第130話 土のレガリア
――それから、さらに数週間後。
――獣人国アルヴァニア・修練場。
「――――ッ!!」
ドゴォォォン!!
巨大な岩壁が粉々に砕け散った。
「…………」
舞い上がった砂埃の向こう。
そこに立っていたのは、二人の少年少女。
ライト。
そして、リオネ。
「…………」
ライトの背中には。
白と黒――二対の翼。
堕天化。
一方、リオネの身体には赤々と燃え上がる炎。
炎の獣神化。
「…………」
ライトはゆっくりと息を吐く。
「……まだだな」
「え?」
リオネが振り返る。
「今の?」
「ああ」
ライトは自分の手を見る。
「堕天化の維持時間が短い……それに、光と闇の出力がまだ安定してない」
「…………」
リオネも自分の身体を見る。
「私も、獣神化すると炎が強すぎるのよ……制御できてると思ったら、急に魔力を持っていかれる」
「…………」
ライトは頷く。
「だったら修行だな!」
「うん!」
リオネが笑う。
「もっと強くなりましょう!」
「そうだな」
二人は再び構える。
――一人で強くなるために始めた旅。
それはいつの間にか、二人で強くなるための時間へと変わっていた。
◇
――その日の夕刻。
アルヴァニア王宮。
ライトとリオネが修練場から戻ると、いつもとは違う空気が漂っていた。
「…………」
王宮の廊下。
獣人の兵士達が慌ただしく行き交っている。
「何かあったの?」
リオネが尋ねる。
「さあ……」
ライトも首を傾げる。
すると。
「ライト殿!」
声を掛けてきたのは、レオガルドの側近だった。
「陛下がお呼びです」
「俺を?」
「はい」
「何かあったんですか?」
「……重大な知らせが届きました」
「…………」
その言葉に、ライトの表情が変わる。
◇
――玉座の間。
「来たか」
玉座に座るレオガルド。
その表情は険しい。
「何かあったんですか?」
ライトが尋ねる。
レオガルドは一枚の書状を手にしていた。
「ドラムガルドからだ」
「ドラムガルド……」
リオネが呟く。
ドワーフ公国。
大陸でも有数の鉱山資源を誇り。
鍛冶技術においては他国の追随を許さない国家。
「先ほど知らせが届いた」
レオガルドが静かに言う。
「ドラムガルドの国王が……亡くなった」
「…………」
ライトが目を伏せる。
「そうですか……」
「そして」
レオガルドは続ける。
「新たな王が即位した」
「…………」
「ずいぶん早いですね」
ライトが言う。
「ドラムガルドの王位継承は、先代王が亡くなれば速やかに次代へ移る」
レオガルドは頷く。
「それがドラムガルドの伝統だ」
「…………」
しかし
レオガルドの表情は晴れない。
「だがな」
「今回の件は、それだけじゃない」
「…………」
ライトが顔を上げる。
「何かあるんですか?」
レオガルドは、ゆっくりと一枚の別の書状を取り出した。
「これが問題だ」
「…………」
「土のレガリア」
その言葉に。
ライトの瞳が鋭くなる。
「…………!」
リオネも息を呑む。
「土の……レガリア?」
「ああ」
レオガルドは頷いた。
「どうやらドラムガルドには、建国以来五百四十年にわたって外部には決して知らされてこなかった秘密があったようだ」
「その秘密とは……」
「王位継承と同時に……」
レオガルドは言葉を区切る。
「土のレガリアも継承される」
「…………」
「正確には」
「土のレガリアを宿す資格を持つ者でなければ……」
「王にはなれない」
「…………」
玉座の間が静まり返る。
「つまり……」
ライトが呟く。
「王子だから王になるんじゃない……土のレガリアに選ばれた者だけが、王になる」
「その通りだ」
レオガルドが答える。
「つまり、それは歴代のドラムガルド王は全員が土のレガリアの継承者だったということになる」
「…………」
リオネが驚いた顔をする。
「じゃあ、今度の新王も……」
「ああ」
レオガルドは頷く。
「土のレガリアを宿したとのことだ」
