大番長
番長って伝説の遺物?
「番長って知ってる?」
良美の言葉に較は、暫く沈黙し、熟考してから答える。
「律令制における役職の一つで、衛府の下級官人」
「そういうボケは、良いから」
良美の更なる追求に較が疲れた顔をする。
「あのね、そういう昭和の遺物をどうして掘り出すかな」
「でも、近頃だっていっぱいいるでしょ?」
良美の取り出した漫画を見て較が沈痛な表情を浮かべる。
「お父さんの資料室の本を読むのは、止めなよ」
良美が楽しげに語る。
「いいじゃん、やっぱり番長たるもの下手な小細工しないで拳骨一つで勝負って奴だよね」
「実際そうなの」
純粋に聞いてい来る小較に較が訂正する。
「違う。だいたいね、番長って言うのは、簡単に言えば不良のボス。どんな集団でもボスって言われる奴には、かっこいい奴もいるし、そうじゃないのもいる。カリスマ的な番長が居たって事は、否定しないけど今は、都市伝説に近いよ」
「夢が無いわね」
文句を言ってくる良美に対して較が言う。
「夢って言うのは、希望を持って見るもの。番長に希望をもつくらいならもっと他の者に希望を求めるよ!」
「例えば、どんな?」
良美の問い掛けに較がニコリと笑う。
「学校の勉強をきちんとやるヨシとか」
長い沈黙の後、良美が深遠を含んだ瞳で答える。
「世の中には、どんなに願っても無駄な事があるんだよ」
「そうかもね」
脱力した顔になる較。
「どんなピンチでも諦めない二人が絶望するんだから良美の勉強嫌いも大したもんだよね」
中学時代の同級生、赤芽雷華がシミジミというと小較が空になったコップに麦茶を注ぎながら訊ねる。
「雷華さんは、どうしてうちに来たの?」
「コーチのピンチに新しいアイテムをゲットしに来たの?」
茶化す良美を無視して雷華が答えてくる。
「いまさっき上がっていた番長だよ。あたしが通っている学校周辺で番長抗争って奴が起こっているんだよ」
「番長抗争って本気で一昔、いや二昔前の話?」
較の突っ込みに雷華が面倒そうに頭をかく。
「それが現役バリバリ、直近のナウな話。正直、あたしもそんな時代遅れな事に巻き込まれて困っているんだよ」
「巻き込まれたってもしかして雷華も番長なの?」
興味津々の顔をする良美に雷華が怒鳴る。
「違う!」
「そうそう、雷華は、女子だからスケ番だよ」
較が更に茶化すと雷華がニヤリと笑う。
「そういう態度で居てくれて助かる。少しは、罪悪感が減るから」
「罪悪感が減るってどういうこと?」
較が問い掛けると雷華が朗らかに答える。
「いやなに、なんか知らないが剣道番長なんて呼ばれて、挑戦者が耐えないから、こういってやったんだ。『あたしは、四天王では、最弱。大空を制する航空番長、神秘のアイテムを使う神器番長、裏の顔を持つ委員長番長が居て、それら四天王を支配する、素手で全ての敵を蹴散らす鉄拳番長が居る』って」
「なんとなく誰を指しているか解るね」
小較が呟く中、較が顔を引きつらせて訊ねる。
「それで、その鉄拳番長って誰の事?」
「勿論、ヤヤに決まってるじゃないか!」
雷華の答えに較が怒鳴る。
「そんな変な争いにあちきを巻き込まないでよ!」
「えーあたしは、番長になってないの!」
良美が意味不明なクレームを上げると雷華が指を振って答える。
「馬鹿だな。良美は、ボスを倒した後に出てくる真のラスボス、空手番長なんだよ」
「おー!」
目を輝かせる良美を退かして較が詰め寄る。
「ただでさえ、トラブルメーカーって思われているんだから、更に面倒ごとの種を増やさないでよ!」
雷華は、達観した表情で告げる。
「諦めなよ。今更、どんなにあがいた所でヤヤの騒動体質は、改善される事は、無いから」
「諦めたらそこでゲームは、終了なの!」
較が有名漫画の有名な台詞を吐いた時、バイクの排気音と共に大声が聞こえてくる。
「鉄拳番長出て来い! この二輪番長が相手してやる!」
長い沈黙の後、小較がそっと手を上げる。
「あたしが相手して来ようか?」
