第26話 ワイバーンとの遭遇
ブラッドグリズリーとストロングホーンを余すことなく堪能した三人は、しばしの休息を挟んだ後、再び最下層を目指して歩き始めた。
『いやぁ~、さっきの肉は本当に美味かったな~』
『ワフッ!』
『帰りにも獲っていくだーよ』
『いいな!どうせなら何頭か捕まえて連れて帰ろうぜ!牧場とか作ってさ!』
『それは名案だーよ』
先程までの食事の余韻に浸りながら笑い合う三人。
しかし、いつまでも肉談義を続けているわけにもいかない。
目の前には、三十七階層へと続く通路が見えていた。
『よし!行くか!』
『おーだーよ!』
『ワオーン!』
腹は満たした。
休息も十分。
後は最下層を目指すだけだ。
そうして三人は三十七階層へ足を踏み入れた。
――三十七階層。
そこから三十九階層までは、もはやホイズの独壇場だった。
ブラッドグリズリー。
ストロングホーン。
黄金の鬣を持つ獅子型魔物ゴールドレオ。
どれも本来なら強敵なのだろう。
だが――
『フンガッ!!』
ドゴォォォォン!!
『ホイサッ!!』
メキャァァァァッ!!
『フンヌッ!!』
ズドォォォォォン!!
現実は一方的だった。
襲いかかる魔物達は次々と吹き飛ばされ、大地に沈み、二度と立ち上がらない。
ライトは思った。
(もしかして今までのホイズは腹が減っていて弱体化されていたのでは……?)
流石は魔王親衛隊長。
満腹状態のホイズは別次元の強さだった。
『ブラッドグリズリーは残してくれよー!』
『ストロングホーンもだーよ!』
『ワフッ!』
そんな会話をしているうちに、気付けば三十九階層まで踏破していた。
後ろは見ない。
絶対に見ない。
きっとホイズの殺戮ショーによる凄惨な光景が広がっている。
『よ、よし……四十階層行くか……』
『はいだーよ!』
元気よく返事をするホイズ。
よく見るとその腕には大量の生肉が抱えられている。
まるで戦利品だ。
その姿を見たハクは、そっと目を逸らしていた。
――40階層。
ライトは何の疑いもなく一歩を踏み出した。
そして――
空を踏んだ。
『……え?』
地面が無い。
理解した瞬間には身体が前方へ傾いていた。
足元には闇。
ただひたすらに闇。
どこまで続いているのか分からない巨大な縦穴。
『ライト様ッ!!』
『ワオォォォン!!』
両腕が強烈に引っ張られる。
気付けばライトは宙吊りになっていた。
背中を冷たい汗が流れる。
あと一歩。
あと一瞬遅れていたら。
確実に落ちていた。
『あ、あぶねぇぇぇぇ……』
心臓が激しく脈打つ。
その時だった。
ゴォォォォォ……
巨大な何かが風を切る音。
重低音のような羽音が闇の底から響いてくる。
『……なんだ?』
バァァァァァッ!!
突如、青い影が眼前を通過した。
暴風
草が大きく波打つ。
ライトの髪が激しく揺れる。
『なっ!?』
見上げた先。
そこには蒼穹を思わせる鮮やかな青鱗。
巨大な翼。
鋭く伸びる尾。
そして黄金色の瞳。
竜。
まさしく竜だった。
『ワイバーンだーよ!!』
ホイズが叫ぶ。
ライトも前世の知識で知っている。
飛行能力に優れた翼竜。
しかし――
デカい。
想像していた倍はある。
ワイバーンは空中に留まりながら三人を観察していた。
いつ襲いかかってきてもおかしくない。
『通路に戻るか……?』
いや。
狭い通路に追い込まれた方が危険かもしれない。
そう考えた時だった。
ライトの視線がホイズの抱える大量の生肉へ向く。
『……ワイバーンの餌付けか』
『だーよ?』
『試してみる価値はある』
ライトはホイズの腕から肉を掴み取った。
『待つだーよ!?』
ブンッ!!
肉を投げる。
ワイバーンが一直線に滑空した。
パクッ。
『あ』
ホイズが固まる。
ワイバーンは目を見開いた。
モグモグ。
『……』
『……』
『……』
数秒後。
ワイバーンはこちらを見た。
目が輝いていた。
完全にもっと欲しい顔だった。
『あっ、これイケる』
ライトは確信した。
『オラの肉だーよぉぉぉぉ!!』
ホイズの悲鳴を無視してライトは次々と肉を投げる。
パクッ。
パクッ。
パクッ。
ワイバーンは恍惚の表情で食べ続ける。
まるで先程の焼肉大会のライトそのものだった。
『ハク!ホイズ!三十九階層に戻れ!』
『へ?』
『ワフ?』
『肉をありったけ持って来い!!』
『あああぁぁぁぁ!!オラの肉ぅぅぅぅ!!』
『ワオォォォン!!』
ホイズは涙目になりながら走り出し、ハクも全力で駆けていく。
ライトは肉を投げ続けた。
ワイバーンも食べ続けた。
そして確信する。
(ここで手懐けられれば……下層攻略が一気に楽になる!)
魔竜の洞窟。
四十階層。
まさかの空中エリア。
その攻略の鍵は――
最強の肉だった。
◇◇◇
ワイバーンは困惑していた。
突然現れた三人組。
本来なら獲物。
そう思って近づいた。
だが――
飛んできた肉が美味すぎた。
今まで食べたどんな魔物より美味い。
もう一個欲しい。
もっと欲しい。
できれば沢山欲しい。
気付けば尻尾が左右に揺れていた。
そしてワイバーンは思う。
(あの小さい奴、もっと肉くれないかな)
その瞳は完全に獲物を見る目ではなくなっていた。




