15話 守るために、全部壊すことを選んだ。
息が、重い。
肺が焼ける。
喉が乾く。
それでも——
千代は、剣を振る。
目の前の村人を弾く。
力を込めすぎないように。
斬らないように。
殺さないように。
刃の角度をずらし、衝撃だけで弾き飛ばす。
「……っ!」
それでも——数が多い。
止まらない。
前も、横も、後ろも。
すべてが敵で埋まっている。
終わりが、見えない。
——ギンッ!!
刃を受け止める。
衝撃が腕に響く。
すぐ横。
反射的に振り向く。
そこにいるのは——
「……っ」
ハル。
思考が、止まりかける。
目が合う。
だが。
そこに“ハル”はいない。
虚ろな目。
感情のない顔。
呼吸すら感じない。
ただ——
迷いなく、剣が振り下ろされる。
「……っ、やめなさいよ!!」
弾く。
無理やり、押し返す。
力任せに。
「ずっと一緒って言ったじゃん!!」
叫ぶ。
声が、割れる。
でも——
届かない。
反応は、ない。
ただ。
同じ動きで、また剣が振るわれる。
正確に。
迷いなく。
何度でも。
千代の呼吸が荒くなる。
腕が、重い。
足元が揺れる。
視界の端で、別の村人が迫る。
「……っ!」
刃を弾く。
踏み込まれる。
押し返す。
それでも、次が来る。
終わらない。
「こっちは気ぃ使って斬ってないのにさ!」
息を荒げながら、千代が吐き捨てる。
「向こう、全力で斬ってくるのズルくない!?」
さらに一撃を受け流す。
踏ん張る。
「……ズルいよね」
モグが軽く返す。
足をトントン鳴らしながら。
「じゃあさ」
にやっと笑う。
「土で弾き飛ばして、そのまま潰す?」
「……ダメ!!」
即答。
間髪入れず。
「えー」
「じゃあ、生き埋めは?」
「ダメに決まってるでしょ!!」
叫びながら、剣で押し返す。
「千代が文句言ったんだよ?」
「おだまり!!」
一瞬だけ、間。
その間にも、刃が飛ぶ。
土が弾ける。
呼吸が乱れる。
「……でもさ」
モグの声が、少しだけ落ちる。
「このままやっても、終わんないよね」
千代の動きが、わずかに止まる。
囲まれている。
完全に。
削られていく形。
このままじゃ——
終わる。
「……思ったんだけど」
モグの声が、少しだけ落ちる。
「これさぁ……元凶やった方が早くない?」
千代の動きが、わずかに止まる。
「……元凶?」
短く返す。
刃を弾きながら。
「ほら」
モグが顎で示す。
「あの女でしょ?」
長い銀色の髪。
同じ、銀の瞳。
「……あぁ」
千代が小さく頷く。
理解が追いつく。
「ハル、ああなったのも——」
モグが続ける。
「あの女の子のせいでしょ」
一拍。
千代の中で、繋がる。
点と点が。
原因が。
全部。
「……そうだね」
一歩、踏み込む。
「そっち、潰す」
「だよね」
モグが笑う。
「でもさ」
千代が周囲を見る。
村人。
ハル。
囲い。
「どうやって探すのよ」
この状況で。
モグが、にやっと笑う。
「余裕でいける」
足を、トントンと鳴らす。
リズムを刻む。
そして——
地面を指す。
「……ああ」
千代が理解する。
一瞬で。
「なるほどね」
だが——
すぐに表情が曇る。
「それって」
一拍。
「地下に閉じ込めてる人たち——」
「全部、出すってこと」
モグが言い切る。
軽く。
でも、逃げない。
空気が、重くなる。
選択。
このまま削られるか。
それとも——
全部解放して、壊すか。
誰かが、確実に傷つく選択。
「……」
千代は、目を閉じる。
呼吸を整える。
音が遠くなる。
剣の音も、叫びも。
全部。
そして——
開く。
「……やる」
迷いはない。
「どっちにしろ潰れるなら」
一歩、踏み出す。
「2人で突っ込む!!」
「いいね」
モグが笑う。
今度は、はっきりと。
「そういうの、好き」
そのまま。
地面に手を叩きつける。
「——全部、繋げる!!」
——ゴゴゴゴッ
地面が、唸る。
揺れる。
ひびが走る。
地下で、何かが走る。
道が、繋がる。
封じていた空間が、崩れる。
閉じていた穴が、開く。
迷路が、壊れる。
封じていたものが——
解放される。
「いくよ!!」
モグが叫ぶ。
その瞬間。
地面が、弾けた。
——ドンッ!!
土が吹き飛ぶ。
中から——
村人たちが、一斉に溢れ出す。
落ちていたはずのものが。
封じていたはずのものが。
全部。
数が、増える。
圧が、変わる。
空気が、変わる。
「っ——!」
同時に。
千代とモグの足元が崩れる。
——ズズッ
身体が沈む。
土に飲まれる。
「——潜る!!」
そのまま。
二人は、地下へと消える。
土が閉じる。
痕跡が消える。
地上には——
解放された“それ”だけが残る。
暴れる。
溢れる。
止まらない。
ぶつかる。
叫ぶ。
崩れる。
村が——
音を立てて、壊れていく。
⸻
「……あーあ」
遠く。
それを見ていた女が、呟く。
淡い紫の髪。
静かな場所で。
すべてを俯瞰する位置で。
「そっち選んだかぁ」
小さく、笑う。
「いいね」
その目は——
すべてを分かっているみたいに。
そして——
ほんの少しだけ。
本当に、楽しそうだった。
続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。




