれるゴーレムだったのだ。
現れた特殊個体のゴーレムはネイビーブルーの体を輝かし、その手に携えたレイピアのような細身の剣を自身と対峙しているハクとヒメルに向けて構えた…




