21 はい、最下位ですよ
21 はい、最下位ですよ
その日、家に戻ったリリーを、アナベルが出迎えた。
「お姉様、最下位でしたね」
「そうですね」
リリーはあっさりと受けてから、尋ねた。
「アナベルは何に出たのですか?」
答えはわかっていた。的当てだ。ほかの競技に出られない生徒が参加する、手でボールを投げるだけの競技だった。点数もつかず、手持ちのボールがなくなれば終わりになる。
アナベルは質問には答えず、話題を変えた。
「明日はロバート様が出場しますから」
「そうですね。去年優勝したから、予選免除でしたね」
「そうです。私のために優勝したんですよ」
リリーはそこで話を切り上げ、無言で部屋に戻った。
今日、王宮魔法士部隊への採用が決まったことは、秘密にしておくことにした。アナベルは、最下位だったと言い立てるだろう。
(第十位よ。マイナスだけど。何人が魔法競技に出たと思っているの?)
夕食の席では、翌日の剣術大会の決勝が話題になった。
「ねえ、ロバート様は私のために、ずっと頑張ってきたのですよ。それにね、私と会うと怪我が治るんですって」
アナベルが嬉しそうに話すと、リリーはわざと首をかしげて言った。
「気のせいでは?」
「そんなことないです。前の日に怪我をしても、朝、私に会うと痛みが消えるんです。治療師より効くんですよ」
「そうですか? もしかしたら、アナベルは癒しの力を持っているってこと? まさかぁ……」
リリーがそう言うと、母がたしなめた。
「どうして、そんな意地悪を言うの? 怪我を治してあげたいという優しい気持ちが、怪我を治すんですよ」
「そうなんですか? それなら、ロバート様は怪我をしても困りませんね。もしかしたら、最近の小説に出てくる聖女だったりして」
最近、聖女が登場する小説が大当たりしていた。作中で聖女が食べるクレープも人気になり、専門店や屋台が増えている。
リリーも放課後、パトラとナタリーと一緒に食べたことがあった。あれは美味しかった。
「聖女なんて、そんなことないですわ」
アナベルは遠慮するように言った。
(当たり前じゃない。治療しているのは私だし)
ところが、意外にも父が口を挟んだ。
「いや、アナベル。案外そうかもしれないよ」
聖女だったら、確かにすごいことだろう。だが、リリーの知る聖女は、小説のなかの存在だった。
「お父様、もし聖女になって教会へ行くことになっても、私はずっとこの家の娘ですわ」
「アナベル。ありがとう」
(何、この父娘。馬鹿じゃないの)
リリーが呆れていると、母が話しかけてきた。
「リリー、あなたは魔法の競技に出たんですって?」
けれど、リリーが答える前に、アナベルが口を開いた。
「最下位です」
「最下位?」
兄がすぐに反応した。
「そうなんですよ」
アナベルは得意げに答えた。
「まあ、最下位でも出場しようとするところは、考えなしのリリーらしいね」
兄が笑うと、父も同意した。
「確かに」
「本当ね」
母まで一緒になって笑った。
(本当に、私には何を言ってもいいと思っているのね)
リリーは家族の顔を眺めた。
(明日の夕食が楽しみだわ。どんな顔をしようかしら)
リリーは、いつになく上機嫌で席を立った。
翌朝、ロバートはいつものようにアナベルを待っていた。
リリーは彼に挨拶をしながら、いつもより念入りに治療魔法をかけた。
(万全の状態で出場して、負けてね……)
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「 黒と青、金と青、銀と紫」の投稿を再開しました。読んでみてください。




