04 私はそれなり!
04 私はそれなり!
対象から離れていても治せることに、リリーは気づいた。それもまた、新しい楽しい秘密だった。
後回しにされたり、そっと放っておかれたり。そんな扱いを受けながら、リリーは育った。サンデーがいなければ、クーロがいなければ、孤独に押し潰されていただろう。
けれど、学院に入って人と関わるようになってから、少しずつ自信がついてきた。
家では家族に忘れられ、侍女たちもまともに仕えてくれない。そのため、リリーは自分が駄目なのだと思っていた。
だが、学院では話をする相手ができた。その相手と親しくなり、やがてクラスの人たちとも、普通に笑って話せるようになった。
(自分は、それなりなのだ)今、リリーはそう思っている。
誰かと話せば、相手も笑ってくれる。リリーの話を聞き、声をかけてくれる人もいる。
家族はリリーを大事にしない。それでも、リリーは自分を大事にしようと思っていた。
だからこそ、治療魔法のことは父親に知られたくなかった。
この力を知れば、父親はきっと利用しようとするだろう。それは嫌だった。リリーは家のために何かをしたいとは思っていない。
いつものように、そっとしておいてほしかった。
治療の力は絶対に秘密にする。けれど、魔法が使えることまで隠す必要はない。
そう判断したリリーは、人前では水魔法を使うことにした。
火や風の魔法も試してみると使えたが、水が一番しっくりきた。それで、学院では水魔法を初歩から習った。
魔法の扱い方を学ぶにつれて、治療魔法も上達していった。
リリーは、動き回るクーロに向かって治療魔法を放ってきた経験があるので、動かない的に魔法を当てるのは、とても簡単なことだった。
けれど、目立つつもりはなかった。
リリーは周囲の様子を確かめながら、慎重に、平均点を取れる程度の魔法を使った。
婚約者のロバートは、定例のお茶会にはきちんと来てくれた。
ほかに約束があり、忙しいのに申し訳ないとは思う。それでも、リリーはロバートにだけは我儘だった。お茶会を休みにする気にはなれなかった。
学院には、婚約者同士で通っている人たちがいた。その人たちは朝、同じ馬車に乗ってやって来る。
きっと、どちらかが相手を迎えに行っているのだろう。
リリーもロバートを迎えに行ってみたかった。ロバートに迎えに来てもらえたら、どれほど嬉しいだろうとも思った。
昼食だって、あの人たちのように一緒に食べてみたかった。
それで、お茶会のときに、その話をしてみた。
「学院に、婚約者同士で一緒に通っている方たちがいるんです。同じ馬車でいらっしゃるんですよ」
ロバートはリリーに目を向けた。
「そうなんだ」
「私も、ロバート様をお迎えに行ったり、お迎えに来ていただいたりしたいです。それから、お昼も一緒に食べられたらと思って……」
「なるほどね。わかった。だけど、今日は約束があるから、もう行かなきゃ。また今度」
ロバートはそう言うと、席を立った。
リリーが返事をする間もなく、急ぎ足で行ってしまった。
わずか十分のお茶会だった。
侍女たちは食器を片付けながら、リリーに聞こえるように話し始めた。
「なんだか惨めね。たった十分のために着替えて、すがりついて……片付けをする身にもなってほしいわね。ほんと、考えなしなんだから」
「まあ、厄介者の相手は手早く済ませるしかないわね。さっさと終わらせて、アナベル様のところへ手伝いに行きましょう」
リリーは何も言わず、裏庭へ向かった。
今日はクーロが来ていた。
リリーの姿を見ると、いつもの木の枝から降りて、そばへやって来た。
「コゥコーコー」
クーロは少し歩いてから振り返った。
「コゥコーコゥ」
また歩き、リリーを振り返る。
そこへ、サンデーもやって来た。
「ニャーニャーにゃ」
サンデーはリリーの服の裾を咥えると、そのまま歩き出そうとした。
「どうしたの? どこかへ連れて行きたいの?」
リリーが尋ねると、サンデーは裾を引いた。クーロも少し先で待っている。
「わかったわ。ついていくから、裾を離してね」
リリーが歩き出すと、サンデーは裾を離した。
一羽と一匹が向かったのは、庭の隅にある壊れかけた門だった。その向こうには森が広がっている。
リリーは門を抜け、クーロとサンデーのあとを追った。
森に入って少し歩いたところで、クーロが足を止めた。
その先に、一羽のカラスがうずくまっていた。




