W 第一部 第二話 49
アイに配属された高宮や生きる屍のようだった
一人でも多く捕まえ牢獄に入れて、少しでも美しい世界にしようと思って警察に入ったのに、アイは情報収集が専門、パトロールはおろか、逮捕することなどほとんどない
「はあ」
今日もパソコンとにらめっこ
異動願いは出してるけど、たぶん叶わない
もう、やめようかな
高宮は警察を辞めようとしていた
あの日までは
ある日、高宮がコンビニに昼ご飯を買うため、横断歩道で信号待ちをしていた
高宮が渡ろうとしている横断歩道は、あまり大きくなく、今は車もほとんど通っていなかった
それでも高宮は信号が青になるのを待っていた、そこへやけに高そうなスーツを着た男が急に高宮の前に出て辺りを確認しはじめた
はあ
高宮は心の中でため息を吐いた
高そうな時計をしている、おそらく部長クラスだな
大した用事でもないだろうに
こんなことも守れないやつが、会社では人の上に立って、偉そうなことを言っているのか
「はあ」
今度は口に出してため息を吐いたが、その男には聞こえていないようだった
男は意を決したように渡ろうと一歩踏み出した、その時
「おい」
高宮の後ろからその男に声がかけられた
振り返るとそこには、紺色の長い髪をした女がいた
「信号が見えないのか、赤だぞ」
その女は振り返った高宮には目もくれず、信号無視をしようとした男の方へ歩いていく
「ああ、で、でも、急いでいて」
男がとってつけたような言い訳をする
普通に人なら呆れてしまいそうだが、女は呆れなかった
「そうか、どんな用事だ」
むしろ、その男の話をちゃんと聞こうとしていた
「え、えーと、それは」
「信号無視は立派な違反だ、しかし、違反を起こしてでも急がなければならないときもあるだろう、言ってみろ、理由によってはパトカーで運んでやる」
「ぱ、パトカー、い、いや、それは」
男の額から汗が出始めた
それはそうだろう、大した用事もないのにパトカーに乗せられ、知り合いにでも見られたら大騒ぎだ
「急いでいるのだろう、徒歩より、パトカーの方が早い、早く行ってみろ」
女が詰め寄ると男は
「い、いえ、あの、す、すいませんでした」
頭を下げて謝った
信号はもう青になっていた
「あ、あの、あなたは」
高宮は女に名前を話しかけた
ナンパと間違われないかとも考えたが、それでも高宮はその女のことが気になった
女はナンパと勘違いせず、
「なんだ、同僚の顔を忘れたのか」
少しあきれられた
「え、同僚」
正直、アイに配属されてから高宮には仕事に対する情熱がなくなっていた
そのため高宮は同僚の名前はおろか顔すらほとんど覚えていなかった
「す、すいません」
高宮が謝ると、女は不機嫌な顔をせず、微笑んで
「私は、秋、真中 秋だ、よろしくな」
手を差し出してきた
高宮の目に初めて、美しいものが映った
「僕は、高宮 真吾です、よろしくおねがいします」
高宮は秋が好きだった
誰よりも清廉潔白な秋が
だから、秋の幸せを願った




