W 第一部 第二話 25
「ほう、いろいろなものが売ってますね」
優、アリサ大使、春樹、ミーサが私服姿で店内へ入る
店内はいろいろな店が所せましと並んでいた
「アリサ、ここでよかったの」
めずらしく、優が戸惑っていた
それもそのはず、俺も観光と聞き、てっきりタワーや大型アミューズメントパークを予想していたのだが・・・・
「はい、どんなものが売られているのか、とても興味があったので」
「ここ、デパートだけど」
何の変哲もない、デパートである
正直、アミューズメントパークの方がよかった、今日が平日とはいえデパートの中はかなりの人がいる、これでは護衛も一苦労である
アミューズメントパークなら貸切ってしまえば、楽に護衛できるのだが
「こういう地域に密着しているものの方がよりこの国を知ることが出来ると思うのです」
「あー、なるほど」
その国に暮らす人の生活や海外との関係を見るのにデパートは最適ということか
休みなのだから、自分の好きな場所に行けばいいと思うが
こういうところが世界中から愛される所以なのかもな
「この度は、アリサ大使のわがままを聞いて下さりありがとうございます」
護衛でついてきた、ミーサが申し訳なさそうに頭を下げる
「いえ、こちらの優もお世話になったようで」
彩夏から、優がアリサ大使と会い、元気づけてくれたと聞いている
会談で忙しいだろうに、自分の仲間を気遣ってくれたくれたのだ、この程度のこと、喜んで引き受ける
優の私服姿も見れたことだし・・・・
「しかし、秋さんには申し訳ないことを」
「まあ、秋なら大丈夫ですよ、午後には戻りますし」
今回のアリサ大使外出のため少し秋には危険な任務を任せているが、長年の付き合いだ、秋のすごさはよーく知っている、きっと大丈夫だ
「あ、アリサ、この十字架とかどう」
「十字架ですか」
優が持っているのは銀に輝く、恐らく本物の銀、十字架
それをアリサ大使に見せると、アリサ大使の表情は少し曇った
「あ、あんまり十字架って好きじゃない」
優もそれに気づき、心配した顔でアリサ大使を見つめる
アリサ大使は、うつむくと、か細い声で優に話した
「十字架は贖罪の印」
「え」
優に目が少し見開かれる
「私はこれまで多くの人を犠牲にしてきました、きっとこれからも、そんな私に贖罪など」
悲しい笑顔だった
「しかし、あなたは紛争地域の難民受け入れなど数多くの人々を救ってきた、そんなあなたが罪深いなど・・・・」
「そうだよ、アリサは多くの人を助けたんでしょだからみんなアリサのことが好きなんだよ」
世界中から愛される、それは別に容姿が美しいからではない、救ってきたからだ、これまでも、これからも
「それは、犠牲にしたものへの言い訳にはなりません」
アリサ大使の言葉はとても冷たく、そしてとても痛々しいものだった
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
俺もミーサも何も言えない
寒くはないはずなのに、口が脳が、心が、固まってしまった、この冷たさに
「うん、そうかもね」
目の前の痛々しい少女に、凍てついて何もできないでいると、優が、動いた
「優」
「優さん」
「でもね、ぼくは君にこれを持っていてほしい、知っていてほしいんだ、君を想う人がいると、これは贖罪じゃない、救いだよ」
この冷たさを優も感じているだろう
それでも彼女は一歩踏み出した、傷ついた少女を助けるために
あー、そうなんだ、僕が君にひかれる理由、僕が君に憧れている理由、それなんだ・・・
「優・・・」
アリサ大使の顔はまだ晴れてはいなかったがそれでも、少し暖かく感じた
「そうですね、せっかくですから、いただきましょうか」
アリサ大使はその十字架を両手で包み込むようにして、持っていた
まるで、凍てつく寒空の下、カイロを持つ女子高生のように
「あ、アリサ、地下行こうよ、デパ地下」
優が地下の食品コーナーへアリサ大使を誘うが、時間が怪しくなってきた
「いいですね」
「おいおい」
しかし当の本人はかなり乗り気のようだ、会談前の打ち合わせとかはいいのかと思わいでもないが
「ふふ、まあいいじゃないですか、あんなに楽しそうなアリサ大使は久しぶりですから」
まあ、ミーサさんがそういうのであれば
秋には後で何かお詫びをしなくてはな
「ん、優、これは」
アリサ大使があるお菓子に興味を示す
「うわー、きれい」
小さい、ころころしたものに様々な色がつけられている
「星のようです」
「ああ」
暗闇の中、様々な色で輝く星のような輝きを放っていた
「あ、そうだ、ダーリンへのお土産に買っていってあげよう」
「ふふ、ちゃんと仲直りするんですよ」
「わかってるよー、もお」
「ふふ」
「・・・・」
アリサとミーサがにこやかに優と会話している
そんな中、春樹は少し悲しそうな笑みを浮かべていた
そろそろ地下から出ようとしていた時
ヴィーン、ヴィーン、春樹の電話に着信が
彩夏からだった
さすがに遅くなりすぎたか
どやされると思い、電話に出ると
「早くアリサ大使連れて帰ってきて」
慌てた彩夏の声が聞こえた
「どうした」
なにかあったのか
「来ちゃったのよ、シン国王が」
「はあ」
春樹の声が地下に広がった




