第42話 招かれざるもの
フィオレリア皇女達が魔王城に滞在を始めて1ヶ月が経とうとしていた…
その間、魔王城での生活は何不自由なく、客人としての最大限のもてなしを受けていたが、フィオレリア皇女は戻らぬ魔王代行に対して逸る気持ちを抑えきれず、日に日に焦りを募らせていた。
しかしそんなフィオレリア皇女に対し、黒髪の騎士シグルドは、今は待つべきだと説得を続けて今日に至っていた。
なぜなら、基本的に魔王国との対話役はシグルドが担っており、逐一対話を通して今の状況を把握していた事から、シグルドは何も得ず国に戻るより、待つという選択をしたのだ。
そして、シグルドが待つ事を選択した理由が他にもあった。
それは魔族達の人となりを感じた事、そして魔王軍の戦力を目の当たりにした事だ。
フィオレリア皇女達は滞在を始めた当初から、その見た目に反して親切で心優しい魔族達に対して驚いており、最初は騙されているのではないかと勘繰ったりもしたが、今では自分達の間違った偏見があったと反省するにまで至っていた。
魔王国の魔族達もアストリア王国から侵攻を受けた経験があった事から、人族であるジューダス帝国の面々に最初は多少の警戒心があったようだが、ライトの父である勇者アレン達と接していた事で良い人族もいるということを知っていた...そして何よりも今の自分達を統べるライトが人族であるという事から早々に警戒心を解き、今では積極的に関わるようなっていたのだ。
そして、両者が親睦を深める中で、護衛の騎士達は魔王軍の訓練視察の許可を受け、魔王軍の力を目の当たりにしたのだった。
『こ、これで一兵卒の者達だというのは本当なのか?シグルド....』
『あぁ、前にも言ったが、それは間違いない....何度もアローラ殿に確認をしたからな』
魔王軍の訓練場へと足を運んだ、ハインツとシグルドが見ているのは、以前ライトが考案したレベルの差を活かした兵士達のレベリング風景だった。
kれまでも何度か視察を行っていたが、見れば見るほど魔族達の戦闘力には目を見張るものがあった。
そんな二人の目の前ではゴブリン兵数人がオークの兵長に、シバき回されるといった光景が繰り広げられている。しかし、その一兵卒のゴブリン達もただやられているだけではなく、連権を取り圧倒的な格上である兵長に絶えず挑み続けていた。
『しかも驚くべきは、現在大多数の戦力は訓練のため遠征に出ているという事だ...それでいて、我々が最初に目にしたあの軍容...恐るべき戦力だ』
『敵になれば怖いが、味方になれば何よりも心強い...ということだな!』
『あぁ、その通りだ...助力を得られれば、必ず我らは苦境を乗り越えられる』
驚きの後、希望を口にする二人...そこに誰かが近づいてくる。
『あらあら、シグルド殿、ハインツ殿、こちらにいらっしゃったのですね。このような未熟な者達の訓練などお恥ずかしい限りですわ』
魔王軍魔法師団長のアローラだ。
『いえいえアローラ殿、己よりも強き者に勇気を持って果敢に挑み、強き者は立ち向かってくる者の成長を願い、正面から受けて立つ!我ら騎士も見習うべき素晴らしい訓練ですよ』
『お分かりになられますか〜!あの未熟な者達は別として、あの訓練方法は、我らの魔王代行を務められます麗しきライト様が考案されたものなのですわ〜』
『それは素晴らしい!魔王代行殿は剣の師としても才があられるようだ!是非とも早くお目に掛かりたいものです!』
『そうでしょう、そうでしょう〜!それはもう素晴らしいお方でございますわ〜!言葉では語り尽くせぬあの浮世離れされたご容姿...天才的な頭脳から齎される革新的なシステムの発案...王国をも凌駕する魔道具発明の才...極めつけは魔王軍幹部をもってしても感嘆に値するあのお力...あぁ...ライト様を考えるだけで私は身体が熱く火照ってきてしまいますわぁ〜』
『そ、それはお会いするのが、た、楽しみですな…』
アローラのライトへの狂信性にたじろぐシグルド…そこにハインツが助け舟を出す。
『ところでアローラ殿、私達が魔王城でお世話になり始めてひと月程になりますが、遠征に行かれている魔王代行殿はいつ頃戻られるか、何か知らせなどはありませんか?』
『あ、あぁ、申し訳ございませんわ。私としたことがお恥ずかしい姿を...そうですわねぇ、予定ではそろそろ私が率いる班と遠征に出ている班が交代となるはずですので、その際にお戻り頂けるか伺ってみましょう』
『それは助かります。しかしこのような大規模な遠征を魔王軍の皆さんはいつも行っているのですか?』
『いえ、今回は我々にも少々事情がございまして、このような訓練を行っておりますが、いつもはのんびりしたものですわ』
『そうでしたか、我々は間が悪かったようですね』
そんなたわいも無い会話をアローラとシグルド、ハインツの三人は魔王軍の訓練風景を見ながら交わしていた。
しかし、そこに上空から何やら急いだ雰囲気でエドが降りてきて、衝撃の報告を告げる。
『アローラ!王国だ!魔王国南方の沿岸に船影多数、前回の侵攻時よりも規模がデカいぞ!』
『ついに来ましたか...エド!すぐにホイズとベイルに知らせを!私は南の防壁で迎撃体制を整えますわ!』
多少の驚きをみせつつも、速やかにエドへと指示を出すアローラ。
『分かった!ライト様へのご報告はどうする!』
『本来なら防衛には不参加なのだけれども、一応お耳に入れられるようならお伝えしてちょうだい』
『承知した!では俺はすぐに向かう、後は任せたぞ!』
そう言うとエドはその場で急上昇し、あっという間に視界の彼方へ消えていった....
『アローラ殿、何やら問題が発生したようですね...』
『失礼ながら聞こえてしまったが、王国の侵攻とはもしやアストリア王国がここに攻めてきたという事か?』
シグルドとハインツが厳しい表情でアローラに説明を求める。
『余り時間もございませんので、正直に申し上げますわ。ハインツ殿が仰る通り、アストリア王国がこの国に攻めて参りましたわ。私はこれから軍を率いて迎撃に向かいますので、皆様には戦闘が終わるまではご不便をお掛けしてしまうかもしれませんが、ご容赦頂くようお願い致しますわ』
『承知致しました。我々はフィオレリア様へご報告に向かいます。アローラ殿もどうかお気をつけて』
『ありがとうございますわ。王国は我々にとって因縁の相手...必ずや殲滅してご覧にいれますわ』
アローラは憎しみを込めた表情で決意を口にするのだった。




