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EP73 失われたもの

デリケートな表現がちゃんとできているか心配です。


 敵の身体は、球体の物体を残して完全に崩壊してしまう。


「…………」


「終わったの……?」


障壁を展開しながら様子を見ていたマーシーが、魔法を解除して声をかけてくる。


「いや、まだだ……最後の仕上げがいる。来い、お前の力が必要だ……」


「ち、近づいて大丈夫な感じ……?」


 彼女は呼んでもすぐには動かなかった。面倒ではあるがいい警戒心と考えるべきだろう。相手の状況を正しく認識してから行動するのが正解なことは多いはずだ。


「ああ、大丈夫だ。放っておけば再生してしまうが、今すぐというわけではない」


「そ、そっか……」


マーシーは、彼女の背後に横たえられている被害者たちを、一瞥した後こちらへ恐る恐る近づいてくる。


「この丸い球が、鋼魔獣の核だ。よく聞け、これは生命の危機に陥った鋼魔の休眠形態だ。しばらくはほぼ無力だが、この状態でも大気中の魔力を吸収して、やがては復活してしまう」


「え!?そ、それってやばいよね!?今すぐ壊さないと……!」


これが生きているということを知って、マーシーは足を止め、身をすくませる。


「そうしたいのはやまやまだが、厄介なことにこれは強度が高い、物理的に破壊するには、大規模な施設や儀式による魔法の行使が必要だ」


 ハンターたちはこのコアを回収し、破壊はできないまでも復活はしない程度の封印魔法を施して、専門の人員に引き渡し、それを一か所に集め、専用の施設でまとめて破壊したり浄化したりしている。労力がかかるうえに、輸送中の核を狙う鋼魔獣などもいる。そのような危険な方法で対処するしかない。


「じゃ、じゃあどうするの!?このまま復活するのを、のほほんと待ってるわけ!?」


「そうじゃない、物理的な破壊とは別のアプローチで無害化する」


それができるのも魔法少女が対鋼魔戦力として、革新的で有効だと言える理由の一つだ。


「ステッキを向けて、先端に魔力を注ぎながら、これから教える呪文で魔法を行使しろ」


「え、ええ……!?」


さっきまでの頼もしさはどこへやら、彼女は緊張が解けてしまっているようだった。


「落ち着け……準備する時間の余裕はある、魔法少女システムの根幹となる機能でもあるから、ステッキ側で補正もかけてくれる……技術の類はそこまでいらない」


「そ、そう……」


マーシーは俺の説明に納得したようなので、具体的な手順を教えて実行させる。


「あ、プラッテ・アドハック・アクア……」


マーシーが構えたステッキから、暖かい光のシャワーが放出され、核の中でくすぶる邪悪な魔力を、打ち消して浄化する。


“スゥー……”


