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EP74 与えた傷

アドバイスを受けて、あらすじに手を加えてみました。


「おい、お前のために俺ができることがあれば、何でもやってやる」


 俺は姿をさらして、リヴァリエに声をかける。契約者のコンディションの調整は俺の任務の一つ。放置が最適解である可能性もあるが、できることはないのか確認するぐらいのことはするべきだ。


「あなた、まだ居たんだ……」


リヴァリエは灯りを付けることもなく脚を抱え込む形で闇の中で座っている。俺の目が特殊でなかったらリヴァリエが顔をこちらに向けていることには気づけない。戦闘の余波か、家のダメージのせいか、その顔はひどく汚れていた。そして、そうでなくても血色が悪いことがすぐに見て取れる。メンタルの状態が、相当に悪いようだ。

 俺はつたないながら、フォローの言葉を掛ける。


「目的は未達成に終わったが、お前は最善を尽くした。今回の経験は次につながるだろう……」


「……次……?」


返答がくるかどうかすら分からなかったが、少しの間を置いた後、反応があった。俺はこれでいいのだと判断し、言葉を続ける。


「そうだ、次だ。次に鋼魔と戦う時には説明の必要もないだろう。今後戦う鋼魔が人間を取り込んでいたとしても、次は迅速に分離することができる。今回の失敗は無意味では……」


“ざざっ……!”


 俺が言葉を紡いでる途中だった。意外なほど強烈な勢いでリヴァリエは立ち上がる。言葉選びは間違ってないか……?


“ガンッ……!”


「ああっ……!」


 完全に想定外の事態だったのでもろに左頬を殴られた。そして、声を上げたのはリヴァリエの方だった。人間形態の俺は戦闘形態よりは柔らかく造ってあるが、強い衝撃などを受けると、瞬間的に硬化する機能がある。思いっきり殴ったようなので、彼女の拳の方が傷ついてしまったかもしれない。


「お、おい!大丈夫か!?どうしたんだ?何か気に障ることでも言ってしまったか?」


 俺はうずくまって右の拳を抑え、震えながら呻いている彼女に近づいて、怪我の具合を確認しようと手を伸ばす。


「触らないでよ、人でなし!」


そう言って彼女は差し出した手を振り払った。裂けた皮膚から血の飛沫が飛び、俺の衣に付着する。

 一瞬見ただけでも、相当な怪我をしていると分かった。そちらの手で振り払うほど俺を拒絶したいということなのか?

 殴る時の彼女の表情、リンクしていた時と真逆の印象だった。視線に温度などないはずなのに、冷たい意志を感じた。それは精神リンクを通して繋がっていた時と、ある意味真逆で、困惑する。敵意を向けているという意味では、鋼魔も俺も変わらないのかもしれない。それでもあの時よりも壮絶な感情を俺に向けられている気がする。

 そう自覚した時、俺は言いようのない感触を覚える。これは強い感情を向けられたことで、俺の中にも何かの感情が想起したということだろうか?分からない、自分自身の状況も、これが感情だとしてどんな名前を持つものかも……ただ俺はこの感情を抱いている現状から逃げたいと思っていることだけは分かった。


「次って何よ、次って……!お母さんも、お父さんも、セレスもみんな死んじゃって、もう帰ってこない!私の家族はもういない!あんたの口車に乗って戦ったけど何の意味も……なかった……!うっ、うぅ……!」


叫ぶ声はすでに涙声で、言い終えるころにはほとんど泣き声に変わっていた。

 俺は、たとえ親類の救出が叶わなかったとしても、今回の経験は次に活かせるから無意味ではないと伝えたかった。

 だがそもそも、彼女にとっては救出こそが目的で、戦うことは手段でしかなかった。そして彼女は決定的なものを失ってしまったようだ。恐らく、そう……家族と呼ばれるもの。その喪失は彼女にとって次に取り返せるものではないのだろう。


