第27話 新たな仲間
ホイズとハクが三十九階層から大量の生肉を抱えて戻ってきた頃には、ライトによるワイバーンの調教は最終段階に入っていた。
二人を送り出した後も、ライトはひたすら肉を与え続けていた。
ただし最初のように無闇に与える訳ではない。
一枚。
また一枚。
徐々に間隔を空けながら与えていた。
『グルゥ……』
ワイバーンが催促するように首を伸ばす。
『まだだ』
ライトは掌を前に突き出した。
待て。
その仕草だった。
すると――
ワイバーンは本当に待った。
『よしよし』
ライトは思わず笑みを浮かべる。
もはやワイバーンの中でライトは獲物ではない。
美味い肉をくれる存在。
それどころか、従う価値のある存在へと認識が変わり始めていた。
ライトはさらに肉を投げる位置を調整する。
少しずつ。
少しずつ。
自分の近くへ。
警戒心を解くためだ。
そして気付けばワイバーンはライトのすぐ目の前まで近付いていた。
『ライト様ー!肉持って来ただーよー!』
『ワフッ!』
ホイズとハクが戻ってくる。
その時には既に、ワイバーンはライトの手から直接肉を受け取るようになっていた。
『おぉ、ナイスタイミング!』
ライトは大量の肉を受け取ると、その場へ山のように積み上げた。
すると――
ワイバーンがゆっくりと降りてくる。
警戒する様子は全くない。
巨大な身体を三人の前にさらしながら肉へとかぶりついた。
ガツガツガツガツ!!
『凄い食欲だな……』
その姿に苦笑しながら、ライトはそっと頬へ手を伸ばした。
撫でる。
一瞬だけ動きが止まる。
だが――
『グルルルルゥ……』
ワイバーンは目を細めた。
そして喉を鳴らした。
完全に猫だった。
『よし、いけたな』
ライトはすぐさまステータスを確認する。
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名前:なし
レベル:127
称号:ライトのペット
ジョブ:ワイバーンLv47
スキル:閲覧制限
熟練度
・爪牙術Lv39
・飛行術Lv49
・ブレスLv34
・咆哮Lv31
特性
・食いしん坊
・好奇心旺盛
・甘えん坊
・光る知性
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『よし!』
思わず拳を握る。
称号が変化している。
ライトのペット。
つまり完全に仲間になった証拠だ。
しかも――
『光る知性か……』
思わぬ大当たりだった。
単純な強さだけではない。
賢い個体という事だ。
これなら命令も理解できるだろう。
『名前を付けないとな』
肉を食べ終えたワイバーンが首を傾げる。
期待するような瞳。
ライトは少しだけ考えた。
そして口を開く。
『決めた』
ワイバーンが反応する。
『今日からお前の名前は――ヒメルだ』
ドイツ語で空という意味の言葉。
蒼く美しい身体。
空を自由に駆ける翼。
その姿から連想した名前だった。
『グルルルルゥゥ……』
ヒメルは嬉しそうに頬を擦り寄せる。
まるで名前の意味を理解しているかのようだった。
その姿を見て、ライトは少しだけ前世を思い出した。
昔から何故か動物に懐かれやすかった。
他人には威嚇する猫。
誰にも懐かない野良犬。
そういった動物が自分には寄ってくる。
転生してもその体質は変わらなかったらしい。
『オラの肉は減っただども……凄いだーよ』
ホイズが感心したように呟く。
『二人が肉を持って来てくれたお陰だよ』
『ワフッ!』
褒められたハクも尻尾を振る。
そしてライトは巨大な縦穴を見下ろした。
『さて……』
四十階層。
この構造から考えると次の階層は下にある。
ならば――
『ヒメル、運んでくれるか?』
首筋を撫でる。
『グワァァァッ!!』
元気な咆哮。
どうやら了承らしい。
流石は光る知性だ。
ライトはヒメルへ跨がる。
ホイズとハクも乗せる。
全員が乗ったのを確認すると――
ヒメルは力強く翼を広げた。
バサァァァァァッ!!
巨大な風が巻き起こる。
そして――
飛んだ。
『うおおおおおおおおっ!!』
ライトが叫ぶ。
『すごいだーよー!!』
『ワオォォォン!!』
三人を乗せたヒメルは縦穴を降下していく。
空を飛ぶ感覚。
それは今まで体験した事のない爽快感だった。
だが――
異変は突然訪れる。
縦穴の壁面。
そこには無数の横穴が空いていた。
『なんだあれ……』
ライトが目を凝らす。
次の瞬間。
一つの穴から何かが顔を出した。
青い顔。
鋭い瞳。
『……ワイバーンだ』
嫌な予感がした。
そしてその予感は的中する。
ギャアアアアアアアアッ!!
無数の咆哮。
次の瞬間。
縦穴中の横穴から夥しい数のワイバーンが飛び出してきた。
『なっ!?』
『すごい数だーよ!!』
『グルルルルルッ!!』
ハクが威嚇する。
だがそんな場合ではない。
『ヒメル!!』
『グワァァァァッ!!』
ヒメルが急降下を開始した。
ワイバーンの群れも追いかけてくる。
完全な追撃戦だった。
風が顔を叩く。
視界が流れる。
ヒメルは縦横無尽に飛び回りながら群れをかわしていく。
ライトは背中の上から魔法陣を展開した。
『ドラゴンフレイム!!』
炎が空を裂き数体のワイバーンを撃ち落とす。
だが追撃は止まらない。
『このままじゃ追いつかれる!!』
その時だった。
『あっちだーよ!!』
ホイズが叫ぶ。
指差す先。
縦穴の底付近。
他よりも遥かに巨大な横穴が見えた。
『ヒメル!!あそこだ!!』
『グワァァァッ!!』
急旋回。
猛烈な勢いで横穴へ突入する。
ドォォォォォォォォン!!
背後では曲がりきれなかったワイバーン達が次々と地面へ激突していた。
土煙。
轟音。
そして静寂。
『……助かった』
ライトが大きく息を吐く。
誰も追ってこない。
どうやら振り切れたらしい。
『ヒメル、ありがとな』
肉を差し出しながら頭を撫でる。
『グルルルゥ……』
嬉しそうに喉を鳴らすヒメル。
『死ぬかと思っただーよ……』
『クゥ~ン……』
ホイズとハクは地面へ座り込んだ。
だが長居は危険だ。
いつまた群れが現れるか分からない。
ライトは立ち上がる。
『よし、先へ進もう』
『了解だーよ!』
『ワンッ!』
『グルゥッ!』
こうしてライト達は新たな仲間――
ワイバーンのヒメルを加え、さらに深層へと歩みを進めるのだった。




