事件・前章Ⅳ
これで前章最後です。
あの告白から彩菜さんと二人で出かける日が増えていった。彩菜ファンが多い学校ではできるだけ友達のように振る舞い、休日などの休みのときは一緒に出掛けるようにした。それもあってか、クラスのみんなには冬休みの終わりまでばれることはなかった(ばれた後が大変だった)。どうしてばれたかと言うと、冬休み明け前の水族館に2人で行った時のある出来事が原因であった。
…
[冬休みも終わるから、明日二人でどこかに行かない?]
彼女とSNSでやり取りをしてそろそろ落ちようかと思っていた時、このメールが送られた。
[何処かおすすめがあるの?]
[うん!友達が水族館を勧めてくれたの!秋煌水族館て言ってこの時期にペンギンのお散歩とかもやるんだって!]
[なるほど、あそこか]
[知ってるの?]
[子供の時よく親に連れていかれた]
[えー知ってるの~穴場だから知らないと思ったのに~]
[まぁまぁ、あそこのスイーツはおいしいし、動物もいっぱいいるから、それに俺も久しぶりに行きたいし]
[ほんと!じゃあ行こう!]
と決まったのであった。
次の日、私は駅で彩菜と合流しそのまま水族館へと向かった。水族館に着くと壁や看板こそ塗り名をされているが、昔とそんなに変わらない建物がそこにあった。それを見て、
「久しぶりだな…」
「来るのそんなに楽しみだったの?」
「うん、まあね」
それから二人で見て周った。アザラシや海水魚、淡水魚や熱帯魚がたくさん展示されているので見飽きることはなかった。
「うーん、おいしい!」
「うん、やっぱりここに来たらこれを食べなきゃな」
「みんなにも食べてほしいな~あっそうだ、今度みんなで来ようよ」
「そうだな、和人や秋葉も呼んでこれを食べてもらいたいな」
そのまま、世間話をした。ホントは、クラスの女の子に誘われてここを知ったこと、友達と行くときの予行練習を兼ねていたこと、「だから怒らないでね」と彩菜は言った。気にしてなかったので「別に気にしてないよ」と返した。その後も話が続き綾香は席を立とうとした。
「彩菜、話したい事があるんだ」
「うん?なんかあった?」
「実は」
「?」
「春休み明けから、教員研修のために町を出て各地の学校に行くことになった」
彼女はとても驚いた顔をした。
「そうなんだ…すごいじゃん!頑張って」
「ごめん、わざわざこんな日に…でも、今日を逃したら、言う決心が鈍っちゃうから」
「ううん、確かに驚いたけど、それって、あの時話してた"やりたいこと"なんでしょ」
「あの時?」
「ほら、覚えてる?私が真司に初めて話し掛けた時に言ってた時に、"やりたいこと"があるから煌生大学のテストを受けたって言ってたでしょ」
「あ」
四月の時のことを彼女は覚えていたのだ。私が初めてちゃんとお話した時のことを、それを聞いて私は嬉しくなり
「ありがとう。覚えていてくれたんだ」
「うん、だからちょっと寂しいけど、応援するよ。夢に向かって頑張ってほしいから」
…
彩菜とある生物のところに来た。
「わぁー!すっごく大きい」
「こいつも変わらないな」
目の前にはとても大きいクジラの水槽がある。少なくとも私が小さい時からこのクジラは居た。そして
「わわっ、こっちに来た!」
「久しぶりだな」
私が来ると、このクジラはいつも私の目の前まで来た。水槽に手を当てればその位置に頭を近づけ、さも額に手を置いているかのような状態になった。
「すご~い…」
「こいつ昔からこうなんだ。俺にだけこれをやってくる」
「可愛いね、この子」
「そうだな、大きいがこういうところがあると可愛く見えるよな」
彩菜と笑いながらそう話していた。クジラも心なしか、笑っているように見えた。その時だった。
カシャリ…
カメラのシャッターの音がした。振り向くと、一人の女の子がいた。うちのクラスの女子だった。目が合った瞬間、その子が逃げた。
「待って!」
「ちょっと!真司!」
相手は走っているが、歩幅と体力の差があるため徐々に追いついてくる。
「いつも勉強しかしてないくせに、どうしてこんなに速いのよ」
「失礼だな!」
「ヤバ!聞こえてた」
彼女は施設の出口から出ようとするが、
「きゃあ!」
3段くらいの階段で躓いてしまった。どうやらオシャレで履いていた厚底靴に慣れていないようだった。何とか倒れる前に彼女を支えることができたが
「触んな!変態」
と暴れた。
「うるさい!どうして盗撮した」
「だって驚くじゃない!まさか、勉強ゴーレムとクラスの妹が付き合っているなんて」
「別にいいでしょどうでも!ていうか、誰にも写真回してないよな」
「友達数人には回したわ」
次の瞬間、電話が鳴る。相手は和人だった。震える手で電話を取る。
「もしもし…」
「おい!真司、お前が彩菜と付き合っているのがばれているぞ!しかも、クラスの奴らに急速に拡散していってる!」
「あ…」
一気に力が抜ける。膝から落ち、何も聞こえなくなる。
「おい、返事をしろ!おい」
私は、意識を失った。
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夢を見た、謎の黒い動物が人々を殺す夢を。この時、どうしてこの夢を見たのか理解できなかった。
のちに知ることとなるが。
「あ、目が覚めた」
秋葉の声が聞こえる。薬の匂いと白いベッドとシーツから病院であろうと思われる。その時、彩菜が抱き着いてくる。
「良かったよう…本当に…」
「すまない倒れてしまって」
「すまないじゃないよ!持病を持っているなら言ってよ」
その言葉を聞いて、はっと和人を見る。
「わりぃ、言っちまった」
「いや、仕方ないさ。むしろ、今まで隠してくれたことに感謝するよ」
「クラスのみんなも、お前のことを言ったら渋々諦めてくれたよ」
「そうか」
「どうして言ってくれなかったの…」
「…」
彩菜の質問に答えることができなかった。
「どうして」
「それは…」
「どうして!」
「知られたくなかった」
「なんで!」
「彩菜には、病気を患っている俺じゃなくて、ただ俺を見てほしかった。少しでも、普通のお付き合いをしたかった。長くない命の中の悲しい愛じゃなく、ただの高校生の恋愛がしたかった。ただそれだけだよ」
「そんなの「だから!」…なに」
「今更だけど、本当に今更だけど、こんな弱い自分を許してくれ、彩菜が好きという気持ちは誰よりも負けないし、俺にとってもここまで激しく心が揺れ動いたのは初めてなんだ。だから、だから」
「そんなの言われたらどうしようもないじゃん」
「それじゃあ」
「それに、嫌いになったわけじゃないよ」
「そうか」
ほっと胸を下す。
「その代わり、隠し事なし、全部言ってよ」
「そうだぞ、俺にも隠していることあるよな」
「え~和人にも隠してることあるの!」
彩菜、和人、秋葉がこぞって攻めてくる。これは諦めた方がいいだろう。
過去を話して、3人が悲しんだのは言うまでもないだろう。しかし、これによって、平和的に彩菜と付き合い続けることができると考えれば安いものであろう。




