第141話 フランジュとレイドの出会い
アストリア王国とツヴァイス神聖国の思惑を知った――翌朝。
王都の宿屋。
あれからフランジュは一睡もしていなかった……いや眠る事など出来なかった。
「…………」
机の上には地図と何かを書きなぐったメモ。
そのメモには……
「アストリア王国」
「ツヴァイス神聖国」
「闇のレガリア」
「魔王レイド」
「光のレガリア」
「勇者フランジュ」
それぞれを線で結ぶ。
「…………」
アストリア王国とツヴァイス神聖国の密会。
アストリア王国の情報統制と噂の流布。
捏造された魔王国による魔物被害。
勇者フランジュによる魔王レイドの討伐計画。
魔王レイドとの戦いで暴かれる勇者フランジュが光のレガリアだという噂。
線と線が繋がってゆく……
「…………」
そのメモを見てフランジュは固く拳を握った。
「もし……私が……魔王を倒したら」
「…………」
「魔王レイドの闇のレガリアを奪われる……」
「私のレガリアもバレてしまう……」
つまり……
「次は……」
自分だ。
「私の光のレガリア」
「…………」
もし、魔王レイドとの戦いで、自分が光のレガリアを宿していると知られたら……
自分も同じように狙われるはず……いや、昨晩の話が本当なら間違いなく狙ってくるはずだ。
光のレガリアの力を使わずに魔王を倒せば……いや、ダメだ……闇のレガリアを有する魔王との戦いで、レガリアを開放しないなどあり得ない……それこそ自殺行為だ。
逃げてしまおうか……
「…………」
「駄目だ」
知らずのうちに、自分だけ助かろうという考えをしている自分に気付き、必死に思考を振り払う。
そして、フランジュは立ち上がった。
「このままじゃ……世界に良くない事が起こる」
誰かがレガリアを利用しようとしている。
訳の分からない神を顕現させるために。
なぜ神を顕現させようとしているかは分からないが、きっと世界平和などが理由ではない……昨晩の話からもそう感じた……
「…………」
フランジュは剣を手に取る。
「なら……やることは一つ……」
決めた。
「魔王国へ行こう」
◇
――数日後
魔王国の巨大な城門前。
そこに一人の少女が立っていた。
「…………」
勇者フランジュ。
武器を収め。
敵意を消して。
ただ一人……城門の上でこちらを見やる門番を見上げる。
「私は……勇者フランジュ」
そして。
臆することなく、はっきりと告げる。
「魔王レイド陛下への謁見を求めます」
「…………」
魔族の門番が目を細める。
「人族が……勇者が魔王様に何の用だ」
「私は戦いに来たわけではありません……どうかお取次ぎを」
「…………」
「魔王レイド陛下に伝えなければならないことがあります」
「何を?」
フランジュは静かに答えた。
「魔王国を害する、アストリア王国と……ツヴァイス神聖国の陰謀について」
「…………」
門番の表情が変わる。
「…………」
すると、奥から冷たい声がした。
「追い返せ……」
「…………!」
慌てて門番達が振り返る。
いつからいたのか……そこには漆黒の鎧を纏った騎士が立っていた。
そして……その後ろ。
「待て……面白そうじゃねぇか……ベイル、通せ」
「ハッ!仰せの通りに!」
その声に、ベイルと呼ばれた騎士が道をあけて跪く。
すると、魔王城の扉の奥から一人の男が姿を現した。
漆黒の髪。
褐色の肌。
額に第三の目。
溢れんばかりの強大な魔力。
まだ……骸骨の姿ではない。
魔王――レイド。
「…………」
レイドはフランジュを真っ直ぐ見る。
「人族の勇者が……魔王である俺に何の用だ?」
フランジュは、ゆっくりと頭を下げた。
そして。
「レイド陛下……あなたに……お伝えしたいことがあります」
「…………」
「あなたの命を狙っている者達がいる」
「…………」
「そして――」
フランジュは顔を上げる。
その瞳には、勇者としてではなく一人の人間としての決意が宿っていた。
「私自身も……その計画に巻き込まれる可能性があります」
「…………」
レイドの表情が変わる。
「……ほう」
「話を聞こう」
「…………」
こうして、三百年前。
勇者フランジュと魔王レイド。
本来なら戦う以外、決して交わることのなかった二人が――
初めて対面した。
そして、この出会いこそが後に二人を結びつける――
「光」と「闇」の物語。
その始まりだった。