銀色の球体だった、それは無色の白い物体に変わる。


「よし、ゼロ化は完了した。この鋼魔は完全に無害化された!」


俺は彼女と周りの妖精たちに、危険が去ったことを知らせる。


「~~~!?」


俺の宣言を聞いて、マーシーは地面にへたり込んでため息をつく。その拍子に彼女は光に包まれて、元の姿……リヴァリエとしての姿に戻る。


「あへ、戻った……?」


「おい、リヴァリエ……だったか?この一連の戦いの流れをよく覚えておけ」


「え、覚えておけってどういうこと!?」


「お前にはこれから、このような戦いを繰り返してもらうことになるからな」


「はぁ!?そういうことそんなの聞いてないんだけど!?」


驚いたリヴァリエは、疲れを感じていないような様子で俺に詰め寄った。至近距離に来た彼女からは、花のモノであろう甘い香りがした。


「それは……」


「おーい、見ていたぞ!あんた、すごいハンターだな!」


近くに隠れていたであろう、中年ほどに見える植物妖精がこちらに声をかけてきた。


「ああ、俺は従者にすぎんが、この隣の『マーシー』は有力なハンターになるだろう。よければ名を広げておいてくれ」


「んあ?ん~、まぁ、わかったぜ」


「ちょ、ちょっと勝手に何言ってるのよ」


俺が野次馬の対応をしていたところで、リヴァリエはさらに文句を言おうとしていた。


「おい!誰か来てくれ!?」


ただ、俺とリヴァリエにとって決定的な出来事が、そこで起こってしまう。


「お父さんお母さん!?セレス!?」


声のした方向は、鋼魔から分離させた妖精たちが横たえられているところだった。様子を見ており無事だった妖精が助けを呼んでいる。

すでに意識を取り戻し、立ち上がることができている個体がいるのに対して、リヴァリエの近親者たちはそうではなかった。


「う゛ぅう……!?」


リヴァリエは、呻きながら身もだえている両親と弟と思われる個体に駆け寄ってその様子を見る。


「みんな、しっかりして!?ね、ねえぇ!あなたこれ、どうなってるの?」


 リヴァリエは鬼気迫る表情を俺に向けて、何が起こっているのかを聞いてくる。遠目に見るリヴァリエの家族に外傷はない様子だった。代わりに体の一部が銀色に変色してしまっていた。


「同化への拒絶反応だな……この様子だと助からない……」


「そんな!ダメ!ダメよ!何とかして!何とかしてよ!」


 俺の見解を聞き、気が動転した様子のリヴァリエは俺に体当たりする勢いで縋り付いて家族の助命を求めてくる。しかし、俺にできることはない。もともと金の属性と相性が悪い妖精たちは、鋼魔と分離できたとしてもダメージが残ってしまうことがある。そしてそれは、俺程度が使える回復魔法ではどうでもできない。


「イヤーーー!」


金切り声を上げて助けを求めてくる彼女に、俺はできることはないと伝えることしかできなかった。

 そして、周りの妖精が焼け石に水の回復魔法をかけるも効果がなく、最初にリヴァリエの母、次にその父と力尽きて動かなくなり、その生命活動を終える。そのたびにリヴァリエは声を上げて泣き、縋り付いてその死という現実を拒絶しようとした。

 しかし、彼女は目の前の現実から逃避することはできなかった。


「お姉ちゃん……助け……」


「セレス!セレス、ダメ!死なないで!私を一人にしないで!」


 リヴァリエは今にも意識を閉じようとしている弟の手を握って、生きるように声をかける。だがやはりその願いは届かずに、弟もこと切れてしまった。

 リヴァリエは、空を裂くような鳴き声を上げ、涙を流し続けた。知り合いと思われる妖精が肩をさすって寄り添っていた。

 生物にとって死は避けられないもの、しかし、共同体を構成する近親者が寿命でもない要因で死ぬというのは相当なストレスであろうことは理解できる。泣くというのはストレスに対する体の防衛反応でもある。気が済むまで泣かせてやるべきだろう。

 そう考えた俺は、何もせず一定の距離を取って彼女の様子を見ていた。

 

 「―――!―――!」

 

 ただなぜだろう、命のエネルギーをすべて吐き出すように全身で悲しみを表現する、その声聞きたくないと思っている自分がいる。その姿を見たくないと思っている自分がいる。それが合理的なことではないのに俺はなぜそう思うのだろう?俺の中に回答不能の疑問が生まれた。しかし、その衝動は理性で我慢できないほどのモノではなかった。次にパラレスに会ったときにでも聞いてみようと、結論づけた。

 

 最終的に、リヴァリエの家族を境界線として同化されていたものは助かったものと、そうでないものに分かれた。同化されていた時間の差が生んだ違いだろう……妖精を敵のリソースにされるという最悪の状況は避けられたが、味方が多い方がいい。今後はより迅速な救出ができるように改善していかなければいけないだろう。

 茫然自失になったリヴァリエを、周りの妖精は何とか慰めようとしていたが、やがて現実を受け入れるまでそっとしておこうという方針に切り替わり、彼女家族の遺骸を彼女の家の前まで移動させ、他の者たちは各々鋼魔からの被害の復旧作業に入っていった。

 俺自身は面倒ごとを避けるため、隠ぺい魔法で姿を隠しその間に人間の姿に戻った。そして姿を消したまま最低限リヴァリエが自害などしないように見守っていた。

 

 「…………」

 

 リヴァリエは、半壊した自宅の辛うじて屋根として機能するような穴の中に入って、そこから外に横たえられ、布を掛けられた家族の骸をただ見ていた。



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