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「またね。次ね。今度ね」は永遠に来ません ~妹に婚約者を取られた令嬢は、魔法の才能で自由になります~リメイク版  作者: 朝山みどり
第二章

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22/24

22 今年の剣術競技会決勝

22 今年の剣術競技会決勝


「おはよう、パトラ」


 リリーが声をかけると、パトラは振り向いた。


「リリー、おはよう。ナタリーも、おはよう」


 挨拶を交わすなり、リリーは二人に教室の隅へ引っ張っていかれた。


「どうだった?」


 パトラが尋ねると、ナタリーも顔を寄せてきた。


「どうだったの? 王子様」


「何よ、ナタリー。馬を見に行ったのよ」


「それにしても、相手が王子殿下だったとは」


 ナタリーは胸をなで下ろす仕草をした。


「そうね。でも、あの子、いい家……でいいのかな? とにかく、いいところへもらわれていったわ。名前までもらっているのよ。ジョンっていうの。体も大きくなっていたから、いい調教師がいるでしょうし、かわいがってもらっていると思う。うちにいるより、ずっといいわ」


「よかったね」


 パトラはそう言ってから、リリーを横目で見た。


「王子様とは何もなかったの?」


「なかった」


「やっぱり」


 パトラとナタリーが顔を見合わせて笑うので、リリーは泣き真似をした。


「ひどいわ」


「そろそろ始まるわ。行こう」


 パトラが促すと、ナタリーも応じた。


「うん、行きましょ」


 リリーはうなずき、二人と一緒に会場へ向かった。


 会場には大勢の人が集まっていた。


(やはり、王子殿下が出るから見物するのよね)


 リリーは観覧席を見回し、父とアナベルを見つけた。


(あら、お父様。ジョンを見たら驚くわね。どう振る舞うかしら? ちゃんとできるかしら?)


 そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。


(ちゃんとするって、この場合、どういうこと?)


 リリーは父とアナベルがいつも視界に入るよう、体の向きを調整した。


 最初に出場したのは、去年も出ていた選手だった。乗っている馬は、別の馬に変わっている。


 巧みな手綱さばきで、癖のあるコースを進んでいく。去年、リリーが進路を間違えた、あの変なコース設定の罠にもかからなかった。


(上手ね。私だって、二回目だったら馬を従わせることができるかも?)


 ほかの出場者も、やはり皆、上手だった。


 そして、ハリソンがジョンに乗って出てきた。


 父は不思議そうに見ていた。入場のときにも何か引っかかっていたようだが、今、改めてジョンを見つめ、その顔に驚きが浮かんだ。


(どうするのが正しいのかしら? 気づかないふり? いい馬でしょう、とか何とか言ってみる?)


 父の様子に気を取られていたリリーは、慌てて競技場へ目を戻した。


(あっ、ジョンを見なくては)


 ジョンは競技を楽しんでいるようだった。ハリソンの指示に応じて動く姿は軽やかで、息も合っている。


 一方、父は動揺を隠せずにいた。アナベルがはしゃいで何やら話しかけても、ろくに返事ができないようだった。


(ふん、小心者ね)


 しばらくすると、剣術の競技が始まった。本戦だけあって、出場者は全員強そうだった。


 二年生の選手と三年生の選手が向かい合う。


 試合が始まると、二人は剣を打ち合わせた。互いの剣に阻まれ、なかなか相手の体には届かない。


 やがて、二年生の剣が三年生の腕に当たった。三年生は痛そうに後ろへ下がったが、すぐに前へ出て、再び打ち合った。


 次は、二年生が打たれた。痛そうだったが、試合は続いた。


 そのうち、二年生の動きが遅くなった。三年生の剣がその首元に向けられ、勝負がついた。


 続いて、三年生のロバートが登場した。一回戦の相手は、小柄な一年生だった。


 その一年生は動きが速かった。それに比べて、ロバートは遅い。どうにか相手の剣に自分の剣をぶつけ、防いでいる。


 だが、ついに防ぎ損ねた。剣が脇腹に当たる。


(あっ、終わってしまう)


 リリーは急いで治療魔法をかけた。


「いいぞ、ロバート! よく我慢した!」


 観客席から声が上がった。アナベルもロバートの名を呼んでいる。


 次の一撃は、脇腹をかすめた。ロバートがうずくまってしまい、リリーはまた治療魔法をかけた。


 相手の一年生は、首をかしげていた。


(確かに、ロバート様は弱いみたい。全然、打ち合いが続かない)


「いいぞ、ロバート! 耐えろ!」


 観客の一人が叫んだ。


「リッチー、決めろ!」


 相手を応援する声も上がる。


(治療を止めたら、これが本来の実力なのね。もう手出しはしないようにしよう)


 リリーはペン軸を握る手を止めた。


 そして、相手の剣が再び脇腹に入り、ロバートは膝をついた。そこで勝負がついた。


 ロバートは、どうにか体を起こした。けれど、アナベルは駆け寄らなかった。


(どうして?)


「どうした! それくらいで痛がるな!」


 観客席から厳しい声が飛んだ。


「今年はどうしたんだ?」


 別の観客が首をひねる。


「あっけないけど、こんなものだよな」


「実力相応だ」


 そんな声も聞こえてきた。


 リリーは、思っていたほどいい気持ちになれなかった。それどころか、去年の自分がしたことが気にかかった。


 これほど弱いロバートを、自分は勝たせてしまったのだ。


(去年、ロバート様に負けた人たちに、悪いことをしたわね……試合に出てきたら治療魔法をかければいいかしら?)


 けれど、すぐにその考えを打ち消した。


(いや、そういうものじゃない。どうしよう……)


 リリーが悩んでいる間に、競技は決勝戦を迎えた。


 騎士団長の息子と、三年生の強そうな選手が対戦する。


 二人は何度も剣を打ち合わせ、目まぐるしく位置を変えた。ロバートが負けたからか、アナベルは騎士団長の息子を応援していた。


 いつまでも試合が続くのではないかと思っていると、二人の間に審判が入り、引き離した。どうやら、引き分けで二人とも優勝らしい。


(こういうルールがあるのかしら? いいやり方ね)


 剣術をあまり知らないリリーにも、はっきりとわかった。この二人とロバートでは、比べものにならない。


(ああ、去年の私を殴りたい)

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