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エピローグ:また、会うために

空は、青かった。


 どこまでも高くて、どこまでも澄んでいる。


 なのに——


 どこか現実味がない。


 風は吹いているのに、時間の流れが曖昧で。

 人の気配はあるのに、距離の感覚が掴めない。


 ここは、そういう場所だった。


「……今日も、変わらないね」


 少女が、軽く空を見上げる。


 銀色の髪が、風に揺れる。


 少しだけ伸びたそれは、昔よりも大人びて見えた。


 ——古小烏コトリ。


 あれから、二年。


 泣いてばかりいた頃よりも、

 少しだけ、前を向くのが上手くなった。


 彼女は、ここにいる。


 クレッセンティアで。


「古小烏先輩」


 後ろから、声がかかる。


 コトリは、少しだけ間を置いてから振り返る。


「……それ、やめて」


 静かに言う。


 少年は、首を傾げる。


「何がですか」


「古小烏も、先輩も」


 少しだけ困ったように。


「どっちも、距離ある感じするから」


 一拍。


「コトリでいいよ」


 さらっと言う。


 少年は、少しだけ考える。


「……じゃあ、コトリさんで」


 少しだけ間を置いて、そう呼ぶ。


 その響きを聞いた瞬間。


 胸の奥で、ふっと何かが重なる。


 ——「苗字で呼ぶのやめてよ!」


 少し拗ねたような声。


 笑いながら、隣に立っていた少女。


 コトリは、一瞬だけ目を細めて。


 それから、小さく笑った。


「うん、それでいい」


 どこか、懐かしさを含んだ声だった。


「で、さっきからそこ見てるけど」


 少年が、視線の先を見る。


「好きなんですか?」


 コトリの視線の先。


 そこには、空の縁のような場所があった。


 落ちることはない。


 でも、どこにも繋がっていない。


 そんな“境界”。


「うん」


 コトリは、あっさり頷く。


「なんか……落ち着くから」


 少年は、少しだけ目を細める。


「そういうものですか」


「うん、そういうもの」


 コトリは、軽く笑う。


「そのうち、君も分かるよ」


 自然な言い方だった。


 押し付けるでもなく、否定するでもなく。


 ただ、そういうものだと知っているように。


「……まぁ、いいですけど」


 少年は、それ以上は踏み込まない。


 少しだけ、空を見る。


 同じ景色を。


「そういえば」


 コトリが、ふと思い出したように言う。


「モンステラから来たんだよね」


「……まぁ」


 少年は、短く答える。


「それがどうかしました?」


「ううん」


 コトリは、少しだけ遠くを見る。


「懐かしいなって」


 一拍。


 そして——


 ふと、思い出したように言う。


「コトリさんの村って、どの魔王の領域だったんですか」


 少年の問い。


 何気ない調子。


 コトリは、少しだけ間を置く。


「……さあ」


 視線を空に向けたまま。


 一瞬だけ、考える。


「聞いたことはあるんだけどね」


 小さく、首を傾げる。


「なんか……思い出せない」


 不思議そうに。


 でも、深く気にする様子もなく。


「……そうですか」


 少年は、それ以上は追わない。


 ただ、その言葉だけが、どこかに残る。


 風が、少しだけ揺れる。


「で、コトリさん」


 少年が、横から言う。


「今日はどうします?」


「んー……どうしよっか」


 少し考えて。


 それから、笑う。


「じゃあさ」


 前を見て。


「街の方、行こっか」


「いいところ、あるから」


「そうですか」


 少年は、短く返す。


 二人は、並んで歩く。


 浮かぶ街の中を。


 どこにも属さない場所を。


 時間の感覚が曖昧な、この場所を。


 それでも——


 確かに、進んでいく。


 コトリは、ふと空を見上げる。


 そこには——


 丸い光が浮かんでいた。


 やわらかく、静かに。


 どこか懐かしく。


「……きれいだね」


 ぽつりと、呟く。


「なにがですか?」


 少年が聞く。


 コトリは、少しだけ笑って。


「ううん、なんでもない」


 前を向く。


 今度は、自分の足で。


 その先に、まだ見ぬ未来があることを知っているから。


 そして——


 また、会うために。


 この物語は、まだ続く。

続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。

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