第137話 友の訪問
――アルヴァニア王国
クーデターから二ヶ月。
あの騒乱が嘘だったかのように、アルヴァニアには穏やかな日々が戻っていた。
王都の街並み。
鍛錬に励む獣人達。
市場から聞こえてくる笑い声。
そして――
「――――ッ!!」
王宮の修練場。
巨大な衝撃音が響き渡る。
「……まだ!」
炎を纏った少女が、大剣を振り下ろす。
ドゴォォォン!!
地面が砕ける。
「はぁ……はぁ……」
リオネ・アルヴァニア。
炎のレガリアを宿し、獣神化を果たした少女。
その身体から立ち上る炎は、以前よりも遥かに安定していた。
「……どう?」
リオネが振り返る。
その視線の先。
「…………」
ライトが立っていた。
「かなり良くなった」
「本当!?」
「ああ」
「じゃあ、次はライト!」
「俺?」
「うん!」
リオネが指を向ける。
「今度はライトの番!」
「…………」
ライトは苦笑した。
「分かったよ」
ゆっくりと目を閉じる。
「…………」
身体の奥。
光
そして――
闇
二つのレガリアが同時に脈動する。
「…………」
白い光がライトの身体を包む。
その周囲を黒い闇が覆う。
――堕天化。
白と黒の翼が背中から広がる。
だが、以前とは違う。
翼の大きさ。
魔力の密度。
そして何より――
「…………」
二つの力が、完全にライトの意思に従っていた。
「……まだだ」
ライトが呟く。
「光を強くすると、闇が薄くなる」
「闇を強くすると、光が乱れる」
「…………」
リオネが首を傾げる。
「でも、前よりずっと上手くなってるよ?」
「そうだけど……」
ライトは自分の手を見る。
「まだ、この力を完全には理解できてない」
「…………」
「もっと強くならないと」
「お父さんの勇者アレンを超えるために?」
「…………」
ライトは少しだけ沈黙した。
「それもある」
そして。
「大切な人達を守るために」
リオネは笑った。
「なら、まだまだ修行ね!」
「ああ」
二人は再び向き合う。
――その日も二人はひたすら力を磨き続けた。
だが、ライトの胸の奥には、二ヶ月経った今も消えない疑問があった。
――なぜだ?
アストリア王国はレガリアを狙っている。
それなのに、土のレガリアを宿したバルグリムではなく――
先王の遺体を奪った。
「…………」
あの空っぽの棺。
「…………」
ライトは考える。
だが、答えは出なかった。
◇
――その日の午後
アルヴァニア王宮。
「ライト!」
「リオネ!」
「…………?」
修練場へ向かっていた二人が、声に振り返る。
そこには獣王国王レオガルドが立っていた。
「陛下?」
「二人とも、王宮へ来い」
「何かあったの?」
リオネが尋ねる。
レオガルドは僅かに笑った。
「客人だ」
「お客さん?」
「ああ」
そして――
「お前達もよく知っている者だ」
「…………?」
二人は顔を見合わせた。
◇
――アルヴァニア王宮
玉座の間。
扉が開く。
「…………」
そこに立っていたのは――
一人のドワーフ。
鍛え上げられた身体。
深い傷跡。
そして、鋭い瞳。
「…………」
ライトは目を見開いた。
「……バルグリム?」
「久しぶりだねー!」
リオネが声を上げる。
「…………」
バルグリムは二人を見る。
そして。
「……ああ」
小さく笑った。
「内乱の時以来だな」
「元気そうでよかった!」
「お前達のおかげだ」
バルグリムは深く頭を下げた。
「本当に……ありがとう」
ライトは慌てて手を上げる。
「頭を上げてください」
「だが……」
「俺達は当然のことをしただけです」
「…………」
バルグリムはライトを見る。
「当然、か」
そして。
「それでも、俺にとっては命を救われた」
「…………」
「ドラムガルドを守ることができたのも……」
バルグリムはリオネを見る。
「お前達が来てくれたからだ」
「…………」
「だから、礼を言わせてくれ」
リオネが笑う。
「いいって!私達、仲間でしょ?」
「…………」
バルグリムの眉が僅かに動く。
「仲間……?」
「そう!」
リオネは胸を張る。
「ライトの仲間!」
「…………」
ライトが苦笑する。
「勝手に決めないでよ」
「いいじゃない!」
バルグリムは二人を見つめる。
そして。
「……ならば」
右手を差し出した。
「俺もそう呼ばせてもらおう」
ライトはその手を握る。
「よろしく、バルグリム」
「こちらこそ」
◇
しばらくの談笑の後。
レオガルドが口を開いた。
「さて」
「…………」
「バルグリム殿」
「はい」
「我々からも、話しておきたいことがある」
「…………?」
レオガルドはライトを見る。
「ライト」
「はい」
ライトは一歩前へ出る。
「バルグリム」
「何だ?」
「俺達は……」
一瞬だけリオネを見る……そして話を続けた。
「レガリアを宿している」
「…………」
バルグリムの表情が固まった。
「……何?」
ライトの背中に。
白と黒の翼が現れる。
「光」
「…………」
そして
「闇」
「…………」
二つの力が、静かに脈動する。
「俺は、この二つのレガリアを持ってる」
「…………」
バルグリムは絶句する。
「二つ……?」
「ああ」
続いて。
「私も!」
リオネの身体から炎が立ち上る。
「炎のレガリア!」
「…………」
バルグリムは目を見開く。
「炎……」
「そう」
リオネが笑う。
「獣神化もできるようになったの!」
「…………」
バルグリムはしばらく二人を見つめていた。
やがて。
「やはりそうか……」
あの時の戦い……二人の姿を思い出す。
だが。
「なら……」
バルグリムは真剣な表情になる。
「アストリア王国が、俺達三人を狙っているということか?」
ライトは頷いた。
「その可能性が高い」
「…………」
「ドラムガルドで起きたことも……」
ライトは続ける。
「単なる王位争いじゃなかった」
「…………」
「アストリア王国は、レガリアを集めている」
リオネも続ける。
「私達のところにも、いつか来ると思う」
「…………」
バルグリムは拳を握った。
「……だからなのか」
「え?」
「先王の遺体だ」
「…………」
ライトの表情が変わる。
「バルグリム?」
「俺は……ずっと疑問に思っていた」
「…………」
「なぜ奴らは俺を狙わず、先王の遺体を奪ったのか」
「…………」
三人の間に沈黙が落ちる。
「……分からない……分からないが、きっとレガリアに関係しているはずだ」
バルグリムが呟き、その瞳が鋭くなる。
ライトは頷く。
「ああ」
「…………」
「その理由を……俺達は必ず突き止める」
ライトは鋭い眼差しでバルグリムに応えた。




