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11話 その目を見た瞬間、終わった

 地面が、呼吸しているみたいだった。


 ——いや、


 生きているみたいに、脈打っていた。


 大きな裂け目から、村人たちが這い出てくる。

 虚ろな目のまま、

 ゆっくりと——確実に、千代へ歩み寄っていた。


 ——ズズッ


 足元で土が、わずかに盛り上がる。


「……来るよ」


 千代が低く言う。


 その横で、しゃがみ込んでいたモグが、にやっと笑った。


 大きく跳び、着地。

 肩を回し、そのまま戦闘体勢に入る。


「任せなって」


 足を、トントンと鳴らす。


「こういうの、得意だからさ」


 遊んでいるような余裕すらあった。


 少し後ろ。

 ハルが剣を構えながら、苦い顔で笑う。


「毎回思うけどさ、なんでそんなに自信満々なの?」


「え……褒め言葉かな?」


「違うわ」


 即答。


 そのやり取りに、ほんの少しだけ空気が緩む。


 だがすぐに、ハルは千代へ視線を向ける。


「……無理すんなよ、千代」


「ハルこそ、さっきから前出すぎ」


「足元すくわれないようにね」


「すくっちゃおうかな」


 モグがニヤリと笑う。


「おい!」


 軽口。


 ほんの一瞬だけ戻る、日常。


「ほんと、あまり前に出るとモグに巻き込まれるからね」


「わかった……けど、性格だから諦めろ」


「直しなさいよ」


 ——その瞬間。


 ——ドンッ!!


 地面が弾けた。


 虚ろな目の村人が、さらに増える。

 迷いのない動きで、千代たちを追い詰める。


「……っ」


 千代が一歩踏み出す。


「モグ!」


「もう繋げてる! いつでもいいよ!」


 モグが地面に手を突き立てる。


 ——ゴゴゴゴッ


 見えない地下で、何かが走る。

 土と土が繋がる。


 穴と穴が連結する。


 地面の下で、


 “道”ができていく。


「落とせ!」


「おっけー!」


 モグが笑う。


 その瞬間——


 村人の足元が崩れた。


「——っ!?」


 抵抗する間もなく、沈む。

 一人、また一人。

 穴へと落ちていく。


「戻らせるな!」


「戻さないよ!」


 モグの指先が動く。

 地中で構造が変わる。

 出口のない迷路へと落とされる。


 完全な封鎖。


「……すげぇな、それ」


 ハルが息を吐く。


「でしょ?」


 モグが得意げに笑う。


「これで、ほとんど落としたはず」


「……ほとんど?」


「全部じゃない」


 一拍。


「まだ、上にいる」


 その言葉通り——


 正気の村人たちが、後方で応戦していた。


「千代! ハル! こっちは任せろ!」


「操られてるだけだ! 殺すな!」


 ぶつかる。


 同じ村人同士で。


 だが——数が違う。


「……っ」


 千代の表情が歪む。

 それでも——


 やがて、動く影は減っていった。

 地下へ封じ込められていく。


 静寂が戻る。


「……よし」


 千代が息を吐く。


「やったじゃん」


 モグが立ち上がる。

 土まみれのまま笑う。


「これでしばらくは出てこれないよ」


「……うん」


 だが——

 千代の視線は止まらない。


「……おかしい」


「なにが?」


「静かすぎる」


 一拍。


「……消えすぎてる」


 気配が、消えすぎている。


「……こんな簡単に終わるはずがない」


 その時。


 ——コツ、コツ


 足音。


 振り向く。


 そこにいたのは——


 一人の女。


 長い銀の髪。


 何も映していないはずの目。


 だが——


 こちらを“見ている”。


 その瞳が、わずかに揺れる。

 光が、歪む。


「……誰」


 女は答えない。


 ただ、ゆっくりと瞬きをする。


 その瞬間——


 空気が、わずかに沈んだ。


 村人の一人が、不自然に首を傾ける。


 次の瞬間。


 動きが揃う。


 まるで、同じ“糸”に引かれたみたいに。


「……っ」


 千代の背筋が冷える。


 あれは——


「……目だ」


 小さく、呟く。


 理屈は分からない。


 でも、本能が理解する。


 あの目は——危険だ。


 女が、わずかに笑う。


「……ああ」


「いい感じ」


「ちゃんと壊れてきてる」


 ——ミシッ


 足元がひび割れる。


 その隙間から——


 手。


「……は?」


 次の瞬間。


 ——ドンッ!!


 地下から、村人が這い上がる。


「……開けられてる」


「中から」


 封じたはずのものが——戻ってくる。


 しかも。


 さっきより、揃っている。


 統一された動き。

 迷いのない足取り。

 操られている。


 完全に。


 女が、ぽつりと呟く。


「やっぱり」


「使いやすいなぁ、これ」


 その瞳が、かすかに光る。


「月縛の瞳って」


 その言葉が落ちた瞬間——


 空気が、さらに冷えた。


「おい!!」


 ハルが走る。


「あんた、何したんだよ!」


「ハル、待って!」


 だが——遅い。


 女が、視線を向ける。


 それだけで——


「……あ」


 ハルの目が、変わる。


 意思が消える。


「……うん」


「これでいい」


 軽く頷く。


 そして、ふっと笑う。


「お姉ちゃんに会うの、楽しみだな」


 ぽつりと。


 本当に、嬉しそうに。


「先、行こう」


 ハルが振り向く。


 そこにいるのは——


 もう“ハル”ではない。


「……嘘でしょ」


 崩れる。


 さっきまでの“勝ち”が。


 完全に。


 数が、増える。

 囲まれる。

 逃げ場がない。


「……これ、やばいかも」


 モグの声が揺れる。


 千代は——考える。


 だが、答えが出ない。


 その時。


「——楽しそうだね」


 場違いな声。


 その瞬間。


 風が、止まった。


 ——音が、死ぬ。


 揺れていた土埃が、空中で静止する。

 倒れかけていた瓦礫が、途中で止まる。


 世界が、切り離されたみたいに。


 千代の呼吸だけが、やけに大きく響く。


 振り向く。


 そこにいた。


 淡い紫の髪の女。


 いつからいたのか分からない。


 まるで——最初からそこにいたみたいに。


「……あんた」


 その女だけが、


 この場で“普通に動いている”。


 他のすべてが、止まっている中で。


 視線が、合う。


 それだけで、


 理解してしまう。


 ——この人は、違う。


「手伝おうか?」


 軽い。


 あまりにも軽い。


 千代は息を吸う。


 迷い——


 切り捨てる。


「……いらない」


 即答。


「まだ負けてないから」


 女が笑う。


「いいね」


「そういうの、好きだよ」


「君は、少しだけいい」


 ほんの少しだけ視線をずらす。


 さっきの銀髪の女へ。


 一瞬だけ。


 意味ありげに。


 そして——


 また千代を見る。


「じゃあ」


 一歩、下がる。


 その動きだけが、この世界で許されているみたいに。


「壊れるところ、見てるね」


 その瞬間。


 止まっていた空気が——戻る。

 音が、戻る。

 土埃が、落ちる。

 時間が、再び流れ出す。


「……っ!」


 千代が息を吐く。


 さっきまでの感覚が、夢みたいに消えていく。


 だが——


 確かに、“何か”がいた。


 前を見る。


「……やるよ」


 その瞬間。


 地面が、再び唸った。

続きが気になったら、ブクマで追ってもらえると嬉しいです。

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