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EP72 最悪な出会い 後編

 無機質な思考を表現するのは難しいです。読者の皆さんがノクスの変化を楽しんでいただけるならうれしいのですが。

EP72 最悪な出会い 後編


 彼女は震えながらもステッキを前に掲げ、魔力弾を撃ち出しだす。最初の数発は弱々しいものだったが、慣れてきたからか、闘志が恐怖を押し返してきたからか、魔力弾にはエネルギーが満ちてきて、弾速も上がっていく。

 断続的に聞こえてくる、攻撃と敵が衝突音。マーシーを必ず守れると言い切れるが、相手に攻撃の隙を与える理由もない。


「ハァッ!」


“カイィンッ!!”


 俺は飛び上がって斬るというより叩きつけるように、相手が魔力弾で怯むのに合わせて、畳みかけるように上から下への打撃を与える。体内にダメージを与えないようにする手加減をした攻撃、それでも敵の動きを止めることには成功している。このままいけば……。


「グワァァア!!」


「くっ……!」


「うわぁ!?」


ブワッと、全身に空気の圧力を感じる。さすがに一方的にやられているままではいてくれないようだ。

敵は周りの空気を激しく震わせる重低音の巨大な咆哮を上げて、それに合わせて翼をはばたかせている。

 まずい、離脱する気だ。そう思ってこちらもジャンプして上を取ろうと身をかがめた時、なんと、先に動いたのは、マーシーの方だった。


「逃がさないから!」


マーシーはそう叫ぶと、一際は大きい魔力弾を、相手の胴体ではなく右の翼の中ほどに当てる。


“ドムッ!”


「ギジャァァァア!」


ダメージという意味では、もっと体の中心を狙った方がいいのだろう。だが、相手の体勢を崩すという意味では、翼を狙うのは正解だ。狙ってやったのだろうか?


「あなた!今だよ!」


力の入った声が、彼女から飛んでくる。俺はそれを聞いて反射的に飛び上がって、振り上げた二本の刀を、さっき攻撃を食らわせた方とは反対の翼へ振り下ろす。


“ガジュンッ!”


上下左右、逆の方向の攻撃を食らったことで、回転する力がかかり、飛び上がり切れなかった敵は、バランスを崩して少しずれた位置に墜落する。


「グガァ……!」


土煙を上げて、鋼の竜は盛大に地面に激突する。

さっきの攻撃は、狙ったものなのだろう。相手を逃がさないという強い意志、それをマーシーから感じる。今も土煙に隠れた敵のいる方向を油断なく睨みつけている。


「…………」


正直俺は、彼女にこんなことができるとは思っていなかった。それは才能の発露かそれとも戦いの中での成長か……いったいどういう変化なのか今の俺には理解しきることができない。常に変化を、進化をするという生命の力。それを目の当たりにしたような気がした。


「ガァ!」


“ブワァ!”


しかしまだ、弱り切ってはいないようで、相手が勢いよく翼を上げた、周りの煙が吹き飛ばされる。

わざわざ姿をさらしてくれるとは、こちらを侮っているのかそれとも単に知性がないからか、どちらにしてもそれは悪手だ。


「このぉ……!」


“ドドドドッ!”


 ここで決めるとでも言うような勢いで、マーシーは魔力弾を連続で打ち出す。墜落音に負けない轟音があたりに響いている。相手は動けないだろうから、無駄打ちになることはないだろうが、どこか危なっかしく感じる。


「はぁ……はぁ……」


案の定、マーシーの魔力は枯渇し始めて、肩で息をするようになっていく。ダメージは必要分に達しているだろうし、ここらが潮時だろう。


「おい、魔力弾はもういい。次の工程に入るぞ」


「え、なに?こうてい?」


魔力を打つことはやめてくれたが頭脳のリソースを攻撃に割いていたせいかあまりこっちの意図を汲めていなさそうだ。


「敵は十分に弱らせたから、分離作業をやると言っているんだ。お前はそのためにここに来たんだろう……?」


「お母さんたちを助けるってことね!いいわ、どうすればいいの?」


俺は思考での補足を混ぜながら、魔法少女の魔力は鋼魔が吸収したものの分離を促す効果があること、それを打ち込み終わった今やることは、分離しかかっている部位を切り離すこと。


「切り離すって、その刀でやってくれるの?」


「いや、俺がやると中身の生物を傷つける恐れがある。吸収された者の安全を求めるなら、お前が斬った方が確実だ」


「そ、そうなの?じゃあどうすれば……」


「次はステッキの先に、刃をイメージするんだ」


「刃?」


「そう、魔力弾と同じ要領で魔力を流しながら、今度はそれをできるだけ細く研ぎ澄ますイメージをしろ、ある程度はステッキの方で補正を掛けてくれるはずだ」


「こ、こう?」


「刃って斧とか鎌とかだよね……うーん……」


マーシーが唸りだす。大丈夫かと心配になったが、ステッキの先に魔力の構造物が形成され始める。それは本人の言ったとおり斧のような形状だった。剣を想定していたので少々予想外だが不足はない。


「いいぞ、では接近戦に移行する」


「ええ、無理だよ……ううん、お父さんたちを助けるためには私がやるしかないんだよね……私のことちゃんと守ってよ!」


「そうだ。あと今のお前は魔法少女になって身体能力が強化されている。お前はお前が考えるよりも強い。そして、お前を守るのが俺の存在理由だ。そこも当てにしてくれていい」