較が力なく首を振る。
「いい、あちきが行って説得を試みる」
較は、玄関から出るとそこには、いかにもって連中がダース単位で居た。
「えーと、最初に断っておきますけど、あちきは、鉄拳番長とかいうので無いです。番長争いにも興味がありません」
「あったりめーだ! 誰が貴様みたいな小娘を……」
先頭のバイクに乗ったリーゼントの男がそう言っている最中に舎弟の一人が叫ぶ。
「こいつは! 俺が前に所属していたチームを壊滅させた化け物です! ヤバイですよ!」
「へー、流石は、鉄拳番長、暴走族を一人で壊滅させてたか。いいじゃねええか、そんくらいじゃないと相手にならねえぜ!」
目を輝かせるリーゼント。
「待て、ここは、この柔道番長が!」
「違う、茶道番長こそが最強……」
「器械体操番長の実力を見せてやろう!」
「何をいう新体操番長こそが真の最強!」
色物集団が次々と自己主張していく。
「茶道番長ってお茶に毒を仕込んでそうだね」
小較の呑気なコメントに雷華も頷く。
「そして茶筅から出た針でとどめをさすんだな」
そんな呑気の会話と同時進行に番長達も意味不明な自己紹介を続ける。
「そろそろ限界、雷華、来るよ」
良美の言葉に雷華も気付き、深呼吸をして気を張った直後、較が告げた。
「人生を終わらせる覚悟は、ある?」
声と共に放たれた本気の殺気が番長達に襲い掛かった。
長い長い硬直の後、多くの人間が逃げ出して行き、一部残った人間は、意識不明か、恐怖に足も動かせない状態であった。
「学生相手に本気の殺気は、やりすぎだよ」
良美の言葉に醒めた表情で較が応える。
「こんくらいの殺気に負けてるのに最強を名乗るんじゃないよ」
「本当にそうですね」
そういって前に出たのは、茶道番長だった。
「信じられない。ヤヤの本気の殺気を受けて、まだ勝負をしようなんて根性がある奴が居たんだ」
自分に向けられていなかった事と実戦経験の豊富さから無事だった雷華が意外そうな顔をする中、茶道番長が告げる。
「茶道は、今でこそ花嫁修業にあげられる物ですが、元々は、お茶の銘柄を己の誇りを掛けて当てあう闘茶、真剣勝負。私は、その後継者! さあ尋常に勝負!」
差し出されるお茶。
較は、少し悩んでからお茶を一口飲んであっさり答えた。
「なかなかやるようですね。しかし、私に解らないお茶は、ありません」
自信たっぷりに宣言する茶道番長に較は、台所から持ってきたお茶を差し出す。
「こ、これは……」
困惑する茶道番長。
「一番いや二番、うーんしかし……」
悩み続ける茶道番長に較が問い掛ける。
「産地は、宇治で良いの?」
茶道番長が頷く。
「それは、間違いない。問題は、一番づみか二番かということで……」
「ハズレ、それは、宇治の抹茶農家が実験的に行っているオーストラリア産のお茶だよ」
較の答えに崩れ落ちる茶道番長。
「まさか海外産だとは……」
「お茶も生き物、旬を過ぎても美味しい物を作る為に抹茶農家の人が半年季節が違うオーストラリアでの製造を試みている。そんなチャレンジスピリットを知らずに闘茶を語るには、十年早かったわね!」
較の宣言に茶道番長が闘志を燃やす。
「更なる修行を積み、次こそは、勝ってみせる!」
そう捨て台詞を残して去っていく茶道番長を見送りながら小較が言う。
「オーストラリア産の抹茶なんてどうしてあったの?」
「十斗さんが、そういう挑戦的な試みをサポートしてるんだけど、そのスポンサーしてて、その中間報告って奴でね」
較の答えに雷華が言う。
「結局勝負を受けちゃったよね。良かったの?」
冷や汗を垂らしながら較が言う。
「流石にもう来ないでしょう」
「自分の体質をまだ理解して無いな」
良美の呟きが正しい事は、直ぐに証明される事になり、翌日から色物番長達が次々と自分の得意分野で勝負を挑んでくるようになった。
全勝してしまう較が本当に鉄拳番長改め、全勝番長と呼ばれ長々と語り継がれる事になるのであった。




