第17話「それぞれの道」
東京 2022年8月下旬〜9月
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1. 公演の余韻
公演が終わってから、一週間が経った。
スタジオには、また静かな日常が戻ってきている。あの熱気はどこへやら、今は数人のダンサーがそれぞれのペースで練習しているだけだ。
でも、確かに何かが変わっていた。
スタジオの雰囲気が、以前より温かくなった。言葉を交わさなくても、お互いを認め合っている。あの公演が、私たちの間に深い絆を築いてくれたのだ。
「舞、おはよう」
真由美がスタジオに入ってきた。彼女も、あの公演に参加した一人だ。
「おはよう。今日は早いね」
「うん。ちょっと早く来て練習しようと思って」
私たちは、挨拶を交わしてから、それぞれの準備を始めた。
公演が終わっても、私たちの日常は続く。レッスンがあり、練習があり、そして、次の目標に向かって進んでいく。
2. イリーナの決断
数日後、イリーナがスタジオに来た。
「みんな、話がある」
彼女の顔は、どこか晴れやかだった。
「私は、日本に残ることにした」
「えっ?」
「ロシアに戻ることは、まだ考えられない。でも、ここで新しいことを始めたいと思っている」
イリーナは、日本でバレエ教室を開くことを決めたらしい。帰国したダンサーたちに教えながら、新しい表現を探す。それが、彼女のこれからの道だ。
「イリーナさん...」
「逃げたわけじゃない。ただ、新しい戦い方を選んだだけだ」
彼女は、そう言って微笑んだ。
「いつか、ロシアに戻る日が来るかもしれない。でも、今はここでやるべきことがある」
拍手が起こった。私たちは、彼女の決断を祝福した。
3. ユリさんの帰国
ユリさんは、パリに戻ることを決めていた。
「ワガノワとパリ・オペラ座、両方のメソッドを学んだことで、新しいものが見えた気がする」
彼女は、荷造りをしながら言った。
「日本での経験は、決して無駄じゃなかった。むしろ、これからの糧になる」
「ユリさん、いつかまた、日本に戻ってきてください」
「もちろん。その時は、また一緒に踊ろうね」
ユリさんは、そう言って飛行機に乗った。
彼女の背中は、自信に満ちていた。
4. 健一さんの新しい一歩
健一さんは、日本に残ることを選んだ。
「母の介護があるからね。でも、それが悪いことじゃない」
彼は、小さなバレエスタジオを開く準備を始めていた。若い世代に、海外で学んだことを伝えたい。それが彼の新しい目標だ。
「舞さん、君も手伝ってくれる?」
「私がですか?」
「うん。ワガノワで学んだ経験は、若い人たちにとって貴重なものだ。一緒に教えてくれないか?」
私は、迷いながらもうなずいた。
「...やってみます」
5. 真由美の目標
真由美もまた、新たな目標を見つけていた。
「私は、もう一度ワガノワに戻りたい」
「えっ?」
「戦争が終わったら、また留学する。今度は、ちゃんと卒業するまで」
彼女の目は、真剣だった。
「そのために、日本でしっかり準備するんだ。ワガノワで学んだことを忘れないために、ここで練習を続ける」
「真由美、すごいね」
「舞だって、何か目標があるんでしょ?」
その質問に、私は少し考えた。
(私は、何がしたいんだろう)
(ワガノワに戻りたい? それとも、日本で何かを始める?)
答えは、まだ見つかっていなかった。
6. ランからの手紙
数日後、ランから手紙が届いた。
「私は、また旅に出ることにした。日本で教えることも楽しかったけど、もっと広い世界を見たいと思ったんだ」
ランは、次の場所を決めていないらしい。ただ、いろんな国を渡り歩き、いろんなバレエを学ぶ。それが彼女の生き方だ。
「あなたたちに出会えて、本当に良かった。いつか、どこかでまた会える日を楽しみにしている」
手紙を読み終えて、私は少し寂しくなった。
でも、それが彼女の選んだ道だ。尊重しなければ。
7. 世界中の仲間たち
その夜、私はスマホで世界中の仲間たちにメッセージを送った。
リンには、「ベトナムでの公演、頑張ってね」と。
ユナには、「韓国での活動、順調?」と。
エマには、「ニューヨークはどう?」と。
シュエには、「中国で元気にしてる?」と。
クロエには、「パリ・オペラ座のオーディション、受かった?」と。
アーニャには、「キーウで、生きている?」と。
それぞれから、返事が届いた。
リン:「公演、大成功だったよ。今は次の舞台に向けて練習中」
ユナ:「母のスタジオで、いろいろ学んでる。次は自分で作品を創りたい」
エマ:「ニューヨークは相変わらず。でも、少しずつ前に進んでる」
シュエ:「踊ってる。それが、今の私のすべて」
クロエ:「パリ・オペラ座、合格した! ワガノワでの経験が生きてる!」
アーニャ:「生きてる。そして、踊ってる。それだけが、私のすべて」
みんな、それぞれの場所で、それぞれの道を歩んでいる。
それが、何よりの励みだった。
8. アーニャの動画
その中で、アーニャから特別なメッセージが届いた。
「舞、これを見て」
そこには、動画が添付されていた。
開くと、地下鉄の駅で踊るアーニャの姿が映っていた。照明は携帯のライト。音楽はスマホのスピーカー。でも、彼女の踊りは、どこよりも輝いていた。
「これが、今の私の舞台。決して大きくないけど、誰かが見てくれている。それが、私の支えだ」
動画の最後で、彼女はカメラに向かって笑った。
「舞も、頑張れ。私たちは、必ずまた会える」
その笑顔に、私は涙が止まらなかった。
(アーニャは、強くなった)
(彼女は、自分の道を見つけた)
9. 舞の答え
あの日から、私はずっと考えていた。
自分は、何をしたいのか。
ワガノワに戻りたいのか。それとも、日本で何かを始めるのか。
答えは、簡単には出なかった。でも、一つだけ確かなことがある。
「私は、踊り続ける」
それが、唯一の答えだった。
形はわからない。場所もわからない。でも、踊り続けることだけは、絶対に諦めない。
「それが、私の道だ」
10. 新たな一歩
9月。秋の気配が、東京にも訪れ始めていた。
スタジオの窓から見える空は、少しだけ高くなった気がする。
「舞、次のステージの話があるんだけど」
健一さんが声をかけてきた。
「何ですか?」
「小さな公演を、またやろうと思ってる。今度は、帰国者だけじゃなくて、日本の若いダンサーたちも巻き込んで」
「いいですね」
「君も、出てくれる?」
私は、迷わず答えた。
「はい。ぜひ」
それが、新たな一歩だった。
何も決まっていない。でも、それでいい。
歩きながら、道は見つかる。
それは、ワガノワで学んだことの一つでもある。




