事件・前章Ⅲ
家に帰ってから和人と反省会をすることにした。和人の家は隣であるため家族ぐるみの付き合いだったりする。
「失敗した・・・失敗した・・・」
「そんな腐れるなって、印象は残ったって」
「さすがコミュ障のバカ真司」
「どーせ、慰めている和人お兄ちゃんも失敗したんでしょう」
いまの彼女の一言で和人は「ぐふぅ」と声を漏らした。そんな風に私たちをいじめる彼女たちは私と和人の妹である。私の妹が朝比奈春香で和人の妹が佐藤桃花である。私の部屋で反省会をしようとしたところ勝手に入ってきて、居座っているのである。しばらく妹たちに詰られていたが、とある一言で場の空気が変わった。それは和人の一言からであった。
「そういえば鈴井彩菜ちゃんかわいかったな~」
「また、女の子のはなし~、お兄ちゃん好きだね」
「そんなんだから彼女ができないんですよ」
妹たちは呆れていた。そのくらいいつものことなのである。
「そうは言ったってなぁ、お前もそう思ったよな。」
「あぁ、とても…可愛かったよ」
鈴井さんの顔を浮かべると少し言葉に表すのが恥ずかしく思ったが、なんとか言い切った。
「うそ・・・」
「あのバカ石頭が・・・」
「やっぱり今日のお前おかしいよ」
「失礼を通り越して、清々しささえ感じるよ」
ちょっとムッとした。
そんなやり取りから一週間くらいたったときだった。鈴井彩菜さんが話しかけてきたのである。
「ねぇねぇ、今昼休みだよ?予習?」
「あぁ、ちょっとね。ほら、」
そういって、クラス掲示板の中にある一つのチラシを指さした。
「煌生大学選抜試験を8月7・8日(土・日)に実施?これに参加するの?」
「うん、どうしてもそれに受かりたいからね」
「なんで?」
「"やりたいこと"があるんだ。どうしても、やりたいことが」
彼女は「へぇ~」とそのチラシながら言い、こちらを向いて笑顔でこう言った。
「すっご~い! 私、真司くんのこと応援するね!」
私は、一瞬固まってしまった。クラスの男子も固まった。今の会話は普通に聞いたらただの会話に感じるだろう。この会話で固まるのは鈴井彩菜の行動を1週間見てきた者にしかわからない。彼女は基本的に女子としか話さない。男子と話すのは、声をかけられた時と、自分が興味を持って話しかるときである。そんなときでさえ男子のことを名前で呼ばなかったのだ。(男子から下の名前で呼ばれるのは許可している)それなのに、入学式のときに一言二言交わしただけの私を名前呼びしたのだ。私はとっさに
「ありがとう。鈴井さんからの応援があったら頑張れるよ」
そう言うと、彼女は甘い声で
「うれしいなぁ~、でも・・・ちょっと」
そう言って彼女は自分の顔を私の顔に近づけ
「鈴井さんじゃなくて、彩菜って呼んで」
「はい・・・彩菜さんって呼びます」
そう言うと彼女は「ほかの男子も名前で呼んでるんだから気にしないでいいのに」と言った後に「がんばって~」と一言残し自分の席に戻って女子たちと会話を始めた。
私は一つの決断をした。
(絶対に合格する。・・・合格して彩菜さんに告白する。)
もはや、勘違いとか、自意識過剰とかは関係ない絶対にやってやる。
・・・クラスの男子の目が冷たい中、そう心に決めた。その日の放課後に和人に殴られそうになった。
それから彩菜さんは時々差し入れをくれるようになった。もらうたびに男子の目がきつくなったが・・
そうこうしていると中間テスト期間となりみんな勉強に追われていた。私はそんなことも気にせずにまるっきりテスト範囲外をやっていたのだが、そこに和人が来た。
「数学を教えてくれ~頼むよ~」
「無茶言うなよ、こっちだってそろそろ選抜試験の大詰めなんだから。第一、まだ簡単だろ。」
「いやいや、そういいますけどね、範囲広すぎなんだよ!!!なにが[テスト範囲は1章から3章です]だよ。内容全然ちげぇよ」
そこで周りの反応を見る。どうやら大丈夫そうな人とだめそうな人が半々ようだ。
「わかったよ、お前につきやってやるよ。」
私は諦めてそう言った。
「いやーありがたい。さすがわが友よ」
「・・・教えるのやめようか」
「・・・すいません」
「はぁ…」とため息の一つでもついてやろうと思った時である。
「真司くん勉強おしえられるの!!」
まるで救世主でも見つけたように彼女は言った。そして、私に向かって空野秋葉とともに近づいてき手を取ってこう言った。
「私にも勉強を教えて!!」
「私にもー!!]