「すまない……俺の力不足で目的を果たせなかった。そして心について理解していない俺の言動で、お前の心を傷つけてしまったのなら申し訳なく思う」


俺は自分の中にある謝罪の言葉を組み合わせて、謝るという行為を実行してみる。これで合っているのか正直自信がない。


「…………」


返答はない。それでもいい、守るべきと定められたものをあろうことか傷つけてしまったとしたら、償いをしなければならない。謝るという行為がその一環になってくれるといいが……。

 心……、精神における知識や意志、そして感情による働きを複合的に表す概念。パラレスに俺が持つことを望んだもの。逆に言えば、今の俺が持っていないと考えられるものだ。何より魔法少女と俺のようなゴーレムの、力の源になると教えられたものでもある。

それは、リヴァリエとリンクしたときに触れたものがそれなのだとしたら、複雑であいまいで、繊細だ。一朝一夕で理解できないうえに、きっとひどく壊れやすい。慎重に扱わなければいけないだろう。


「…………」


 リヴァリエは俺を拒絶し、黙り込んでいる。彼女の大事な部分を踏みにじってしまったのなら、それはしょうがないことだろう。それでも彼女を放っておくことはできない。彼女を守ることが俺の存在意義だ。


「俺の言葉は無視していい……ただ手当はさせてくれ」


彼女の右手は血を流している。感触から言って骨にもダメージが入っている。


「いい……このまま死んだってかまわないから……私のために何でもしてくれるっていうなら、かまわないでよ。私の前から、消えて」


彼女はきっぱりと断ってくる。


「それは、両方とも聞けない頼みだ」


「なんでよ!あなたは私のなんだっていうのよ!」


きっ、とあの冷たく鋭い視線を向けてくる。

 正直不快だ、この胸中の違和感は何なのだろう、彼女とリンクした時の感触を参照すると、この感情を恐怖と呼ぶのだろうか?それも違和感がある。彼女は今の俺にとって脅威ではないはずなのに、何故こんな感情を抱いているのか。

 それでも、目の前の現実から逃げることはできない。


「俺は、先刻お前と契約した。だから、俺にとっての最優先事項は、お前を守ることだ」


「私を……?」


その使命は、鋼魔との戦いの前提だ。それゆえにリヴァリエを守ることに俺の全存在を掛けて守ることになる。


「そうだ。お前に自殺はさせないし、お前が拒絶しようと俺はお前のそばにいて守る」


「そう、勝手にして……あなたは私を鋼魔と戦わせたいんだろうけど、絶対にあんたの言うことなんて聞かないから」


「……今はそれでもいい……お前を守ることは、鋼魔と戦うことよりも優先すべきことだ……だからせめて、お前の手だけは治させてくれ」


致命的ではない怪我でも、放っておけば状態が悪化し、体力を消費することになる。


“グッ……”


俺は無理やり彼女の手首をつかんで、回復魔法をかける。


「ちょっと!止めて!」


彼女は抵抗するが、俺はそれを押さえつけて回復させる。幸い夜であり、周りの妖精たちもそれぞれの復旧作業に集中していることもあって、誰かが見に来ることもない。


「…………」


彼女自身も絶対に治療されたくないというスタンスではないらしく、やがて抵抗を止め、されるがままになってくれる。


「これで良し……お前がこれから何を選ぶにしろ。俺はそばにいる……俺はお前の邪魔にならないように気配を消して待つ。何か用があるなら、俺を呼べ。お前を殺す以外なら何でもやってやる」


 その言葉に彼女は答えないし、目線を向けてくることもなかった。それでもいい、俺に心のことは分からない。今の俺だとどうやっても、鋼魔と戦ってもらう方向には持っていけないだろう。やはり彼女のことは彼女が選ぶしかない。あの冷たい目を見てそう思った。


「…………」


俺は宣言した通りに、少し離れたところに移動して魔法で気配を消し、彼女の選択を待つ。隠ぺい魔法に特化した俺はいつまでもそうしていられる。


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