第43話 開かれようとする戦端
みるみるうちに慌ただしくなっていく城内を急ぎ、フィオレリア皇女の元へと急ぐシグルドとハインツ。
『予想だにしない事態となってしまったな...』
『あぁ、シグルド...お前さんは、これからどうするべきだと思う?』
『個人的には迎撃に加わりたい所だが、我々の第一の任はフィオレリア様の身をお守りする事だ。それを考えれば城で待機...状況が悪化するようなら国に戻る事も考えねばならんな…後はフィオレリア様次第か…』
『そうだよなぁ、俺は出来れば力になりたいんだがなぁ...』
『ふっ、お前も魔族達を気に入ってしまったのだな』
『そういうシグルドも魔族を助けたいって顔に書いてあるぞ』
『そうだな....しかし、今はフィオレリア様の安全の確保だ。フィオレリア様の元へ急ぐぞ!』
『了解だ!』
密かに魔族達の事を気に入っていたシグルドとハインツは、魔王国の力になりたい気持ちを抑え皇女の元へと急ぎ駆けた...
『シグルド!ハインツ!この城の騒ぎはどうなっているの!』
シグルドとハインツが戻った事を確認したフィオレリアは、二人に向かいすぐに事態の説明を求めた。
客室にいたフィオレリアは事態を把握ができていなかったのだ。
『ハッ!ご報告いたします!アストリア王国が魔王国に侵攻を開始した模様です!王国は既に魔王国南の沿岸まで迫っているとの事です!』
『何ですって!アストリア王国は私達の国に侵攻するはずじゃ...まさか、私達が来たから!』
『その可能性は十分にございます』
ライトという王国の狙いを知らないフィオレリア皇女は、アストリア王国が自分達の足取りを追って魔王国に攻めてきたと考えた...そして今、自分達は何をすべきか、いや...しなければならないのか答えを出そうとしていた。
『....シグルド、ハインツ、こうなった以上、私は魔王国の皆さんと一緒に戦う義務があると考えています。貴方達も共に戦ってくれますか?』
『もちろんですとも。我らジューダス帝国皇女親衛騎士団は、如何なる困難や苦難を前にしてもフィオレリア様をお守りすると誓った者達です。その誓いに嘘はございません』
『さすがは親衛騎士団長殿!わかってるねぇ〜』
『ハインツ!茶化してる場合か!』
『ふふふ、ありがとう....貴方達がいてくれて、私は本当に心強いわ』
『有り難きお言葉....では、フィオレリア皇女殿下、我らに出陣の御命令を....』
『分かった...魔王国の皆さんには温かくもてなして頂いたご恩があります....その魔王国の皆さんが、我らが原因で血を流そうとしています....そんな事は絶対に許容することはできません!従って、これより我々は魔王国軍と共闘し王国軍を討ちます!騎士団総員!出陣です!』
『『『おうっ!!』』』
『よぉし!やるぜぇ!』
『ハインツ、力みすぎるなよ』
『シグルド騎士団長殿、そういうお前さんも気合い入りすぎてんじゃないの〜?』
『ふっ、ぬかせ』
急遽、魔王軍との共闘を決めたフィオレリア達はアローラ達より少し遅れて南の防壁へ向かうのだった。
一方その頃、南の防壁ではアローラが到着し、迎撃の準備を進めていた。
『皆が戻るまで持ちこたえる事が出来れば勝機はあるはず...』
アローラは自分に言い聞かせるかのように呟く...
何せ今回の敵は、前回敗走した相手…しかも魔王ガルスが身を挺して時間を稼ぎ、やっとの思いで生き残った相手なのだ。
そんな相手にホイズやベイル、そしてライトが不在という状況で国を守り抜かなければならない…アローラはそんな重圧に押し潰されそうになっていた…
その目に恐怖はない…しかしそれでもやはり現在の戦力ではどこまで持ちこたえられるのか不安はあった。
そんなことを思案していたアローラに背後から近づく一団がいた。
『アローラ殿!我らも共に戦わせては貰えないでしょうか!』
フィオレリアと、その親衛騎士団の面々だ。
大きく目を見開き驚くアローラ、それもそのはずだ…ライトの客人とはいえ、戦う理由のない人族が命を賭して自分たちと共に戦うと申し出てくれたのだから。
しかし、フィオレリア達はあくまでもライトの客人、ここで散らせるわけにはいかない…
『フィオレリア殿…そのお気持ちは有難く頂戴いたしますわ…しかし、貴女方は大切なライト様の客人…そんな方々を戦闘に巻き込むわけにはまいりませんわ』
気持ちは嬉しい、しかし甘える訳にはいかない…そうアローラは告げる。
『いえ、私達もアストリア王国とは戦う理由がございます!そして王国がここに侵攻してきた理由も私達にあると考えています…巻き込んでしまったのは私たちの方…ですので、ここは私達も戦わせて頂きます!』
『アローラ殿、フィオレリア様がこう仰られている以上我らも引くことはできません。そして魔王国の皆様にはもてなしを受けた恩もあります。是非共に戦う許可を頂きたい!』
『フィオレリア様は言い出したら聞きませんから。ここは折れて下さいよ』
『フィオレリア殿、シグルド殿、ハインツ殿…』
自分たちのせいで王国がここに来た、という事には疑問があったが、アローラは折れないであろうフィオレリア達の気持ちを受け入れることにする。
『分かりました…それでは皆様には我々と共に戦って頂きます。しかしそれでも前線に出て頂く訳にはまいりませんので、後方での支援をお願い致します』
『しかし!』
『いえ、フィオレリア殿…これには理由がございますわ』
『その理由とは?』
『シグルド殿、それは皆様を我々の攻撃に巻き込まないようにする為なのですわ』
『巻き込まないようにする為?大規模な魔法でも放つおつもりなのですか?』
『いえ、今皆様方の目の前に並んでいる、この魔道兵器…これはライト様が発明された対侵略者殲滅用兵器キジュウというものですわ。今回の迎撃戦ではこのキジュウを主戦力として戦います。そのあまりの威力故に前線を巻き込みかねない事から、前線へは立ち回りを理解した者を最低限の数で配置する形となります。したがって皆様方には後方での支援をお願いしたいとお伝えしたのですわ』
『対侵略者殲滅兵器キジュウ…そこまでの威力が…』
アローラは、単にフィオレリア達を前線に出せないと言っても納得はしてくれないだろうと思い、前線に出せないのは機銃掃射に巻き込まない為だと説明する…
そこに、伝令の斥候部隊員のバードマンが空から舞い降りてくる。
『アローラ様、敵が前方に姿を現しました。その数は約二万…前回のゴーレムのような者達の姿はありません』
『分かったわ、貴方は引き続き斥候を続けて頂戴』
敵の知らせを告げる斥候部隊員のバードマン。
その知らせを受け、アローラは不敵な笑みを浮かべる…その表情には先ほどまでの不安の色は見られない。
何よりライトの客人であるフィオレリア達の前で無様な姿を晒す訳にはいかないのだ。
『シグルド殿…先ほどキジュウの威力は如何程かと仰られておりましたわね…今こそ存分にご覧に入れて差し上げますわ』
ニヤリと口元に笑みを浮かべて、そう口にするアローラの遥か前方には、横に大きく展開しながらこちらに歩みを進める王国軍の姿が映った。
いよいよ、第二次魔王国防衛戦の始まりだった。




