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バハムート

深海の追跡戦、そして

「あたし、何でこんな所に居るのよ!」

 薫の叫びに良美が呆れた顔をする。

「何を今更の事を言ってるの? 切っ掛けは、あんたの計画でしょ」

「冗談を止めてよ、どうして作ったキメラに神様が宿るなんて、誰が考えるのよ!」

 睨んでくる薫に較が言う。

「オカルト業界では、神を模倣した物には、神が宿るのは、必然だよ。まあ、今回は、神の使徒クラスだからまだまだ平和な方だね」

「平和? 研究所を半壊にしておいて!」

 声を荒げる薫に対して良美がシミジミと頷く。

「平和だな、神様が出てくると平気で山が消し飛ぶからな」

「こんな時に冗談は、止めて!」

 薫がそういって良美を見るが、その顔からは、冗談の色は、見えないず、小較が補足する。

「えーと本気で山一つ消し飛ばした事もあったんだよ」

「月との距離を変えたりと、本気で神様クラスとやりあうと面倒だよな」

 良美が感慨深げな顔をするのを見て薫の脳裏に世間を騒がす世紀の怪現象のニュースが次々と思い出されていく。

「過去の話は、おいておいて、目の前の現実に対応しよう。逃げたバハムートを追いかけているけど、問題は、どうやって戦闘を仕掛けるかなんだよね」

 較が話を強引に戻してきた。

「そこよ、目の前の現実が一番の問題なの! どうしたら、アメリカ軍の潜水艦でキメラを追跡するなんて出鱈目な事が成立したの!」

 薫の絶叫に周囲に居た海軍兵達が陰気な視線を送ってくる。

「言っておくけど、あんたもあたし達の仲間と思われているから気をつけてね」

 良美の忠告に薫が嫌そうな顔をする。

「仲間なんてとんでもない! 第一、このどうやってかは、知らないけど協力させているんでしょ? だったら安全なんじゃないの?」

 較が遠い目をする。

「今の大統領は、話が解る人で助かった。アメリカ製だと解る核搭載ロボットの残骸を公開されたくなかったら潜水艦を貸せって言ったら直ぐに貸してくれたもの」

 長い沈黙の後、薫が絶叫する。

「あんた、アメリカ大統領を脅迫したの!」

「さて、疑問も解決した所で、本題に戻りましょうか」

 較は、無理矢理に話をバハムートに戻す。

「深海二百メートルだと、外に出るのも一苦労。水圧の方は、なんとかするとしても、接近する方法を考えないと」

「そうだよね、相手は、二十ノットで現在も移動中だし、ヤヤお姉ちゃんでも水中をそのスピードで動けないよね」

 小較が残念そうな顔を言うと較が頷く。

「人間は、シャチとは、違うからね」

「潜水艦で体当たりして、その瞬間に飛び移れば?」

 良美の大胆な意見に日本語が解る一部の海兵が青褪める。

「流石にそれは、駄目。万が一にも潜水艦が壊れたら良美や小較が危ないじゃない」

「私の事は、どうでも良いの?」

 薫の突っ込みを無視して較が笑顔になる。

「でも、今ので良い方法を思いついた」

 そして、海兵達と英語で話し始める較。

「正気なの!」

 青褪める薫を見て良美が訊ねる。

「ヤヤ、何って言ってるの?」

「信じられない……」

 動揺して応えられない薫であった。



『まだついてくるか? しかし、今戦えば、ベヘモット形態の時の二の舞になりかねない。ここは、時間を稼ぐのを優先しなければ』

 更にスピードを上げるバハムート。

 そんなバハムートに高速で接近する物があった。

『あれは、魚雷だな。そんな物で我を傷つけられると思っているのか? 愚かな』

 馬鹿にした嘲笑のテレパシーを放つバハムート。

 返って来る筈の無い反応がそこには、あった。

『とりつければそれでOK!』