「…………」
ライトは書状を見る。
「でも……」
「どうして、その話が外に?」
「そこだ」
レオガルドの声が低くなる。
「それが今回、一番の問題だ」
「…………」
「土のレガリアについては、これだけ重要な秘密だ……ドラムガルド国内でも王族とごく一部の重臣しか知らなかったはず」
「建国から五百四十年一度も外部へ漏れたことがない」
「それなのに……」
レオガルドは書状を机へ置いた。
「今回、王の逝去と新王の即位を知らせる書状と共に……土のレガリアの存在まで詳細に記されていた」
「…………」
ライトの表情が変わった。
「情報漏洩……」
「ああ」
「内部の誰かが……意図的に情報を流した」
「恐らくな」
◇
ライトは黙り込んだ。
土
雷
この二つが現在まで存在が確認できていなったレガリア。
そして……
レガリアを集めるアストリア王国。
ライトの脳裏に、先ほどまでの話が繋がっていく。
「…………」
――炎のレガリアが目覚めた。
――アストリア王国は、それを感知した。
――そして時を同じくして土のレガリアの存在が明かされた。
「…………」
ライトは呟いた。
「レオガルド王」
「何だ?」
「新しいドラムガルド王の名前は?」
「……ドワーフ王、バルグリム・ドラムガルド」
「バルグリム……」
ライトはその名を繰り返す。
「その王は……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「今、どこに?」
「ドラムガルドの王都だ」
「護衛は?」
「当然、王直属の近衛がいるだろう」
「…………」
ライトは目を閉じる。
そして。
「それでも……」
目を開く。
「危ないと思います」
レオガルドの目が細くなる。
「理由は?」
「土のレガリアが外部に知られたことです」
「…………」
「偶然じゃない」
ライトは静かに言った。
「今回の情報漏洩が起きたタイミングが……悪すぎます」
「…………」
「炎のレガリアが覚醒した直後です」
「…………!」
リオネの表情も変わる。
ライトは続ける。
「アストリア王国は……」
「レガリアを探している」
「光と闇」
「炎」
「そして……土」
「…………」
レオガルドは腕を組む。
「つまり……新王が土のレガリアを宿したと知れば……」
「アストリア王国は動く」
ライトは頷いた。
「はい、それも……」
ライトの声が低くなる。
「ここからの動きは、かなり早いと思います」
◇
「…………」
玉座の間に沈黙が落ちる。
レオガルドはしばらく考え込んでいた。
やがて。
「……確かに」
静かに口を開く。
「今回の情報漏洩は偶然ではない可能性が高い」
「…………」
「だが」
レオガルドはライトを見る。
「ドラムガルドはアルヴァニアにとって数少ない友好国だ」
「友好国の王が狙われているとあれば、見過ごすわけにはいかない……」
「…………」
リオネが立ち上がる。
「なら!私達が行けばいいじゃない!」
「…………」
ライトを見る。
「ライト!」
「…………」
「ドラムガルドへ行きましょう!」
ライトは答えない。
「土のレガリアの持ち主を守るんでしょ?」
「…………」
「だったら!」
リオネは拳を握る。
「私も行く!」
「…………」
ライトは少しだけ笑う。
「やっぱりそう言うと思った」
「当然!」
「…………」
「嫌なの?」
「いや」
ライトは首を振る。
「むしろ……行きたい……かな」
「…………」
ライトは窓の外を見る。
遠くに広がる山々。
その向こうに。
まだ見ぬドワーフの国がある。
「土のレガリア」
「…………」
自分と同じように。
レガリアを宿した者。
そして。
アストリア王国が狙っている可能性が高い人物。
「…………」
ライトの中で。
何かが動き始めていた。
一人で強くなるために始めた旅。
だが、その旅はいつの間にか「仲間を増やす旅」へと変わりつつあった。




