第119話 獣人の国
――獣人国アルヴァニア
そこは、人族が容易に足を踏み入れることのできない国だった。
外部の者を拒絶するかのような巨大な山脈と深い森。
そして、その奥に広がる広大な大地。
狼族
虎族
豹族
熊族
兎族
狐族
鳥人族
そして、その他数多くの様々な種族が暮らす、獣人達の楽園。
しかし、その国は、長い年月にわたって外部との交流を極端に制限していた。
理由は単純だった。
他の種族を……信用していないからだ。
――アルヴァニア王都
その城下町を、一人の青年が歩いていた。
銀色の髪
蒼い瞳
整いすぎた顔立ち
そして……明らかに周囲とは違う雰囲気。
「…………」
「…………」
「…………」
歩く
ただ歩くだけなのに、視線が集まる。
狼族の青年が振り返る。
虎族の男が足を止める。
兎族の少女が、隣の友人へ小声で話しかける。
「ねぇ……」
「何?」
「あの人……人族よね?」
「……たぶん」
「なんで人族がいるの?」
「知らないわよ」
「というか……」
兎族の少女が、ライトをじっと見つめる。
「すごく綺麗……」
「そこ?」
「だって……」
「…………」
ライトは歩きながら、心の中でため息を吐いた。
――目立っている
しかも、ものすごく……
「……失敗したな」
ライトは小さく呟く。
そもそも、獣人国へ来たのには理由があった。
「修行場所としては、悪くないと思ったんだけどな……」
獣人族
その身体能力は、人族とは比較にならない。
種族によっては、生まれながらにして人族を遥かに超える身体能力を持つ。
さらに、獣人国には独自の武術体系が存在する。
剣術
体術
獣闘術
そして――
「獣化……」
ライトは呟く。
自分が知らない戦い方。
自分が知らない力。
ここには、自分が求めるものがあるかもしれない。
だからこそ
「まずは、この国で……」
「……おい」
「…………」
ライトが足を止める。
声がした。
振り返る。
そこには、数人の獣人が立っていた。
全員、武装している。
先頭に立っているのは、虎族の大男だった。
「お前」
「…………」
「人族だな?」
ライトは答えなかった。
「この国に人族が入ることは禁じられている」
「いや……」
ライトは困ったように頭を掻く。
「入国できたんだけど」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
虎族の男の眉間に皺が寄る。
「そういう問題ではない!」
「え?」
「どうやって入った!」
「普通に門から」
「門番は何をしていた!?」
「知らないよ」
ライトは肩をすくめる。
実際、ライトは獣人国の正規の入国手続きを済ませていた。
ただし。
「……お前」
虎族の男が目を細める。
「何者だ?」
「ただの旅人だけど」
「嘘をつけ!」
「いや、本当に」
「お前から感じる魔力……」
虎族の男の顔が険しくなる。
「普通の旅人が持つものではない」
「…………」
ライトは黙った。
しまった。
確かに、聖魔王化を解除しているとはいえ、自分の魔力は隠しきれない。
しかも、ライト自身が自覚している以上に光と闇、二つのレガリア……その存在は、近くにいる者へ異質な感覚を与えてしまう。
「……怪しいな」
「…………」
「お前、他国の刺客か?」
「違う」
「ならば何故、この国へ来た?」
「修行」
「修行?」
「そう」
ライトは即答した。
「強くなるために来た」
「…………」
虎族の男が呆れた顔をする。
「ふざけているのか?」
「真面目だけど」
「人族が、我が国へ来て修行だと?」
「うん」
「…………」
「…………」
「…………」
「……帰れ」
「嫌だ」
即答だった。
虎族の男の額に青筋が浮かぶ。
「貴様……!」
「いや、だって」
ライトは周囲を見る。
「せっかくここまで来たんだし、獣人族の戦い方を学びたいんだよ」
「…………」
その言葉に、周囲の獣人達がざわついた。
「獣人族の戦い方を……?」
「人族が?」
「馬鹿にしているのか?」
「…………」
ライトは首を傾げる。
「何で怒ってるの?」
「お前……」
虎族の男が一歩前へ出た。
「獣人族の武術を学びたいと言ったな?」
「うん」
「ならば……」
虎族の男が拳を握る。
「我らの武を、その身で知るがいい!」
「え?」
「構えろ!」
「いや、俺は別に戦いたいわけじゃ……」
「黙れ!」
「…………」
ライトは困った。
「……話を聞いてほしいんだけど」
「問答無用!」
虎族の男が踏み込む。
「――獣闘術!」
ドゴォォォォン!!
拳が地面を砕いた。
「…………」
ライトはその場から一歩も動いていない。
正確には、動く必要がなかった。
「…………」
拳がライトの顔面数センチ手前で止まっている。
虎族の男の腕をライトが片手で掴んでいた。
「…………」
「…………」
「…………」
「え?」
虎族の男が呆然とする。
「だから……」
ライトは困ったように言う。
「話を聞いてって」
「…………」
「…………」
「…………」
次の瞬間。
「おもしろそうじゃない!!」
明るい声が響いた。
「…………?」
ライトが振り返る。
人混みが割れる。
そこから現れたのは一人の少女だった。
金色の髪。
獣耳。
そして。
大きく揺れる尻尾。
身に纏っているのは、王族を思わせる豪華な衣装。
しかし、その姿とは裏腹に……
腰には大剣
腰元はスカートを思わせるような軽装
そして何より
「…………」
笑顔……
ものすごく楽しそうな笑顔。
「姫様!?」
虎族の男が叫ぶ。
「なぜここに!?」
「だって!」
少女は楽しそうに笑う。
「人族が来たって聞いたから!」
「だからって……!」
「決まってるでしょ?」
少女はライトを見る。
キラキラと輝く瞳。
「決闘よ!」
「…………」
ライトは固まった。
「……はい?」




