W 第一部 第二話 66
「どうしてきみが」
オーディンはアストラの会議場にいるはず
なのに、どうして
「ふふふふふふふふふふ」
あでやかな声が会議場に響き渡った
ヘラが声の発生源である映像の方を見ると
「これは」
映像の中のオーディンはゆっくりと顔を引き剥がした
「きひひひひひひひひ」
「あなたは」
オーディンの顔の下から、光を喰らっているかのような漆黒の黒髪の女が姿を現した
「ロキ」
オーディンの準幹部
「っ、ちょつと待って、会議はキングと幹部のみが参加できるはずよ、準幹部のロキが参加してたのなら今の採決は無効よ」
ヘラが会議中に響き渡る声で抗議するも
「いや、そうはならない」
「え」
ヘラクレスが否定する
「はい、その通りです、ヘラクレス様は会議初日に今回のみ準幹部の参加を認めてくださいました」
ヘラクレスは会議初日、UAの世界連合加入への採決の際、準幹部の会議への参加を認めていた
「でも、それは」
関係ない、そう言おうとしてやめた
ペルセウスに何を言っても無駄だ、自分が楽しければそれでいい、そういう者に何を言っても意味などない
オーディンはヘラクレスの方を向き、口を開いた
「ヘラクレス、あなたの理想は正しい、未来のためには手を取り合わなければいけない」
「ならどうして」
「無理だからだ、既存の制度、既存の価値観、既存の人間では」
「無理かどうかなど、やってみなくては」
「いや、俺には分かる、全人類の中でもっとも才能に恵まれた俺には、分かる」
「っ」
そうか、彼はあきらめてしまったのか、誰よりも才能があるために、誰よりも努力したがために、彼は答えを出してしまった
「未来は俺が創る」
オーディンの最後の言葉を聞いたマカミは静かにヘラクレスの方へ歩み寄り拳銃を向けた
「秘密保持のため、お前にはここで死んでもらう」
ヘラはとっさにヘラクレスの前に出ようとしたが
「なっ、何を」
ヘラクレスに止められた
不安げな顔のヘラにヘラクレスは一瞬笑いかけた
すまないヘラ、自分が不甲斐ないばかりに
君まで巻き込んでしまって
オーディン、神に最も近い人間と言われた君の考えた作戦だ
きっともう詰んでいるのだろう
それでも、やらなければならないことがある
ヘラクレスは一歩前に出ると
膝を折り、手を地面につけ、頭を下げた
「命乞いはしない、ただ、ヘラだけは、愛した女性だけは、助けてくれないか」
「ヘラクレス様」
ヘラにとってこれほど幸せな瞬間はない
貧しい地域に生まれ
子供さらいに売り飛ばされて
生きるため男たちの慰み者になる日々
逃げようとしても、読み書きもできず、力もない、頼れる者もいない、そんな女が生きていける場所なんてこの世にはない
籠の中の鳥
鳴き続けることしかできない
あなたはそんな私を救ってくれた、こんな私を愛してくれた、
私はそれだけで幸せです
さよなら、ヘラクレス様
ヘラが懐に手を入れた瞬間
バン
その瞬間、褐色の女性が会議場内へ吹き飛ばされてきた
「ベディ」
アーサーがその女性の名前を叫ぶ
しかし、マカミはドアに立つ二人の人物を睨みつけていた
そこには旅人のような恰好をした老人と髪の毛ぼさぼさの男が立っていた




