08 長距離は長かった
08 長距離は長かった
競技会の初日、学生たちは運動着で学院へ向かった。全員分の更衣室がないからだ。
リリーはいつもの乗馬服だったが、エリザは魔法士らしい、とても華やかなローブを着ていた。リリーと入れ替わったため、魔法競技に出場するのだ。
これ見よがしに、大きなきらきら光る杖を背負っている。
一方、リリーは腰につけたポーチにペン軸を入れ、ベルトに短鞭を下げていた。
時間になると、リリーは厩舎へ行って準備を整えた。その場で騎乗し、出発地点まで馬に乗って向かった。
周囲を見ると、馬を引いて歩いている人が多かった。馬を疲れさせないよう、出発地点まで引いていくのだ。
(しまった。目立ってしまったわ)
それでも、早く出発地点に着いたおかげで、前の列に並ぶことができた。
長距離競技は、馬場を全部で四十周する。
観客席には、ナタリーとパトラの姿があった。その隣にいる男性を見て、リリーは首をかしげた。
(どちらのお父様かしら。娘を見にいらしたのね。……愛されているのね)
喉が詰まった。そのとき、馬が首をぐいっと曲げ、リリーの足先を軽く噛んだ。
(そうよね。余計なことは考えない)
リリーはたてがみをなで、前後にいる馬をざっと見渡した。
出発の合図は予想よりも大きな音だった。リリーは驚いて鞍の上で跳ねてしまったが、馬は落ち着いていた。
長距離競技では、馬がつぶれないように走らなければならない。むやみに急ぐものではなかった。
リリーは、目星をつけていた相手が前に出たところで、その馬についていった。
運よく、よい馬とよい乗り手を選べたらしい。前の馬は一定の速度で走り続けていた。
リリーは馬の足の動きに気を配り、痛がる気配が出る前に、ポーチから出したペン軸でそっと少しずつ治療した。
十周したところで、ほかの競技が始まり、学生たちはそちらへ散っていった。
ナタリーかパトラの父親らしい男性は、まだ観客席に残っていた。その視線は、リリーの前を走る馬に向けられていた。
(なるほど。やっぱり、いい馬なのね)
三十周したところで、前の馬が休憩を取った。リリーもそれにならって馬を休ませ、その間に足をていねいに治療した。
最後の一周では、馬が前へ行きたがったので、リリーは走らせた。
出場した三十頭のうち、最後まで残ったのは十六頭だった。女子学生で完走したのは、リリーひとりだった。リリーは四位で、優勝者のタイムは新記録だった。
最後の一周を走っているとき、リリーには、競技の合間に戻ってきて応援してくれるパトラとナタリー、そして、どちらかの父親の姿が見えた。
無事にゴールはできたものの、リリーはへろへろだった。一人では下馬もできず、手を借りて降りた。
(疲れた……)
その日の夕食の席で、パーシーがリリーに尋ねた。
「あの馬、どうなった?」
リリーが答える前に、父が思い出したように言った。
「ああ、長く持ちそうもない馬だったな」
「まあ、つぶれた馬はいらないから、お前が処分しろ! 考えなしでも、それくらいはできるだろう」
パーシーが言うと、父は同意した。
「それでいい」
アナベルが尋ねた。
「考えなしは、馬をどう処分するんですか?」
「アナベルは、そんなことを考えなくていいのよ」
母はアナベルにそう答えたあと、リリーに顔を向けた。
「そんなことを言いだすなんて、本当に考えなしね」
(なんで私?! 何も言っていないのに)
リリーはそう思ったが、話をする気にもなれないほど疲れていた。黙って肉を切り、口へ運んだ。
疲れを回復させるには、食事が大事だった。
リリーはデザートのお代わりをもらった。




