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勇者の息子に転生したら育ての親が魔王でした~良いとこどりで最強に育って無双します~  作者: ララ
第三章 レガリア編

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第140話 300年前

――魔竜の洞窟最深部


巨大な洞窟の中に、静かな時間が流れていた。


ティーテーブル。


その向かいに座る二人と巨大な竜


白銀の鎧を纏った首無し騎士。


フランジュ。


そして、その隣で漆黒のローブを纏う骸骨。


レイド。


二人の間には、長い沈黙があった。


やがて。


カチ……


レイドがカップを置く。


「……フランジュよ」


「はい」


「昔のことを覚えておるか?」


「…………」


フランジュは僅かに顔を上げる。


「昔……ですか?」


「うむ」


レイドは遠くを見る。


「三百年ほど前の話じゃ」


「…………」


「お主がまだ……」


レイドは少しだけ笑う。


「人間だった頃の話じゃよ」


「…………」


フランジュは答えない。


フランジュには顔はない……ゆえに表情も読み取れない。


だが。


その声には、僅かな懐かしさが滲んでいた。


「……覚えていますよ」


「そうか」


「忘れるはずがありません」


フランジュは静かに答える。


「私の人生が……大きく変わった時ですから」


「…………」


「懐かしいですね……」


レイドはカップを持ち上げる。


「ならば……少し昔話をするとしようか」


「…………」


「三百年前……我々がまだ……」


レイドは自らの白骨の手を見る。


「この姿ではなかった頃の話を」



――三百年前


アストリア王国王都


まだ現在とは異なる姿をしていた街。


魔道具は今ほど発展しておらず、簡素な作りの石造りの大通り。


その大通りを渡り、市場へと行き交う人々。


そして……その街を歩く一人の少女。


「…………」


腰には一本の剣。


背中には旅道具。


軽装の鎧。


長い髪を風になびかせながら、少女は王都を歩いていた。


名は――


フランジュ。


この時、まだ十代後半。


そして「勇者」と呼ばれる存在だった。


「…………」


人々の視線が集まる。


「勇者様だ……」


「本物の勇者様だぞ」


「魔王を討つために旅をしているらしいじゃないか」


「すごい……きれい……」


フランジュは少しだけ困ったように笑う。


「……目立つなぁ」


勇者。


魔王を討つべく者。


人々がそう呼ぶ存在。


だが、当時のフランジュは、その呼び名をそれほど重く考えていなかった。


「時期が来れば魔王を倒せばいい」


ただ、それだけ……そう思っていた。


その日、フランジュは王宮へ呼び出された。


「――――勇者フランジュよ」


玉座に座る王が告げる。


「我が国は……魔王国からの度重なる脅威に晒されている」


「…………」


フランジュは跪いたまま王を見る。


「魔王レイド……奴は残忍で強大な力を持つ魔王だ」


「…………」


「是非、奴を奴を討ち取ってほしい」


「…………」


「それが……この国……そして世界の平和のためだ」


フランジュはしばらく黙っていた。


そして。


「分かりました」


静かに答えた。


「私が魔王レイドを討伐します」


王が満足そうに頷く。


「頼んだぞ、勇者よ」


「…………」


フランジュは立ち上がる。


その背中には――


誰も知らない力が宿っていた。


光のレガリア。


しかし、それを宿していることをフランジュは誰にも明かしていなかった。


自分の力をひけらかす事は嫌いだ……そういう性格だったからだろう。


「…………」


王宮を出たフランジュは空を見上げる。


「魔王レイド……か」


剣の柄を握る。


「どんな奴なんだろう」


そして、魔王国へ向けて旅立った。



――数日後


魔王国領


「――――っ!」


フランジュの剣が閃く。


ズバッ!


「ギャアアアアッ!」


魔物が倒れる。


「次!」


「――――!」


一体。


また一体。


「はぁっ!」


ズバッ!


