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勇者の息子に転生したら育ての親が魔王でした~良いとこどりで最強に育って無双します~  作者: ララ
第三章 レガリア編

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第143話 神の伝承

――魔竜の洞窟最深部


身体を伏せた魔竜王デッカーは、神の顕現についてゆっくりと語り始めた。


「遥か昔……」


「今から千年以上……いや、もっと前の話だったか」


「…………」


「まだ人族と魔族が現在ほど明確に分かれて生活していなかった時代」


「ある魔族達が……神を呼び出そうとした」


フランジュが尋ねる。


「なぜ……?」


「願いがあったからだ」


「願い?」


デッカーの瞳に、遠い過去の光景が映る。


「人族を滅ぼしてほしい……それがその魔族達の願いだった」


「…………!」


フランジュの顔が強張る。


「魔族が……神に人族を?」


「ああ」


「姿が醜い……それだけの理由で魔族達は迫害されていた」


「迫害の末、家族を失った魔族達は神に願ったのだ……家族を殺した者達に報いを与えて欲しいと……」


「そして……」


デッカーは低く告げた。


「彼らは成功した」


「…………」


レイドの顔から笑みが消える。


「成功……したのか」


「まぁ……不完全ではあったがな」


「…………」


「それでも――」


デッカーの声が洞窟に響く。


「神は、この世界に現れた」


「…………」


フランジュは息を呑む。


「何が……起きたんですか?」


「一方的な殺戮だ」


「…………」


「人族の村が消えた」


「街が消えた」


「国が消えた」


「…………」


デッカーは淡々と語る。


だが。


その一言一言が重かった。


「大地は人族の血で染まり」


「空は人族の怨嗟で黒く覆われ」


「海にまで神の力が及び、人族を飲み込んだ」


「…………」


「結果――」


デッカーは一度、言葉を止める。


「人族の半数以上が死に絶えた」


「…………!」


フランジュの瞳が見開かれる。


「半数……以上?」


「ああ……」


「そんな……バカな……」


「そして……」


デッカーは続ける。


「もし、あの時の顕現が不完全なものではなく、完全なものだったなら」


「…………」


「人族は……」


その言葉に、洞窟の空気が凍りつく。


「この世界から消えていただろう」


「…………」


フランジュは言葉を失った。


レイドも何も言わない。


しばらくして。


「……どうやって止めた?」


レイドが尋ねた。


デッカーは静かに答える。


「……竜族達だ」


「…………」


「しかし、我々は神を倒したわけではない」


「顕現が不完全だったことで、神自身がこの世界に長く留まれなかった」


「顕現が長引けば長引く程、力を失っていった……そこで竜族達は時間を稼ぎ、神に隙が生まれるのを待った」


「…………」


「目論見通り神は力を失っていった……その隙に……顕現の核を破壊したのだ」


「…………」


「すると、神は消えた」


フランジュは拳を握る。


「それから……その後は?」


「竜族達は考えた……」


デッカーの瞳が鋭く光る。


「二度とこの世界に神を顕現させてはならない」


「…………」


「この世界に、神を呼ぶべきではない」


「…………」


「力が強すぎたのだ」


「あれは願いを叶える存在などではない」


「神とは――」


デッカーは静かに告げる。


「この世界そのものを壊しうる存在だ」



レイドが黙っている。


やがて。


「……それで?竜族達はどうした?」


「記録を残した」


「…………」


「起きた事を、代々語り継いだ」


「そして――」


デッカーは自らの胸に手を当てる。


「神を顕現させた経験のある魔族の近くで、その兆候を見張ることにした」


「…………」


「二度と同じことが起きないようにな……」


「つまり……」


フランジュが呟く。


「竜族は魔族を監視している?」


「そういうことだ」


デッカーは頷く。


「現在、その役目を担っているのが――」


「私だ」


「…………」


フランジュはデッカーを見上げる。


「あなたが……」


「ああ」


「だから、魔王国に……?」


「そうだ……俺は役目を全うするために長い間ここにいる」


デッカーは答える。


「魔王が代替わりしても……国が変わっても……私は見ている」


「…………」


そして。


デッカーはレイドを見る。


「もちろん、お前が魔王になった時もな」


「…………」


レイドは苦笑する。


「なるほど」


「なら、俺が神を呼び出そうとしたら力ずくで止めるつもりだったのか」


「当然だ」


「怖いな、お前」


「冗談を言っている場合か」


「いや……」


レイドは珍しく真剣な顔をした。


「これは……笑えないな」


「…………」


フランジュも頷く。


「あの二国が……本当に神を呼び出そうとしているのなら」


レイドが言葉を続ける。


「俺達は……止めなきゃならない」


「…………」


フランジュの瞳に決意が宿る。


「そうですね……」


勇者と魔王。


本来なら敵同士だったはずの二人。


だが。


今、その二人の前には――


人族でも魔族でもない、もっと大きな脅威が存在していた。


「レイド陛下」


「ん?」


「私は……」


フランジュは剣を握る。


「あなたを倒すつもりはありません」


「…………」


「少なくとも……今は」


レイドが笑う。


「それは助かるな」


「そして……」


フランジュは続ける。


「アストリア王国とツヴァイス神聖国が、あなたの闇のレガリアを狙っている以上……」


「…………」


「私は、あなたと共に戦いたい」


「…………」


レイドはしばらくフランジュを見つめた。


そして。


「お前……面白い女だな」


「え?」


「勇者なのに、魔王と手を組むのか?」


「それが世界を守るためなら」


フランジュは即答する。


「私は何だってします」


「…………」


レイドは笑った。


「気に入った」


「…………」


「ならば――」


レイドは右手を差し出す。


「共に行こうか」


フランジュはその手を見る。


少しだけ迷い。


そして


「はい」


その手を握った。


「レイド陛下」


「陛下はやめろ」


「では……レイド」


「それでいい」


その瞬間。


「…………」


デッカーが二人を見つめていた。


巨大な瞳の奥に僅かな――安堵が浮かぶ。


「……これでいい」


「…………?」


フランジュが振り返る。


「何か言いました?」


「いや」


デッカーは目を閉じる。


「何でもない」


だが、この時。


魔竜王デッカーだけは知らなかった。


この二人の出会いが後に――


世界の歴史を大きく変えることになるとは。


そして


光と闇


二つのレガリアが同じ場所に集ったことをアストリア王国とツヴァイス神聖国が知れば――


二国は必ず動く。


「…………」


デッカーは静かに空を見上げる。


「また……戦いが始まるのか」


遥か遠い過去……一度だけ顕現した神。


そして、今再びその禁忌へ手を伸ばそうとする者達がいる。


三百年前。


勇者フランジュと魔王レイド。


二人の運命が交わったその日。


世界はまだ知らなかった。


この二人自身がやがて――


光と闇のレガリアを巡る、最も大きな謎の中心になることを。


そして。


彼らが「人ではない姿」へと変わる、その運命さえも――


まだ、始まったばかりだった。

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