第100話 シルヴァリス攻防戦
――神樹の国シルヴァリス。
焦げた森の上空を、無数のワイバーンが魔王騎士団を乗せて轟音と共に駆け抜ける。
その姿を見上げ、神樹の国近衛軍総司令は思わず目を見開いた。
「魔王軍……!」
「本当に来たのか……!」
戦場へ響く咆哮。
ベイルは魔剣スレイブを高く掲げる。
「魔王竜騎士団!」
「目標――人造ゴーレム部隊!」
「エルフ軍への接近を許すな!」
『応ッ!!』
数十騎の竜騎士が左右へ散開する。
まるで黒い嵐だった。
ワイバーンは人造ゴーレムの頭上すれすれを滑空し、その背から魔王軍騎士達が一斉に飛び降りる。
轟ッ!!
巨大な剣が振り下ろされる。
鋼鉄の肩が砕け、火花が飛び散る。
しかし――
ギギギギ……
人造ゴーレムは止まらない。
赤く光る魔力核が唸りを上げ、巨大な腕を振り回す。
「退け!」
一体のゴーレムが拳を叩きつける。
地面が爆ぜ、魔王軍兵士数名が吹き飛ばされた。
「硬い!」
「通常の兵士型じゃない!」
ベイルは即座に状況を見抜く。
「魔力装甲型か……!」
王国軍は、この戦いのために改良型ゴーレムを投入していた。
通常の剣では装甲を破れない。
その時だった。
空一面へ紫黒の魔法陣が幾重にも展開される。
アローラが静かに右手を掲げた。
「魔法師団」
「照準――魔力核」
彼女の瞳が紅く輝く。
「一点集中」
「撃て」
次の瞬間。
数百本もの紫黒の雷槍が空を埋め尽くした。
ドドドドドドドッ!!
豪雨のように雷の槍が降り注ぐ。
その雷の槍は、ゴーレムの装甲ではなく、胸部の魔力核だけを正確に撃ち抜いていく。
「なっ……!」
王国軍指揮官が叫ぶ。
「核だけを狙っているだと!?」
一体。
また一体。
魔力核を失ったゴーレムが力なく崩れ落ちる。
「凄い……」
エルフ兵達から思わず声が漏れる。
「これが魔王軍魔法師団……!」
だが、アローラは表情を変えなかった。
(まだ多い……)
森の向こうから、さらに人造ゴーレムが姿を現す。
十体
二十体
三十体――
まるで終わりがない。
◇
「前へ!」
神樹の国近衛軍団長が剣を掲げる。
「魔王軍が道を開いた!今こそ神樹を守る!」
『おおおおおっ!!』
エルフ兵達が一斉に駆け出す。
風の魔法。
木々を操る精霊術。
無数の矢が空を覆う。
その横を、魔王竜騎士団が突き抜ける。
「左翼を援護!」
「エルフ軍を孤立させるな!」
ベイルの指揮は簡潔だった。
だが、その一つ一つが正確だった。
ワイバーン部隊は常に上空から戦場全体を見渡し、押される部隊へ即座に増援を送り込む。
まるで一つの生き物のような連携。
「これが……」
エルフ近衛軍団長は息を呑む。
「魔王国騎士団長……!」
◇
一方
王国軍本陣。
「報告!」
「魔王軍援軍到着!」
「竜騎士部隊を確認!」
司令官は地図を睨む。
「想定より早い…..だが問題ない」
冷静だった。
「第三機甲ゴーレム隊を投入しろ」
その命令と共に、大地が震え始める。
ドン……
ドン……
森の奥から現れたのは、通常の二倍近い巨体を持つ人造ゴーレム。
両肩には魔導砲。
両腕には巨大な盾。
完全な攻城戦仕様だった。
広く散開する巨大なゴーレム。
次の瞬間。
ズガァァァァン!!
両肩の魔導砲が火を噴く。
爆炎が森を呑み込み、エルフ軍前線が吹き飛ばされた。
「ぐあああっ!」
「結界が……!」
近衛魔導師達が膝をつく。
アローラの瞳が鋭く細まる。
「あれは危険ね…..通常魔法では止めきれない」
ベイルも頷いた。
「あれを止める」
「全軍、目標変更」
しかし。
その瞬間だった。
巨大ゴーレムの前へ、一人の老エルフが歩み出る。
白い長髪。
深緑の法衣。
神樹の国宮廷魔導長老だった。
「……若き者達よ」
静かな声が響く。
「時間を稼いでくれ」
長老は神樹へ杖を向ける。
巨大な神樹が淡く輝き始めた。
「まさか……!」
アローラが目を見開く。
「神樹そのものの魔力を使う気?」
ベイルも険しい表情になる。
「命を削る術か」
長老は静かに笑った。
「国を守るためなら……老いぼれ一人の命など惜しくはない」
神樹から溢れる緑の光。
その膨大な魔力が、ゆっくりと長老へ集まり始める。
戦場全体が震えた。
◇
その光景を、遥か離れた帝国学院の研究室でもリーパーが克明に映し出していた。
誰も言葉を発しない。
リリアナは両手を強く握り締め、涙を浮かべながら画面を見つめる。
「長老様まで……」
ライトは静かに映像を見据えた。
「ベイル……」
「アローラ……」
二人なら必ず最善を選ぶ。
そう信じていた。
だが同時に、彼は理解していた。
王国軍が投入している人造ゴーレムは、まだ前線の一部に過ぎないことを。
そして、この戦場のさらに奥には――。
王国軍の本当の切り札が眠っていることを、まだ誰も知らなかった。




