第11話 勇者の行方
初めての作品で、手探りで執筆しておりますので内容において、度々改変などがされております。
ご不便をお掛け致しますが、温かい目でご覧頂けると幸いです。
勇者一行が魔王国を去った理由――。
それは、俺と魔王国を守るため。
ベイルは静かにそう告げた。
そして、その言葉を聞いた瞬間、俺はある結論に辿り着く。
『……それって、アストリア王国の侵攻は今回が初めてじゃないってこと?』
『その通りです』
ベイルは重々しく頷いた。
『勇者一行が我が国で暮らし始めて半年ほど経った頃、アストリア王国から一通の書状が届きました』
『内容は?』
『勇者一行を即時解放せよ――というものでした』
『解放って……』
思わず呆れた声が漏れる。
まるで誘拐犯扱いじゃないか。
『当然、勇者達が魔王国に留まっていたのは彼ら自身の意思です。その旨を伝えました。しかし王国は納得せず――』
ベイルの表情が険しくなる。
『軍を差し向けてきたのです』
『……マジか』
『勇者を救出するという名目で』
『話が通じない相手だね』
『ええ。全くです』
ベイルは苦々しく頷く。
『もちろん全て撃退しました。魔王様も侵略者には容赦なさいませんでしたから』
そこまでは予想通りだった。
しかしベイルの表情は晴れない。
『ですが……とにかくしつこかったのです』
『しつこい?』
『何度も、何度も、何度も攻めてきたのです』
その言葉には実感がこもっていた。
『兵力は多いですが、脅威というほどではありませんでした。問題は執念です。昼夜を問わず侵攻を繰り返してきた』
『うわぁ……』
『撃退してもまた来る。まるで湧いて出る害虫のようでした』
本当に嫌だったのだろう。
ベイルは遠い目をしている。
『……大変だったんだね』
『ええ』
心底疲れた顔で頷いた。
『そして、その光景を見続けた勇者アレン殿は決断されたのです』
ベイルは続ける。
『これ以上、自分達のせいで魔王国に迷惑は掛けられない――と』
『……』
『国王を説得するため、仲間達と産まれたばかりのライト様を連れて王国へ向かわれました』
『必ず戻る』
そう約束を残して。
その言葉に胸がざわつく。
嫌な予感がした。
『……でも、戻らなかったんだよね?』
『いえ』
ベイルは首を横に振った。
『一度だけ戻って来られました』
『え?』
予想外の答えだった。
『ただし――』
ベイルの表情が沈む。
『戻って来た勇者アレン殿は、誰が見ても異常な状態でした』
『異常?』
『全身傷だらけでした。まるで死地から逃げ帰ってきたような姿で……』
俺は息を呑む。
『その腕には、ライト様が抱かれていました』
『俺を……?』
『はい』
ベイルは頷く。
『アレン殿はライト様を我々に託し、傷付いた身体を少し休めた後――再び王国へ向かわれました』
『王国がライト様と魔王国に手を出せないようにしてくる』
そう言い残して。
『……誰かに襲われたの?』
『はい』
ベイルは即答した。
『相手はアストリア王国です』
俺の拳が自然と握られる。
『勇者達は罠に嵌められました』
『罠?』
『勇者を救出するという名目の戦争は、最初から勇者達を王国へ呼び戻すためのものでした』
『……っ!』
『自分達のせいで魔王国が被害を受けているとなれば、勇者達は戻るだろう――そう考えたのでしょう』
最低だ。
心の底からそう思った。
『そして王国へ戻った勇者一行は、その場で国家反逆罪として拘束されました』
『はぁ!?』
怒りが込み上げる。
『勇者を助けるためじゃなかったのかよ!?』
『それこそが罠だったのです』
ベイルも悔しそうに吐き捨てた。
『拘束された勇者達は、ある実験への協力を強要されたそうです』
『実験……?』
『詳細は不明です』
だが、その言葉だけで十分だった。
俺の頭の中では、すでに一つの仮説が形になり始めていた。
そしてベイルも同じ考えに至ったらしい。
『そういえば……』
突然、ベイルの表情が変わる。
『あのゴーレムです』
『ゴーレム?』
『魔王様を追い詰めた五体です』
ベイルの声が震える。
『数が勇者一行と同じだったのです』
俺は黙って続きを待つ。
『勇者、聖女、魔導王、剣王、盾王』
『そしてゴーレムも五体』
『白銀の剣士』
『薄紅色の聖職者』
『真紅の魔導士』
『黄金の盾兵』
『瑠璃色の剣士』
俺の背筋を冷たいものが走った。
『武器も同じ……?』
『はい』
ベイルは頷く。
『勇者達が使っていた武器種と完全に一致していました』
――繋がった。
全てが。
勇者達を捕らえた王国。
謎の実験。
消息不明の勇者一行。
そして戦場に現れた五体の異形。
『……そうか』
俺は小さく呟く。
『王国は勇者一行を使って、生体兵器を作ったんだ』
沈黙が落ちた。
誰も否定しない。
否定できない。
『そして……』
さらに最悪の可能性が頭をよぎる。
『俺を狙う理由も同じか』
『――っ!!』
ベイルが目を見開いた。
『高い神聖力を持つライト様を……』
『次の素材にするつもりなんだろうね』
胸の奥が冷える。
怒りを通り越して寒気がした。
そんなことが許されるのか。
人を兵器に変えるなど。
まして親父達を――
その時だった。
――バンッ!!
エントランスの扉が勢いよく開いた。
『はぁ……はぁ……!』
全員が振り返る。
そこには全身を汗で濡らした一人の魔族が立っていた。
『エド!!』
アローラが駆け寄る。
黒い翼を持つ鳥の魔族。
魔王軍斥候部隊隊長エド。
彼は撤退後も戦場に残り、魔王の行方を追っていた男だ。
『エド……どうだったの……?』
アローラの声は震えていた。
知りたい。
だが聞きたくない。
そんな声だった。
エドは荒い呼吸を整えながら顔を上げる。
そして――
『魔王様は……』
全員が固唾を呑む。
『まだ生きている』
その瞬間。
『――!!』
絶望に沈んでいた空気が一変した。
『エド!! 本当だすか!?』
ホイズが飛びつくように詰め寄る。
『ああ……間違いねぇ』
エドは力強く頷いた。
しかし。
その表情は決して明るくない。
『ただし――』
嫌な予感がした。
『王国軍に捕らえられた』
空気が凍る。
『連中は魔王様を連れて撤退した』
誰も言葉を発せない。
だが――。
生きている。
その事実だけは確かだった。
『父ちゃん……』
俺は拳を強く握り締める。
王国。
生体兵器。
勇者一行。
そして捕らわれた魔王。
全ての点が一本の線で繋がり始めていた。
そして俺の中で、一つの決意が静かに形になっていく。
――必ず助け出す。
たとえ相手が王国だろうと。
世界そのものだろうと。
俺は父ちゃんを取り戻す。