「……!……急に何言いだすのよ!」


なにやら、動揺しているようだが魔力に影響するレベルではなさそうだったので、自分の背後から離れないことを指示して、相手に向かって踏み込む。


「やるしかないけどーっ!」


「…………」


叫んで心理的負荷を紛らわせているのか、マーシーは騒ぎながら俺の背後をついてくる。


「グァア!」


敵は近づいてくるこちらを、火炎放射で迎撃しようとする。


「俺が防御する。止まるな!」


俺は前方に広く魔力障壁を形成し、後ろにいる彼女ごと防御する。ダメージが蓄積しているのか、最初に食らった時よりも威力が下がっているようで足を止める必要はない。むしろ敵が弱っているこの機会を逃さないようにしなければ。


「うひー!」


マーシーはそんな悲鳴を上げながらも、しっかり俺の後ろをついてくる。ストレスに対するしっかりとした耐性があるようだ。これならばできることも多いだろう。


「鋼魔には、特有の魔力がある。俺がそれを教えるから、お前はそうでない部分を切り取れ」


「え、ええ!?……この感じじゃないところってこと?敵の右下あたり?」


「そうだ、いいぞ!お前が取り込まれている者たちを意識して、斬れば……魔法少女の魔力が吸収された者たちを保護しながら、分離させてくれる!」


 俺の言っていることが分かったようで、マーシーは疑問を呈そうとするが俺が送ったイメージと、相手の様子を照らし合わせて、自分のやるべきことを理解した。俺が想定していたより彼女は、戦士としての適性が高いのかもしれない。

 そう考えた時、俺の精神の中に未知の高揚感が湧き出してきた。


「仕掛ける!俺作る隙にあわせろ!」


俺は、刀に魔力を流してその刃をエネルギーの棍棒のように変え、それを頭部に叩きつける。内部を傷つけずに最大の衝撃を与える攻撃だ。


“ガクンッ!”


「グエェッ!!」


敵は、低く短いうめき声をあげる。声というより、頭部の空気を無理やり吐き出さされた結果出た音という感じだった。


「私の家族を返せぇ!」


 随時、斬りつける場所のイメージは、送り続けている。そうでなくても、これまでの攻撃の成果で、吸収した存在が溜まっている部位が分離しかかっているのか、波立っている。どこを攻撃すべきかは、一目瞭然だった。彼女はそこに上段で斧を振り下ろして、相手の左の胸部から腕にかけてを深く斬りつけた。


“ボロボロ……”


切り落とされた部位が、取り込まれた人型知性妖精の姿に戻っていく。


「やった……!お父さん!お母さん!セレス!」


マーシーと同種と思われる3人の妖精とそれ以外にも、複数人の分離に成功する。これで“分離可能”な妖精はすべて救出できたと考えていいだろう。


「分離した者たちは魔力障壁で守っていろ!今のお前ならできるはずだ。俺がとどめを刺す!」


「わ、分かった!」


魔力の扱い方が分かってきたのだろう、彼女は自然に魔力の壁を形成する。


“ブゥン!”


これで憂いはなくなった。俺はあらん限りの魔力を流して刀の強度を補強するとともに、刃の上に更なる魔力の刃を形成することで、攻撃力を向上させる。みなぎる魔力で、刀身は紫色に発光し、小刻みに振動するようになる。


「これで終わりだ!」


俺は、振動を収め、魔力を研ぎ澄ます。そして分離のダメージから抜け出せていない敵に最大威力の斬撃を繰り出した。


“ザジュッ!!”


 狙うのは命の根源、頭と胸にかけての部分。俺の刃は、一太刀目で敵の胴体と頭を両断する。しかし、足りない。半ば流体である鋼魔獣は、重要機関を損傷してもエネルギーがあれば再生する。

これに対抗するには相手のキャパシティを超えるまでダメージを与え続ける必要がある。既存のハンターでは、これを達成するのが難しかった。

 だが、革新的な対鋼魔戦力である俺たちと魔法少女は、もっと有効な手段を持っている。一つは魔法少女の魔力、これによる攻撃には鋼魔の再生力を阻害する効果がある。そしてもう一つ、錬金術と魔法技術粋を集めたゴーレム素体を、デマンドサーキットによる莫大な魔力で動かすことで得られる強力な攻撃力だ。それらが合わさることで、いかに法外な再生力を持つ鋼魔相手だとしても、殺し切ることが可能になる。


「ギバァ!ングアァ!」


 俺は、敵が細切れになるまで、何度も何度も刃をふるう。効率的に全身にダメージがいきわたるように、致命的な部分にしっかりと捉えられるように、瞬時に敵の状態と両腕の動きを計算し、正確にそれを実行する。

 パラレスが造り上げた、ボディと頭脳にはそれができる。彼が、俺にとって親と呼べる存在かどうかは分からない。だが確かに言えることがある、俺は彼の造り上げた自分という存在を信頼していた。

 自分の性能なら、鋼魔の全滅という与えられた使命が果たせると。そしてその予測は絵空事ではなかった。


「…………」


「……ア、ウァア……」


しばらく無言で斬りつけていると、相手は弱々しいうめき声をあげるとともに、末端の方から塵になるように崩壊を始める。

 決着はついた。



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