「あぁ、いいよ」
勢いに押されて行ってしまった。そのまま二人は「やったー」と喜んで今日の放課後からお願いと言って去っていてしまった。あっけにとられていると和人が
「男の俺は一回断ったのにひどいわ!!」
と言ったので俺は頭を抱えた。
勉強会で少しは近づけるんじゃないかと思ったが、特に何もなかった。
中間テストの結果は私が学年で1位だった。クラスの反応は知ってたかのようだった。ちなみに和人は頑張ったので中の上、彩菜は学年で30位、秋葉は31位だった。みんなすごいと思った。だってこの学校には400人近くの優等生ばかりが集まっているのだから。
中間テストが終われば、みんなが待ち望んだ夏休みである。クラスの中では夏休みどうしようかという話題が上がっている中、私は
(復習はすべて終わらした、大学の範囲のレポートも準備できている。苦手だった数Ⅲももう大丈夫だ。あとは個々の苦手をやり直すだけ・・・やれ、やってやるんだ!!彩菜さんに告白するために、そして、自分のやりたい夢をやるために!!!)
そう一人闘士を燃やしていた。その姿に、和人、彩菜さん、秋葉さんは声をかけてこなかった。
そのまま、夏休みに勉強だけの日々を送っていたがテスト前々日の朝、和人からメールが来た。
[明日はテスト前日だろ、だから応援会をやろうと思うんだけど]
[ありがとう、どこでやるんだ]
[お前の家 許可は取ってある]
[まじか]
[お前たまに素がでるよな]
そして、次の日の晩、居間に降りると
「応援してるぜ!!真司ーー!!」
「真司くんがんばってー!!」
「絶対合格してよ真司くん!!」
いつもの3人の姿があった。その後"カツ"が付くものがふるまわれクラスのみんなが書いた色紙を渡された。そこには、男子女子問わず応援メッセージが書かれていた。メッセージの一文字一文字からその人の気持ちが溢れており、決して適当に書かれたものではないと分かった。その中には[あの娘の気持ちを掴めよ]と書かれているものもあった。なぜばれたし
ご飯を食べて解散になったのだが彩菜さんと秋葉さんはわざわざ隣町から来て準備してくれたらしいそのため駅まで送ろうということになった。駅まで送る途中、何故か秋葉さんと和人が消え、彩菜さんと二人っきりになった。
「明日、頑張てさ、受かったらみんなでどこかに遊びに行こうよ。確か、結果発表って夏休み終了の一週間前でしょ」
「そうだね、勉強詰めだったからそれはいいかも」
「よ~し、そうときたら絶対受かってよ。あ、そうそう 受かったらどこに行きたい?」
「・・・海かな」
「海か・・・早め水着出さなきゃ」
「まだ受かるって決まったわけじゃ「受かるよ!!!」」
いつもより強く言ってきた。少し冷たいことを言うならば、なぜ私がそんなに期待されているのか分からなかった。確かに、勉強を教えたりはしたが、そこまで言われるようなことを彩菜さんの前ではしたことはない。とここまでネガティブなことを当時の私は考えることはなかった。ただ、単純に信頼してくれていると思った。
「だから絶対に海に行こうね」
そう、笑顔で言われたので私は少し悩んで
「あぁ、絶対行こう」
決心した
駅に着く前に秋葉さんと和人と合流し、そのまま駅に着き別れた。和人にどこに行ってたんだと聞くと「さぁ、どこだろうな」とニヤニヤしながら言った。そのことから私に対して気を使ったことがわかる。相手に気を使えるのにこれである。
だけど、いまは感謝の念を送りたい。
「・・・ありがとう」
「ん?なんか言ったか?」
「ありがとう。おかげで明日は大丈夫そうだ」
「そっか、それは良かった」
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「試験開始」
