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17話 約束は、ここにある

「さぁ、選べよ」


 ナリマサの声が、静かに落ちる。


 戦うか。

 引き渡すか。


 それだけの話だった。


 サトリは——迷わない。


「……何度聞く」


 低く、言う。


「守ると決めてる」


 一歩、前に出る。


「これは——約束だ」


 一瞬、目を閉じる。


「猫との、約束だからな」


 思い出す。


 あの日のことを。


 なんでもない日だった。


 いつもと同じ、穏やかな時間。


 その中で——


「……そろそろですね」


 メイが静かに言った。


 空気が、少し変わる。


 サトリが立ち上がる。


「ほんとか!?」


「はい」


 穏やかに頷く。


 サトリは慌てて奥へ向かう。


 だが——


「落ち着け」


 ゴウが低く言う。


「うるせぇ、無理だ!」


 落ち着くどころか、さらにそわそわする。


「……村最強の召喚士が、みっともねぇな」


 ライが呆れたように言う。


 だが——その足も落ち着きなく動いている。


「お前もじゃねぇか」


「うるせぇ」


 短く返す。


 窓の外では、シュンがこちらを見ている。


 様子を伺うように。


 そして——


 ふいに、サトリの頭を軽く噛んだ。


「いってぇ!?」


 驚いて振り向く。


 シュンは静かに鼻を鳴らす。


 少しだけ、落ち着けと言うように。


「……っ、くそ」


 息を吐く。


 それでも、落ち着かない。


 部屋の中。


 猫が、息を荒くしている。


 その手を、あや婆が握っていた。


「猫ちゃん、あと少しだよ」


 優しく、声をかける。


 メイが隣に座る。


「私も支えます」


 手をかざす。


 だが——


「……いいの」


 猫が、小さく首を振る。


「この痛みは……覚えておきたいから」


 一瞬、メイが目を細める。


 そして、柔らかく笑った。


「……分かりました」


 手を引く。


「では、応援だけでも」


 そのまま、そっと寄り添う。


 やがて——


 産声が、響いた。


 その音が、すべてを変えた。


「……生まれたよ」


 あや婆の声。


 優しく、どこか震えている。


 猫の腕の中に、小さな命。


 銀色の髪。

 銀色の瞳。


 サトリが近づく。


 そっと、抱き上げる。


 軽い。


 壊れそうなほどに。


 それでも——確かに、そこにある。


 猫を見る。


 赤ん坊を見る。


 何度も、確かめるように。


「……守る」


 声が震える。


「この二人は」


 一拍。


「一生、俺が守る」


 猫が、少しだけ笑う。


「一人じゃ大変よ」


「この子は、私も守るわ」


 そして——


 少しだけ甘えるように。


「その代わり」


「私のことは、ちゃんと守ってね」


 その顔には、確かな幸せがあった。


 サトリの目から、涙が落ちる。


「……っ」


 止まらない。


「……なに泣いてるの」


 猫が、困ったように笑う。


 あや婆が、くすりと笑う。


 空気が、柔らかくなる。


 その時。


 赤ん坊が、小さく手を伸ばす。


 そして——掴んだ。


 ライの手を。


「……おい」


 ライが、少しだけ目を見開く。


 そして、小さく息を吐く。


「……しょうがねぇな」


「俺も守る」


「なんでだよ!」


 サトリが叫ぶ。


 ライが肩をすくめる。


「それなら」


 メイが柔らかく言う。


「この子は、みんなで守りましょう」


「いいわね」


 猫が頷く。


 あや婆も、小さく笑う。


 その奥に、わずかな影を残したまま。


「……じゃあ」


 猫が赤ん坊を見る。


 優しく、愛おしそうに。


「名前は、コトリ」


「いつか」


 一拍。


「私たちがいなくても」


「高く、立派に飛べる鳥になってね」


 笑い声が重なる。


 温かい時間。


 何も失っていない日常。


 ——それが、日常だった。


 もう、戻らない日常だった。


 そして——現実へ戻る。


「……約束なんだ」


 サトリが拳を握る。


 血が滲むほどに強く。


「猫との」


「……ライ」


 呼ぶ。


 低く。


「切り札、使うぞ」


 ライの目が変わる。


「……白虎か」


「今は契約切れてる」


「お前の身体、持たねぇぞ」


「関係ない」


 即答だった。


「俺はどうなってもいい」


 一歩、踏み出す。


「コトリだけは、助ける」


「……できるわけねぇだろ」


 ライが強く言う。


「俺はあいつに言ったんだよ」


「任せろって」


「お前を死なせるわけにはいかねぇ」


「……約束なんだ」


 サトリが繰り返す。


 静かに。


 重く。


「猫との」


 その一言に、ライが言葉を詰まらせる。


「……守る、でいいんだよな?」


 ナリマサが割り込む。


 面倒そうに。


 だが、確かめるように。


 その時——


「……私が、支えます」


 かすれた声。


 メイだった。


 消えかけの身体で、それでも立っている。


「できる限り……支えます」


 息を整えながら。


「だから」


「……みんなで」


「あの時、守ると決めた命を」


「守りましょう」


 静かに。


 確かに。


 背中を押す。


 ライが、目を閉じる。


 一瞬の迷い。


 そして——開く。


「……分かった」


 低く。


「ただし——」


 サトリを見る。


「絶対、無理すんな」


「多分、俺は自我飛ぶ」


「だから」


「死ぬな」


 短く、それだけ。


 サトリが笑う。


「分かってる」


 その顔に、ライがほんの少しだけ目を細める。


「……死ぬなよ」


 小さく、言った。


 ——バチッ


 雷が、再び鳴る。

続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。

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