 強烈な意思を打ち出し、接触と同時に魚雷の先に入っていた較がバハムートにしがみ付き、右手を突き刺す。

『フェニックス』

 バハムートの鱗の内部で派生した炎は、周囲の肉を焦がしながら広がる。

『その程度のダメージなど我には、意味が無い!』

 バハムートは、そう叫びながら身を捩り、較を引き剥がそうとした。

 だが、バハムートの思惑と違った事が起こっていた。

 熱によって捲れ上がった鱗が激しい水流から較を守ってしまうのだ。

『切り離そうと思ったでしょ? でも無理、だってそんな事をしたら、この体は、分解して使い物にならなくなる』

 較の挑発的な意思にバハムートは、悔しげなテレパシーを放つ。

『その通りだ。支配が完全におよばない今の状況では、お前に取り付かれた場所のみを切り離せない。しかし、この状況でお前が我を滅する手段が無い事も確かだ!』

『確かにね。嫌になるほどの再生力だよ』

 較が面倒そうな顔をする前で、焦げていた肉が元に戻っていく。

『お前がどれだけこの状態を維持できるか解らぬが、そう長い時間は、無理だろう。そして、最初に放ったあの一撃は、もう撃てないそうだろう?』

 余裕を取り戻し始めたバハムートの言葉を較が肯定する。

『そっちの予測通りだよ。ホワイトファングの連発は、負担が大きすぎて無理』

『ならば、我は、滅びぬ!』

 自信たっぷりに断言するバハムートに較が微笑む。

『ここが深海で影響が出ない場所で良かったよ』

 較の右腕から白い光が漏れ広がる。

『き、貴様、何をした!』

 驚愕するバハムートに較が苦笑する。

『何も、あえて言うなら、何時もしている制御を緩めてるだけ。いやー通常の場所でこんな事をしたら、大惨事だよ』

『正気か! 極神の第一使徒の力を漏らせばただで済まないぞ!』

 バハムートの絶叫に較が淡々と告げる。

『自分達が滅ぼそうとする奴にそんな事を言われる謂れは、ないね!』

『や、止めろ! 止めてくれー! 本体まで侵食される!』

 その言葉を最後に、バハムートは、動きを止めて自壊を開始し始めるのであった。



 海上、較は、良美達が先に乗り込んでいた米軍の空母に上がった。

「はい、ヤヤお姉ちゃん」

 小較が差し出したタオルを受け取って濡れた体を拭う。

「ありがとうね。良美、生きてる?」

 マットをひいて倒れていた良美が顔も上げずに手を振る。

「なんとか。あと、一分続けていたら死んでたかもね」

 較が用意しておいた呪符を右腕に巻きつけながら言う。

「ハッタリが効いて助かったよ。あんな危険な真似をバハムートが滅びるまでやってられなかったもん」

「詰り、貴女達は、ハッタリで神の使徒を退散させたって言うの?」

 驚く薫に較が憂鬱そうに応える。

「最初の一手でミスってたからね。ハッタリでもかまさないと勝ち目が無かったんだよ」

「信じられない。神の使徒をペテンにかけるなんて」

 呆然とする薫に較が言う。

「それじゃ、そろそろラスボスとの対面と行きますか」

「ラスボスって何?」

 薫が問い掛ける中、較が視線を向けた先には、較達を案内していた研究員が居た。

「何時から気付いた?」

「単純な消去法だよ。あんな状況で無傷な関係者が二人、薫さんは、ベヒーモスを始末しようとしたそうなると残るのは、貴方だけ」

 較の答えに苦笑する研究員。

「ばれないと思っていたんだがな。しかし、まさかバハムート形態まで敗れるとは、思わなかったぞ」

 研究員が強いプレシャーを放って居た。

「どうなっているの?」

 困惑する薫に較が呆れる。

「おかしいと思わなかったんですか? いくら依り代になり易いキメラがあったといってもあそこまで連続して使える訳も無い。誰かが、依り代にする為に準備していたと考えるのが妥当でしょうね」

