第121話 婚約決定
――獣人国・王都外縁部
「…………」
静寂
先ほどまで轟音が響き渡っていた決闘場。
そこには、巨大なクレーターがいくつも刻まれていた。
そして……
「…………」
その中央。
大地に仰向けに倒れている少女が一人。
「…………」
リオネ・アルヴァニア。
アルヴァニア王国第一王女。
「…………」
その隣には……傷一つない少年が立っていた。
銀髪碧眼。
漆黒の刀――漆輝を手にしている。
「…………」
ライトは倒れているリオネを見下ろす。
「……大丈夫?」
「…………」
返事はない。
「リオネ?」
「…………」
「おーい?」
「…………」
ライトがしゃがみ込む。
「死んでないよね?」
「死んでないわよ!!」
「うわっ!?」
突然、リオネが跳ね起きた。
「びっくりした……」
「誰が死ぬか!!」
「いや、返事がないから」
「ちょっと気絶してただけよ!」
「そう」
ライトは立ち上がる。
「じゃあ、俺はこれで」
「待ちなさい!!」
「…………」
ライトの足が止まる。
「何?」
リオネは立ち上がろうとする。
しかし
「…………」
ふらっ
「おっと」
ライトが慌てて支える。
「大丈夫?」
「…………」
リオネはライトの腕に支えられながら。
ゆっくりと顔を上げた。
「…………」
そして、その瞳がキラキラと輝いた。
「…………決めた」
「何を?」
「私」
「…………」
「あなたと結婚するわ!」
「…………」
「…………」
「…………」
ライトの思考が停止した。
「……はい?」
「だから!」
リオネはライトの腕を掴む。
「あなたと!」
「私が!」
「結婚するの!」
「いや……」
ライトは困惑する。
「何で?」
「決まってるじゃない!」
「何が?」
「あなたが強いから!」
「…………」
「私より強い男なんて、この国にはいなかったもの!」
「いや、だからって……」
「だから!」
リオネは満面の笑みを浮かべる。
「あなたが私の夫!」
「いや、待って」
「私があなたの妻!」
「待って」
「これで決まりね!」
「決まってない」
「決まったわ!」
「決まってないって!」
「決まったの!」
「何で!?」
ライトは頭を抱える。
「そもそも俺、君と今日初めて会ったんだけど!?」
「ええ!」
「なら、なんで結婚!?」
「決闘したから!」
「意味が分からない!」
「私を倒した男は、私より強い!」
「うん」
「つまり私が認めた男!」
「うん?」
「なら結婚!」
「何で!?」
「獣人族の伝統よ!」
「…………」
ライトは固まる。
「……本当に?」
「…………」
リオネが少し目を逸らす。
「……半分くらい」
「半分!?」
「でも!」
リオネは胸を張る。
「私がそう決めたから!」
「それ伝統でも何でもないよね!?」
「細かいことは気にしない!」
「気にするよ!」
ライトは頭を抱える。
「俺は結婚する気なんてないから!」
「え?」
「だから!」
「嫌?」
「嫌というか……」
ライトは言葉を選ぶ……答えようによっては傷つけてしまう。
「俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
父さん
ルミナス
王国
神
そして……
自分自身の修行
「今は結婚とか、そういうことを考えてる場合じゃない」
「…………」
リオネが黙る。
「…………」
「…………」
「…………」
「分かったわ!」
「え?」
「じゃあ!」
リオネが笑顔になる。
「結婚は後でいいわ!」
「…………」
「まずは婚約ね!」
「何でそうなるの!?」
「あなた!」
リオネはライトの手を握った。
「決闘に勝った!」
「うん」
「私に勝った!」
「うん」
「つまり!」
「…………」
「私の夫になる資格がある!」
「ないよ!」
「あるの!」
「ない!」
「ある!」
「ない!」
「あるったらある!」
「だから何で!?」
二人の言い争いを。
周囲の獣人達は呆然と見ていた。
そして。
「…………」
決闘場の観客席。
アルヴァニア国王であるリオネの祖父は……頭を抱えていた。
「…………」
「また始まったか」
隣に立つ側近が苦笑する。
「姫様は昔から、一度思い込むと人の話を聞きませんからな」
「…………」
「しかし……」
国王はライトを見る。
「……あの少年」
「はい」
「本当に……何者だ?」
「分かりません」
「ただの人族ではない」
国王の獣耳が動く。
「……あの戦い」
リオネは確かに強い。
獣化したリオネは、同世代の獣人族の中でも突出した戦闘力を持つ。
それを。
「…………」
あの少年は、ほとんど傷を負うことなく圧倒した。
しかも、最後まで本気を出していなかった。
「…………」
国王の目が細くなる。
「……気になるな」
◇
「だから!」
「だからじゃない!」
「私の城に来なさい!」
「嫌だ!」
「来なさい!」
「嫌だって!」
「おじい様に紹介するの!」
「何で!?」
「私の未来の夫だから!」
「違う!」
「未来の夫よ!」
「違うって!」
「未来の夫!」
「違う!!」
「未来の――」
「だから違うって言ってるだろぉぉぉぉっ!!」
王都中に。
ライトの叫び声が響き渡った……