そうして煌生大学選抜試験が開始される。部屋にはたった7人しかいない。そのうち6人は大学生である。なぜならこのテストは本来大学生が自身の履歴書に箔をつけるために行うものであるからである。試験の内容としては、1日目の試験で高校までの内容をセンター形式で行う。と言っても実際のセンターのような点数稼ぎできるような問題は存在しないすべて自力で最後まで解かなければならないハイレベル問題だけである。それをセンターと同じ教科である。国・数・英・現社・地理・歴史・公民・化学・生物・物理・地学の11の科目(1つ100点)で最低880点取らなければならない。しかし、これは始まりであり中間ではない。問題は2日目の問題レポートである。この問題は大学4年間に学んできたことの集大成であり高校生がの問題を解くのは厳しい。高校までの勉強では本当の基礎でしかないからだ。だからこそ私は、苦労して、高校1年までに高校3年までの内容をすべて勉強して入学してからは大学の内容ばかりをやっていたのだがそれでもきついものであった。
そうして私は癌で苦しんだ時以上の精神的な苦しさに耐えながら2日間試験を受けた。その苦しさは家に帰ってからも続き結果発表までただただ苦しかった。
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ついに来てしまった。結果発表の日、結果が入った封筒が家に届く。それと同時に彩菜さんと秋葉さんと和人が来た。みんな何処か落ち着きがなかった。
「じゃあ開けるぞ」
みんなが眉唾を飲む。結果表は開けてすぐに結果がわからないように工夫されており、同じ色とフォントで合格か不合格中央に書れ、封筒から最初に見える文字は格からであり、2文字か3文字かで分からないように合の漢字が中央に揃えてあるらしい。つまり、紙をすべて引き出さないと分からない仕組みとなっている。
私は紙を少しずつ出していく。やはり、最初に見えるのはやはり格の文字、次に合で
「何も書かれるな・・何も書かれるな・・何も書かれるな」
「神様お願いします。どうか真司くんを・・真司くんを・・」
「何も書かれてないで~」
そして、バッと目をつぶりながら紙を引き抜く。怖くてなかなか開けられない目を無理やりにも開くとそこには
"合格"と書いてあった。
始業式よりも3日前、私たちは海に来ていた。ひと夏の思い出を作るためもあるが試験に合格した慰労会の意味合いが大きい。彩菜さんと秋葉さんはビキニ姿で海で遊んでる。私と和人は浜辺でその様子を見ていた。先程、水着を見せに来たが、「とても似合ってて可愛い」としか言えなかった。もう少し気の利いた事が言えたら良かったのだが、ちなみに、和人は、「秋葉ちゃん、彩菜ちゃんと同じくらいの背しかないのに、おっぱい負けてんじゃん。ていうか彩菜ちゃんデカすぎwwwww」と言って二人に両頬叩かれていた。
なんやかんや彩菜達と遊んでいると気付けば夕方であった。そこで、彩菜の手を引きよく海が見えるところに来た。
「きれいだね」
「あぁ、そうだな」
「あっそうそう、試験お疲れ様」
「おう、ありがとな」
・・・・・・・会話が続かない。
「きれいな景色も見たしそろそろ戻ろっか」
「あっいや、ちょっと待ってくれ。あの、えーと」
「?、どうかしたの?」
覚悟を決めて、彩菜さんと向き合い強く言った。
「俺と付き合ってくれ」
彩菜さんはとても驚いた顔をしていた。
「入学式に彩菜さんと初めて会った時、胸が高まった。一目惚れだった。だから決めていたんだ試験が終わったら告白しようって、」
「真司くん・・・・」
「好きです・・・この気持ちを伝えたかった。受け取ってくれますか」
私は彩菜さんに頭を下げまっすぐに手を伸ばた。このやり方は古臭いかもしれない。でも、一番まっすぐ気持ちを伝える方法だと思った。
「顔を上げて」
僕の手を取って彩菜さんはそう言った。
「彩菜さん・・・」
「彩菜でいいよ。その代わり私も真司って呼んでもいい?」
「ということは」
「私も好きでした。入学式にあった時から」
「両・・思い・・だったの」
「うん、そうみたいだね」
「えへへ」と笑った顔はとてもかわいらしかった。
「これから宜しくね、真司」
「こちらこそよろしく、彩菜」
そう言って唇と唇を近づけ、キスをした。
それから半年間は幸せだった。彩菜とデートしたりもした。4人で遊んだりしたりもした。でも春休みのある日、過去の遺物が私に牙を剝いた。
それが黒騎士事件の始まりだった。




