第120話 リオネ・アルヴァニア
突然の決闘宣言に唖然とするライトだったが……
「あなた!」
獣人の少女がライトを指差す。
「私と戦いなさい!」
「嫌だ」
即答。
「…………」
少女の笑顔が固まる。
「え?」
「いや、だから」
ライトは虎族の男の腕を離す。
「俺、戦いに来たんじゃないから」
「修行に来たんだよ」
「だから戦うの!」
「何で?」
「強くなるためでしょ?」
「そうだけど」
「なら戦いなさい!」
「いや、何で君と?」
「私がこの国で一番強いから!」
「…………」
ライトは少女を見る。
「…………」
「…………」
「……本当に?」
「何よ、その顔!」
「いや……」
ライトは思った。
――この子……かなりおてんばだ。
そして……かなり面倒くさそうだ。
「私はアルヴァニア王国第一王女!」
少女は胸を張る。
「リオネ・アルヴァニア!」
「…………」
ライトは目を瞬く。
「王女……?」
「そうよ!」
「…………」
「何よ」
「いや……」
ライトは周囲を見る。
王女が……
街中で……
大剣を持って……
人族に……
決闘を申し込んでいる……
「……獣人国って、王女様がこんな感じなの?」
「こんな感じとは何よ!」
「いや、悪い意味じゃなくて」
「絶対悪い意味でしょ!」
「…………」
ライトは頭を抱えた。
「俺、もう帰っていい?」
「ダメ!」
「何で!?」
「私が決闘を申し込んだから!」
「だから何で!?」
「だって!」
リオネは大剣を抜いた。
「あなた……」
その瞬間。
少女の表情が変わった。
先ほどまでの明るさが消える。
獣人特有の鋭い眼差し。
「強いんでしょ?」
「…………」
ライトの表情が変わる。
「…………」
リオネはライトを見つめていた。
「あなたの魔力」
「隠しているつもりでしょうけど、私には分かる」
少女は笑う。
「とんでもなく強い」
「…………」
「だから」
リオネは大剣を構えた。
「私と戦いなさい」
「あなたの強さを……私に見せて!」
「…………」
ライトは黙っていた。
――戦うつもりはなかった。
目立つつもりもなかった。
ただ、修行をしたかっただけだ。
それなのに……
「…………」
ライトはリオネを見る。
彼女の目。
そこには。
純粋な戦意があった。
殺意ではない……敵意でもない。
ただ。
「強くなりたい」
その気持ち、それだけだった。
ライトは思う。
――俺と同じだ。
強くなりたい。
自分の大切なものを守るために。
そのために、今まで戦ってきた。
「…………」
ライトはため息を吐いた。
「分かった」
「本当!?」
リオネの顔が輝く。
「ただし」
ライトは人差し指を立てる。
「俺は本気を出さない」
「……何ですって?」
「この国に来たばかりだし、君を傷付けたくない」
「…………」
リオネの頬が引きつる。
「……私を」
「傷付けたくない?」
「うん」
「…………」
「…………」
「…………」
リオネの耳がピクピクと動く。
「ふふ……」
「?」
「あなた……」
リオネは笑った。
「いい度胸してるじゃない!!」
「いや、そういう意味じゃ……」
「絶対に本気を出させてやる!」
「え?」
「この私――リオネ・アルヴァニアを舐めたこと!」
「いや、舐めてないって」
「後悔させてあげるわ!」
「…………」
ライトは思った。
――やっぱり面倒くさい。
◇
――獣人国・王都外縁部。
決闘場。
本来なら王族同士の決闘などに使われる場所。
そこに、ライトとリオネが向かい合っていた。
「本当にやるのか……」
ライトが呟く。
「当たり前でしょ!」
リオネが大剣を構える。
「あなたが勝ったら!」
「私がこの国で自由に修行できるようにしてあげる!」
「え?」
ライトが目を見開く。
「本当?」
「ええ!」
リオネは胸を張る。
「王女である私が許可するわ!」
「…………」
ライトは少し考える。
「それなら……」
「何よ?」
「本気でやってもいい?」
「…………」
「…………」
「…………」
リオネの顔が引きつった。
「……さっき、本気を出さないって言ったじゃない」
「だって」
ライトは漆輝を抜く。
「君が強いなら、俺も……」
ライトは構えた。
「少し試してみたい」
その瞬間、空気が変わった。
リオネの表情が凍る。
「…………」
――怖い
生まれて初めて、そう感じた。
目の前の少年。
銀髪
碧眼
美しい顔
その姿だけを見れば、人外の美しさは有るものの、人族の少年にしか見えない。
だが、剣を構えた瞬間。
「…………」
何かが変わった。
まるで、目の前にいるのが人ではないような……
獣人として生きてきたリオネだからこそ分かる。
――この男
「……強い」
リオネの身体が震える。
恐怖
それと同時に。
「……楽しい」
笑みが浮かぶ。
「あなた……」
「何?」
「やっぱり……」
リオネは大剣を握り締める。
「面白い!!」
「…………」
ライトは苦笑した。
「じゃあ……」
「始めようか」
次の瞬間
「――行くわよ!!」
リオネが大地を蹴った。
「獣闘術――」
ドンッ!!
その身体が一瞬で加速する。
「瞬牙!!」
「速い……!」
ライトが目を見開く。
――速い
想像以上だった。
リオネの身体が一瞬で視界から消える。
「――そこ!」
ライトが漆輝を振る。
キィィィィン!!
大剣と漆輝が激突する。
「なっ!?」
リオネの瞳が見開かれる。
ライトは片手で、リオネの大剣を受け止めていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「嘘……」
「いや」
ライトは少し困ったように言う。
「結構速いよ」
「…………」
「本当に」
「…………」
「…………」
「……馬鹿にしてる?」
「してない」
「なら!」
リオネが笑う。
「これはどう!?」
全身の筋肉が膨張する。
獣人特有の獣化。
「――獣化!」
一瞬、リオネの身体から凄まじい魔力が噴き出した。
金色の毛が腕を覆う。
瞳が鋭くなる。
爪が伸びる。
そして。
「これが……」
リオネが笑う。
「獣人族の力よ!!」
「…………」
ライトは目を見開いた。
「なるほど……」
「これが獣化……」
興味深い……
身体能力
魔力
感覚
全てが跳ね上がっている。
「…………」
ライトの中で、何かが動き始めた。
――自分にはない力
――自分が知らない戦い方
「面白い」
ライトは笑った。
「もっと見せてよ」
「……!」
リオネの瞳が輝く。
「言ったわね!後悔しないでよ!」
「もちろん」
「じゃあ――!」
二人が同時に踏み込む。
獣人国の空に、二人の刃が交差した。
「「――いくぞ!!」」
轟音
衝撃波
大地が揺れる。
そして……その戦いを見守る獣人達の中、一人の老人が静かに目を細めていた。
獣人国の重鎮。
リオネの祖父。
現アルヴァニア国王。
「…………」
「銀髪の人族……」
老人はライトの戦いを見つめる。
「なるほど……」
ライトの身体から漏れ出す。
僅かな……ほんの僅かな光と闇の魔力。
王の獣耳が動く。
「……あの力」
そして、その目が鋭くなる。
「まさか……レガリア……」
獣人国の王は、まだ誰も知らないライトの正体に、いち早く気付き始めていた。
――この日
勇者の息子に転生した少年は、獣人国での初めての「友」と出会うことになる。
そして、このおてんばな獣人族の王女との出会いが、後に獣人国の運命を大きく変えることになるとは、この時のライトはまだ知らなかった。