魔物の群れが崩れ落ちる。


フランジュは息を整える。


「…………」


「これで……十五体目」


旅の途中。


魔物を見つければ討伐する……それが当然だと思っていた。


魔物は人間を襲う、だから倒す……それだけだった。


だが……


「…………」


何かがおかしい。


フランジュは剣を握ったまま、周囲を見る。


森。


岩場。


荒野。


そこには数多くの魔物がいる。


だが――


「…………」


魔物達はこちらを見ているだけだった。


「…………?」


一匹の魔物。


小さな狼型の魔物。


フランジュと目が合う。


「…………」


「…………」


魔物は逃げた。


「…………」


フランジュは目を瞬かせる。


「……逃げた?」


仲間を呼びに行ったのか……しばらく待つ。


魔物は戻ってこない。


「…………」


フランジュは剣を見つめる。


「おかしい」


その後も、何度も魔物と遭遇した。


だが、あちらからは襲ってこない。


こちらから近づけば逃げる。


攻撃すれば反撃する。


しかし、魔物の方から襲ってくることは、一度もなかった。


「…………」


ある時、フランジュは一匹の魔物を追い詰めた。


「…………」


魔物は怯えているのか、ブルブルと震えながら涙目で牙を剥いている。


だが、やはり攻撃してこない。


「…………」


フランジュは剣を下ろした。


「……待って」


魔物が動きを止める。


「あなた……人を襲ってないよね?」


「…………」


当然、魔物は答えない。


だが、フランジュには分かった。


「…………」


自分が一方的に襲っている。


「…………」


「私……」


剣を見つめる。


「魔物を……一方的に虐殺してるだけじゃない?」


その瞬間、胸の奥に初めて違和感が生まれた。



数日後


――アストリア王国


フランジュは王都へ戻っていた。


「…………」


宿屋の一室。


机の上には、王都周辺の地図。


「魔王国領の魔物は……人を襲わない」


「でも……」


フランジュは眉を寄せる。


「王都では魔物被害が頻発している」


それを確かめるため、フランジュは王都の人々へ聞き込みを始めた。


「魔物被害について聞きたいんだけど」


「魔物なら最近酷いですよ!」


「知り合いの村が襲われたんです!」


「知人が飼っていた家畜を食われたんです!」


「近くの森から魔物が大量に出てくるんです!」


「…………」


あまりにも話が揃っている……フランジュは違和感を覚えた。


「……本当に?」


「え?」


「あなた自身が魔物を見たの?」


「それは……」


「襲われたの?」


「いや……私の知人が……」


「…………」


次の人物。


「魔物に襲われた?」


「はい!」


「いつ?」


「三日前です!」


「場所は?」


「王都の外れです!」


「…………」


フランジュは地図を見る。


王都の外れ。


「ここ?」


「はい!」


「…………」


その場所へ向かってみる。


「…………」


静かな森。


畑。


農村。


人々が普通に暮らしている。


「あの……三日前、ここに魔物が出ませんでしたか?」


「魔物?何言ってんだおめぇ……魔物なんて暫く見ても聞いてもいねぇぞ」


「…………」


「魔物の痕跡が……ない」


「…………」


畑も荒らされていない。


家畜も無事。


村人達も怯えている様子はない。


「…………」


フランジュは眉をひそめる。


「おかしい……あまりにも王都内の話とかけ離れてる」


王都では魔物被害が酷いと言われている。


なのに……


王都近郊では――被害がない。


「…………」


「どういうこと?」



その夜。


フランジュはさらに聞き込みを続けた。


そして、一人の老人と出会った。


「魔物の被害?」


「…………」


老人は周囲を確認する。


「……お嬢ちゃん」


「はい」


「そんなことを……聞いて王宮の誰かに知られたら面倒なことになるぞ」


「…………」


「どういう意味?」


老人は声を潜める。


「王都では……妙な噂が流れている」


「妙な噂?」


「王宮は魔王国を攻めるために……魔物の恐ろしさを強調しているらしい……とな」


「…………」


フランジュの表情が変わる。


「誰がそんな噂を?」


「さあな」


老人は首を振る。


「だが……」


「最近、王都の教会関係者と王宮の役人が頻繁に出入りしている場所がある」


「どこ?」


「街外れの古い教会だ」


「…………」


老人は地図を指差した。


「ここだ」


「…………」


フランジュはその場所を覚えた。



――深夜。


フランジュは一人、王都近郊の教会……その地下へ潜っていた。


「…………」


気配を殺し壁沿いを進む。


そして。


「…………」


声が聞こえた。


「――闇のレガリアは、間違いなく魔王レイドが宿している」


「はい」


「ならば……魔王を討つ必要がある」


「…………」


フランジュは物陰から耳を澄ませる。


「魔王国への侵攻を正当化するには、魔王軍による被害が必要だ」


「すでに王都では噂を流している」


「魔物被害が酷い」


「魔王国は危険だ」


「勇者が魔王を討つべきだ……とな」


「…………」


フランジュの瞳が見開かれる。


「…………嘘」


さらに別の声。


「我々ツヴァイス神聖国も準備を整えている」


「闇のレガリアを手に入れれば……神の顕現に必要な条件が揃う」


「…………」


フランジュの背筋に冷たいものが走った。


「神の……顕現?」


「あとは……光のレガリアについては?」


「現在のところ所在不明だ」


「…………」


「勇者フランジュが光のレガリア保持者だという噂については?」


「まだ確証は掴めていない……魔王レイドとの戦いで観測出来ればいいが」


「…………」


その瞬間、フランジュの身体が凍りついた。


「…………!」


自分の名前。


そして……


「光のレガリア」


「…………」


知られていない。


まだ、自分が光のレガリアを宿していることは――知られていない。


フランジュは静かにその場を離れた。

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