15 学院の三年目
15 学院の三年目
リリーは、婚約を解消したことをナタリーとパトラに報告した。
だが、二人は驚かなかった。競技会で、優勝したロバートに抱きつくアナベルの姿を見ていたからだ。それに、食堂でロバートがリリーに一度も声をかけなかったことも、二人は知っていた。
「それは残念だったわね」
ナタリーは言ったが、少しも残念そうではなかった。
「リリーなら、もっといい人が見つかるわ」
パトラは優しく慰めた。
リリーは二人に、自分の考えを伝えた。
「婚約者がいなくなったことは残念だけど、ロバート様のことは残念じゃない。私は、結婚しなくてもやっていけるように考えるわ。魔法の教師になってもいいし、文官として働いてもいいし。武官として働くのは……ちょっと無理かもしれないけど」
冗談でも、強がりでもなかった。
(ロバート様は、もういらないわ)
リリーは自立するつもりだった。両親はリリーのことを、たまに思い出す程度なのだから。
「そうね。リリーなら大丈夫。成績もいいし」
パトラは賛成した。だが、ナタリーは悔しそうだった。
「だけど、ロバート様は騎士として有望でしょ。なんといっても優勝したんだから。二年生での優勝なんて、滅多にないことよ」
ナタリーは言葉を続けた。
「騎士団長の息子さんが期待されていたけど、それよりすごかったのよ。騎士団への入団も決まっているし、そのうえブラックレイク侯爵家のご子息でしょ。将来は華やかでしょうね。あんなに派手に優勝したんだもの。ほんと、あんなやつなのに」
(優勝させたのは私。誰にも言えないけどね。だから、将来だってたいしたことはないわ)
リリーは二人に笑いかけた。
「大丈夫よ。案外、私の将来のほうが、たいしたものかもしれないでしょ」
「リリー様、素敵!」
ナタリーが調子を合わせた。
「さすが、偉大なリリー様」
パトラも笑った。
婚約がなくなっても、リリーの日常は変わらなかった。月に二回、十分で終わるお茶会がなくなっただけだった。
ルビーとエメは、嬉々としてアナベルの世話をしていた。
リリーは卒業後の自立に向けた練習だと考え、身支度もできるだけ自分で整えるようになった。侍女たちはリリーの世話をせずにアナベルのそばにいられる。リリーも自立に近づける。
(双方にとって、お得ね)
そうして日々が過ぎ、新しい学年を迎えて、リリーは三年生になった。アナベルも学院に入学した。
第三王子のハリソン殿下も同じ年に入学し、アナベルと同じクラスになったという。
「とても気さくな方なの。アナベルによく話しかけてくださるのよ。いい方だわ」
アナベルはそう話していた。
ロバートは毎朝アナベルを迎えに来るようになった。昼食も一緒に取っているらしかった。
相手が変わると、こんなにも態度が変わるのかと、リリーは感心した。
(本当に、私のことを気に入っていなかったのね)
朝、迎えに来たロバートと初めて顔を合わせたとき、リリーは先手を打った。
「おはようございます。ロバート様」
足を止めずに挨拶し、そのまま自分が乗る馬車へ向かった。
それ以来、毎朝同じようにしていた。そして、挨拶の際に、少しだけ治療魔法をかけた。
(競技会までは、故障なく頑張っていただかないと)
ロバートは何か言いたそうだったが、リリーは気づかないふりをしていた。今さら、彼の言いたいことに関心はなかった。
(何故、こんな人をたった一人の人だと思っていたのかしら。やはり、視野を広く持つことは大事ね)
だが、悔しいこともあった。
アナベルの誕生日に、ロバートが少し高価な装身具を贈ってきたのだ。アナベルは、それをリリーの目の前で見せびらかした。
(何、この扱いの違い!)
リリーはその贈り物を見て、胸の内で言った。
(でも、見てなさい。しっかりやり返すから)




