06 いらない馬ってなにそれ!
06 いらない馬ってなにそれ!
リリーはため息交じりに答えた。
「良いのよ。乗馬は嫌いじゃないし、人気競技じゃないけど」
「ただ、ぐるぐる走るだけだものね。馬が!」
二人が声を揃えて言った。
(もう、少しは同情してよね)
乗馬、それも長距離競技は人気がなかった。特に女子学生には。
男子学生にとっては、この競技で勝利すれば騎士団への入団の道が開ける。だが、女子学生で最後まで走り切る者はほとんどいなかった。体力が持たず、途中で棄権してしまうのだ。
エリザは、自分こそ男子を退けて優勝すると豪語していた。ところが、少し走ってみて無理だと思ったらしい。それでも、彼女にとって棄権は恥ずかしいことのようだった。
そこで、リリーに代わってくれと言いだしたのだ。
リリーは魔法競技に出たかった。カラスに治療魔法を使い続けたおかげで、的に水の玉を当てるのは得意だった。
だから断っていたのに、エリザは申込書をこっそり書き換えてしまった。
エリザの従兄弟が生徒会にいるので、その人に頼んだのだろうとリリーは考えていた。だが、エリザは何も認めなかった。どういう理由なのか、リリー自身が申し込んだことになっていた。
出場種目の最終確認でそのことが判明したが、もうどうしようもなかった。
その晩、リリーは夕食の席で父に頼んだ。
「お父様、乗馬の長距離に出ます。馬を貸してください」
「馬? はあ、もういらない馬があったな?」
父は後ろに立つ執事に確認した。
「はい」
執事が答えると、父は顎でリリーを指した。
「それをこれに」
それだけ言うと、父は家族との会話に戻った。
(いらない馬って、なにそれ!)
翌日、学院から戻ったリリーは、制服のまま厩舎へ向かった。
父が言っていたのは、足を痛めた馬だった。リリーが少し治療すると、痛みは取れたようだった。
部屋に戻ってからも、リリーはあの馬をどうやって治療していくか考えた。
そして、お茶会の日。
ロバートは手が痛そうだった。リリーはその手に目を向けて尋ねた。
「手を痛められたのですか?」
「競技で剣術に出るから、練習していたらな」
ロバートの返事はぶっきらぼうだった。リリーには、心配させまいと気を遣うっているように見えた。
そこで、リリーも彼に気を遣わせないよう、そっと治療魔法をかけた。
たいした症状ではなかったので、魔力が散っても効き目はあった。
そのとき、馬車が門を出ていった。妹のアナベルが外出したのだ。最近は丈夫になってきたようで、ときどき街歩きに出かけていた。
やがて、ロバートが帰る時刻になった。
「それでは、また今度。……ではないな。次回は競技会の準備をしたほうがいいだろう。乗馬に出るそうだな。茶会は休みだ」
そう言って、ロバートは帰っていった。
(また気を遣ってくださったのね。確かに来週は忙しいもの)
リリーはすぐに部屋へ戻り、乗馬服に着替えると厩舎へ向かった。
馬は少しずつ治療していたので、だいぶ回復していた。もともとは強い馬だった。それを、兄のパーシーが狩りに出かけた際、乱暴に乗って足を痛めさせてしまったのだ。
まだ長く騎乗すると跛行し始める。それでも、リリーはそれ以上の治療を控えていた。
(すっかり治したら、私から取り上げられそうだもの。今はここまでね)