 研究員が苦笑する。

「あの様な不細工な肉人形を操る気もしなかったから部下にやらせたが、とんだ無駄骨を折らされてしまった」

「因みにその部下に対して処罰は、ありますか?」

 良美の疑問に研究員が傲慢に告げる。

「当然。僕に無駄骨を折らせ、我が主の計画を遅延させた罪は、消滅に値する」

「でも半分は、あんたの計画ミスだよね」

 較の突っ込みに研究員が声を荒げる。

「僕にミスなどありえない! 全ては、無能な部下の責任だ!」

「これって無能な中間管理職のお決まりの台詞ですよね」

 小較の言葉に良美が強く頷く。

「そうそう、中途半端なプライドだけの塊の役立たず上司って奴で、部下に嫌われ放題なんだよね」

「僕を侮辱してただで済むと思ってか!」

 研究員のオーラが爆発的に上昇した瞬間、較が一気に間合いを詰めて腹に拳をめり込ませる。

 そして研究員の嘔吐したと思うと、研究員が白目を剥いて倒れてしまう。

「えーと、滅茶苦茶弱かったって事?」

 良美の疑問に較が嘔吐されたゲル状の塊を指差す。

「普通に戦えば勝ち目無かったかもしれなけど、さっきの奴の正体は、それだよ」

「ゲロが正体だったの!」

 驚く小較に対して較が手を横に振る。

「違う違う、その中にある小さな球体、それが奴の正体」

『ば、馬鹿な! どうして僕の正体が解った!』

 バハムートの上司のテレパシーに対して較が呆れ顔をする。

「この世界に元の姿で入り込むなんて事は、上位世界の存在じゃ困難なの。そうなると方法は、限られてくる、バハムートみたいな依り代を使った憑依か、今の貴方のみたいに自分の端末を使ったの憑依」

『だとしても、どうやって私が腹の中に入っていると解ったのだ?』

 更なるバハムートの上司の質問に較が良美達を指差す。

「そっちも簡単。ヨシ達の挑発にのってオーラなんて撒き散らすからその中心が何処かなんて直ぐに解った」

『こ、これで勝ったと思うな! 例え、小さな球体を模していても、僕の端末をお前等が壊せは、しない!』

 バハムートの上司の言葉に較が頷く。

「そうだね、壊せないだろうね。でもね、その状態じゃ人間に寄生するまで動けないでしょ?」

 較は、バケツの水をぶっ掛けた挙句、デッキブラシで転がしまくる。

「面白そう、こっちにパス!」

 良美も参加してくる。

『止めろ!』

 バハムートの上司のテレパシーの叫びは、無視される。

「シュート!」

 良美の全力の一撃でバハムートの上司は、デッキから落ちて海に落ちていく。

「海に落ちたけど良いの?」

 小較の疑問に較がデッキブラシを回収しながら答える。

「アレは、壊せないし、下手な封印しても意味無いから海の底で彷徨っていてもらいましょう」

「これで本当に終わったのね?」

 薫の言葉に較がため息を吐く。

「トラブルわね。ただし後始末って長く大変な作業があるんだよ」

「今回は、被害は、少ないから楽じゃないか?」

 良美の言葉を信じられないって顔をする薫を他所に較が頷く。

「非合法の研究施設にアメリカ海軍の私的利用程度だからね」

 こうして、一応に事件は、解決をみたのであった。



 遥か未来の較の子孫の前に立ち塞がるバハムートの上司。

『ヤヤだと、憎くあの小娘と何処か似ている、絶対に殺してやる』

 較の子孫の親友達が沈痛な表情を浮かべる。

「初代八刃の長にやられた異邪か。ご愁傷様だね」

「この手の奴等と出会うのこれで何件目だ?」

「もう、初代八刃の長、もう少しきっちりやっておいてよ!」

 較の子孫が悲痛な叫びが木霊するのであった。

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