05 カラス再び
05 カラス再び
また、怪我をしたカラスだった。
森のなかで、うずくまっている。リリーはそっと近づき、声をかけた。
「怪我ですか? 近寄りますよ」
カラスはこちらを見たが、静かにしていた。
「近寄りますね。つつかないでくださいね」
リリーはそばにしゃがみ、治療を始めた。
(元気になれ。治れ!)
カラスに向かって、思いを込めた。
もう、声に出さなくても治療はできた。幼い頃のように、飛んでけー、と繰り返す必要はなかった。
何度か魔法を使うと、カラスが鳴いた。
「カァーーカァーカァ」
声には力が戻ったようだったが、まだ動こうとはしなかった。
「さわりますよ」
リリーはそう声をかけてから、そっとカラスの体をなでた。
翼にも手を滑らせ、治療を続ける。けれど、なんとなく違和感があった。
(これは、少し長引きそうね)
治療が長引きそうなので、リリーはカラスを家に連れて帰ることにした。
両手で持ち上げると、思ったよりも重かった。翼を傷めないように気をつけながら抱え、裏庭まで運んだ。
けれど、部屋へ連れていくわけにはいかなかった。
幼い頃と違い、今は侍女が部屋に出入りする。普段ほったらかしにされているが、それでも、カラスを見つけられたら何を言われるかわからない。
(どこか、いい場所はないかしら)
あたりを見回していると、クーロが生垣の裏側に止まった。
「コォ」
リリーを呼ぶような声だった。
サンデーもそちらへ向かい、あたりをぐるっと見回した。
「ニャ」
リリーは一羽と一匹のそばへ行った。生垣の裏側なら、庭からは見えにくい。
「ここなら、落ち着けそうね」
リリーは抱えていたカラスを、そっと地面に下ろした。
すると、空を飛んでいたカラスたちが降りてきた。まわりの木や塀に止まり、こちらを見ている。
それは、怪我をしたカラスを守っているように見えた。
(カラスだって、仲間にこんなに優しいのに)
リリーはしばらく、カラスたちを見つめていた。
翌日の昼、ロバートが教室にやって来た。
リリーは驚き、すぐに席を立った。お茶会のあとの寂しさが薄れるほど、うれしかった。
「来てくださってうれしいですわ」
(お昼を一緒に食べてくださるのかしら)
リリーはロバートの少し後ろを歩きながら、期待していた。
けれど、ロバートは歩く速さを変えなかった。足の長い彼についていくため、リリーは歩調を速めなければならなかった。
連れていかれたのは、食堂ではなかった。その手前にある、目立たない植え込みの後ろだった。
ロバートはそこで足を止め、リリーに向き直った。
「お茶会で話した件だが、私は学院で交友関係を広げたいと思っている。だから、婚約者と一緒に過ごすのはよくない」
リリーはロバートを見上げた。
「あなたとは月に二度会っているから、それで十分だと思う。あなたは余計なことを考えずに、勉学に励んでほしい」
それだけ言うと、ロバートは急ぎ足で食堂へ向かった。
リリーはその場に残され、遠ざかる背中を見送った。
(ロバート様には、つい甘えてしまうのね。気をつけなくちゃ)
自分の我儘を反省した。それでも、胸の奥には寂しさが残った。
(でも、ここまで一緒に来たんだから、今日くらいは一緒にお昼を食べてくださってもいいのに)
リリーも食堂へ向かった。
中に入ると、いつも一緒に食べている友人がリリーを見つけ、手を振ってくれた。
リリーも小さく手を振り返した。今日は簡単なサンドイッチを買い、皆のいる席についた。
パトラがリリーに尋ねた。
「ロバート様、何の用事だったの?」
「たいしたことじゃなかったの」
リリーはそう答え、サンドイッチに手を伸ばした。
それから、話題は競技会のことに移った。
「リリーは、今年は何だっけ?」
パトラが尋ねると、ナタリーがリリーの代わりに答えた。
「リリーは乗馬になったのよ」
「あれ? それって、エリザ様じゃ?」
パトラは不思議そうに首をかしげた。
「エリザ様が、リリーに代わってって頼んだのよ」
ナタリーの説明を聞き、パトラは眉を上げた。
「頼むとは、うまく言うわね」
リリーは手元のサンドイッチに目を落とした。
(そのとおり。頼まれたんじゃない。押し付けられたのよ)
「乗馬って人気ないのに、本当にいいの?」
パトラが気づかうように言った。




