18話 約束の果て
——静かだった。
嵐の前のように。
すべてが、止まっている。
「……なぁ」
サトリが、ぽつりと口を開く。
ナリマサを見る。
「引いてくれないか?」
唐突だった。
だが——
真剣だった。
「……は?」
ナリマサが眉をひそめる。
「するわけないだろ」
即答。
「……だろうな」
サトリが、小さく笑う。
そして——
目が変わる。
「後悔するなよ」
一歩、踏み出す。
「こっちは、覚悟決まってんだ」
ライに手を置く。
静かに。
「——白虎」
メイの光が、強くなる。
「……ここまで、持たせます」
ナリマサがそれを見る。
「……なるほど。時間制限か」
少しだけ、構える。
「そういうのは——一番めんどくさいんだよな」
——バチッ
雷が弾ける。
空が歪む。
現れる。
白き巨獣。
雷そのもののような存在。
白虎。
その姿は——
村すら見下ろす。
遠く。
コトリからも見えるほどに。
父が、見せる最後の姿。
「……じゃあ」
サトリの声が響く。
「始めようか」
踏み込む。
——ドォンッ!!
世界が沈む。
ナリマサが避ける。
だが——
風圧だけで、皮膚が裂ける。
「……は?」
理解が追いつかない。
「……チートかよ」
それでも——笑う。
逃げる。
「まぁいいや……削り合いだな」
撃つ。
避ける。
踏み潰す。
大地が壊れていく。
白虎は、圧倒的だった。
だが——
ナリマサも、生き残る。
確実に削られながら。
それでも。
死なない。
「……っ、くそ」
血を吐く。
「マジで、洒落になんねぇな」
その時。
「……サトリ様」
メイの声。
「……ここまでのようです」
光が、消える。
支えが途切れる。
それでも——
白虎は、止まらない。
ナリマサが息を吐く。
「……まだやるの?」
「今なら引けるぞ」
「何回も言ってるけどさ」
「死ぬ必要、ないだろ」
白虎が唸る。
低く。
重く。
そして——
「……父親が」
「子供を守らないなんて」
「選択するわけないだろ」
ナリマサが、少しだけ目を細める。
「……そういうの、一番だるいんだよ」
そして——
「こっちも、切るぞ」
空気が沈む。
ナリマサの気配が変わる。
同時に——
白虎が吠える。
雷が収束する。
すべてを込めた——
咆哮。
ナリマサも構える。
その瞬間。
「……ほんと」
ぼそりと。
「最後まで、面倒なやつだな」
一拍。
「……嫌いじゃないけど」
光が、衝突する。
——ドォォォンッ!!
世界が砕ける。
地面が崩れる。
巨大な穴。
ナリマサの身体が、宙に浮く。
バランスが崩れる。
「……っ、あー」
落ちる。
崩れた地面へ。
体が、持っていかれる。
それでも——
笑う。
「……やっぱりさ」
視線だけ、上へ向ける。
サトリを見る。
「こういうやつ、めんどくせぇんだよな」
一拍。
「……でも、まぁ」
少しだけ、楽しそうに。
「悪くなかった」
そのまま——
落ちる。
闇の中へ。
姿が、消えた。
静寂。
白虎が、崩れる。
雷がほどける。
ライの姿に戻る。
ボロボロの身体。
それでも——
意識はある。
「……おい」
サトリへ近づく。
だが——
その身体は。
崩れていた。
土が、ほどけるように。
静かに。
壊れていく。
「……だから言ったろ」
「約束、守れよ」
サトリが、笑う。
「……悪かったな」
どこか、清々しい顔で。
「……なぁ」
ライが言う。
「コトリに、なんて言えばいい」
サトリが、少しだけ考える。
そして——
「……幸せそうだったって、伝えてくれ」
「……言えるわけねぇだろ」
ライが吐き捨てる。
その時——
サトリが、少しだけ真面目な顔になる。
「……まぁ、なんだ」
少し、照れたように。
「ありがとう、って伝えてくれ」
一拍。
「お父さんとお母さんを」
「お父さんとお母さんにしてくれて、ありがとうって」
ライが、黙る。
そして——
小さく、頷いた。
「……あとは任せた」
サトリの声が、ほどける。
身体が、崩れていく。
風に溶けるように。
そして——
消えた。
その瞬間。
風が吹く。
どこか、懐かしい。
優しい風。
まるで——
二人分の気配が、重なっているような。
猫と、サトリが。
並んで、そこにいるみたいに。
その風は——
静かに。
遠くへ、流れていった。
続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。




