第33話 修行の始まり
白狼の王シュバルツにハクを託したライトは、ヒメルと共に急ぎ50階層へ向かう。
前回同様、40階層からのショートカットを行うために、ヒメルは通路から飛び出し、迷うことなく勢いをつけ縦穴の中へと急降下を開始する。
縦穴に棲みついているワイバーン達もヒメルを侵入者と認定し、横穴から飛び出して後を追おうとするが、前回とは違い最初からトップスピードに乗ったヒメルは、その影も踏ませずあっさりと振り切るのだった。
仲間になって日が浅いヒメルであったが、その高い知能と飛行能力でライトの言う事を理解し瞬時に実行する。
ワイバーンが皆このような能力を有しているのかは分からないが、少なくともヒメルには秘めるものがあるとライトは考えていた…ヒメルだけに。
そんなダジャレを考えていると、目の前に巨大な門が見えてくる。
最下層、50階層の玉座の間に入るための扉だ。
一応他人の部屋のドアなので、ノックをしてみると…
ゴンッゴンッゴンッ!
『はぁ~い!どうぞ~!開いてますよ~!』
来客に対して、今手が離せないです~的な主婦みたいな返事が返ってきた…
『あ、失礼します…』
とはいえ、とりあえず返事はしてみたものの、この巨大な扉を開けられるだろうか…
前回はホイズが明けてくれたが自分では無理そう…そう思いながら扉を押してみたのだが、その巨大で重厚な見た目の割にすんなりと扉は開いた…どんな作りしてんだ…ク〇556をさしたってこんな軽々は開けんぞ…
『おうっ!来たな!待ってたぞ!』
意外とすんなり開いた扉から足を踏み入れると、広間の奥から何やら快活な声が聞こえてきた。
声の先に目をやると、前回は誰も座っていなかった巨大な玉座にドテッと腰を掛けた魔竜王が片手を挙げてこちらを見ていた…
『ど、どうもお待たせ致しました…』
あまりにもフランクな魔竜王に戸惑いながらも挨拶を返すライト。
『いや~やっと来たか!んじゃ、早速お前は奥に行ってフランジュとレイドにしっかりと絞られて来い!あいつらは容赦ねぇからせいぜい気張れよ!んでそこのワイバーン!俺が鍛えてやるからここに残れっ!いいな!』
『あ、はい…それじゃヒメルを宜しくお願いします…』
『グ…グァッ!』
『おう!任せろ!お前も頑張れよ!』
なんだろう…同じ王を冠する者なのにシュバルツとのこの違いは…
まぁ、でも魔王の父ちゃんも大体にしてこんな感じだから魔竜王といってもこんなもんなのか…
そんな事を考えつつも、別れが惜しそうに涙目でこちらを見つめるヒメルの頭を撫で、とりあえず言われた通りに一人で奥の部屋へ進むライト…途中、後ろの方で何やらヒメルの悲鳴が聞こえた気がするが、一旦聞かなかった事にする…
玉座後方の扉の前で立ち止まり、とりあえず念のためノックをする。
ゴンッゴンッゴンッ!
『どうぞ、お入りください』
今度は企業面接の時にノックをした際の、入室下さい的な返事が返ってきた…なんだか緊張する。
『し、失礼しますっ!』
『ライトさん、お待ちしておりましたよ』
『やっときたのか!ワシを待たせよって!』
なんか陰と陽の差が激しい…流石、元勇者と元魔王…
『すみません、準備に少し時間が掛かりまして…』
『いえいえ、では早速始めましょうか』
『はい!宜しくお願い致します!』
『じゃあまず、ワシからいこうかの。お前さんにはまず魔王固有魔法のアビスフレアを習得してもらう』
『アビスフレアですか??』
『なんじゃ!おぬしガルスに見せてもらったことはないのか?』
『あ、はい…基本的には戦っている姿は見せてもらったことがないので…訓練とかでは使っていなかったですし…』
『当たり前じゃ!訓練なんかでぶっ放したら相手を殺してしまうじゃろうが!』
『あ、はぁ…そうなんですね』
何やらガイコツがプリプリ怒っているが、知らんものは知らん…
『仕方ないのぉ…フランジュ!異空間の扉を開け!そこで、こやつにアビスフレアを見せてやる』
『承知致しました、あとレイドさん?もう少しお優しく教えてあげて下さいな。そんな言い方じゃ誰でも萎縮してしまうというものです』
『あぁ!?』
『何か?』
『…チッ、分かった分かった!とりあえず異空間の扉を頼む!』
『はいどーぞ』
フランジュが顔の前で指をクルッ回すと、目の前に光る扉のようなものが出現した。
急に言い合いを始めるから、俺のせいで元勇者と元魔王の決戦の火ぶたが切られてしまうのではないかとドキドキしたが、なんとか収まってよかった。
『よし、ライトよ!この中に入るのじゃ!』
『は、はい…』
とりあえず訳が分からないが、もたもたしていると、またガイコツがプリプリしだすので素早く扉に入ることにする。
扉を開けた先には、境界という概念そのものが失われたようなどこまでも広がる何もない空間があった…
ここで出入り口を見失ってしまったら二度と出ることは叶わないだろう…そんな恐怖すら感じる空間だ。
『……』
『何を呆けておるか!まずはワシがアビスフレアをぶっ放すからしっかり見ておれ!』
『は、はい!お願いします』
フランジュに注意されたにも関わらず、相も変わらずプリプリしているレイド…そんなレイドを注意深く見ていると、レイドの目の前に幾層にも重なる魔法陣が出現した。
『これは…』
それは普段、ライトが使っている多重魔法のように多数の魔法陣を当たりかまわず出現させるといったものではなく、文字通り魔法陣を複数重ねて生成しているといった形だ。
『それ!放つぞ!』
そのレイドの言葉と共に、幾層にも重なる魔法陣から放たれる圧倒的な質量の漆黒の炎…
その黒い炎は触れるものすべてを燃やし尽くし存在そのものを消し去る地獄の業火….ライトはこの魔法にそんな印象を受けた。
『黒い炎…』
『そうじゃ!このアビスフレアは闇の力で召喚した黒き炎を放つ魔法じゃ!ちなみに、これに触れたものは影さえも残さずにこの世から消え去るぞ!代々魔王に受け継がれた魔法じゃぞ。どうじゃ?凄いじゃろ!』
『魔王に受け継がれた魔法…でしたら魔王ではない自分には無理じゃないでしょうか?』
『いや、お主は使える....勇者の子でありながら魔王に育てられ、人族でありながら魔王代行となったお主なら資格はある...そして何よりワシが教えるのだから大丈夫じゃ!』
『そうですか…分かりました!必ずものにしてみせます!』
それって無茶振りじゃね?と思いつつも、余計な事を言って怒られたくはないライトは、一先ずアビスフレアの習得訓練を開始するのだった。




