14 いらない馬の行き先
14 いらない馬の行き先
話は少し遡り、競技会の翌日。
「おはよう、リリー。あの馬のことだけど」
顔を合わせるなり、ナタリーが切り出した。
「おはよう、ナタリー。馬って、あの馬?」
「うん。お父様がね、欲しいって」
「欲しい?」
「うん。いい馬だって言っているの」
「もらってくださるなら、そうしてほしいわ。家では好きにしろって言われたの。最初から、いらない馬だって」
そこへやってきたパトラが、話に加わった。
「ひどい。いらない馬に乗せられたの?」
そのとき、生徒会の役員たちがやってきた。
「リリー様、出場してくださいまして、ありがとうございました」
別の役員も声をかけた。
「障害馬術で三位、おめでとうございます。順路を間違えなければ、一位でしたね」
「正しい順路に進ませられなかったのは、私ですから」
リリーが答えると、役員はさらに言った。
「でも、あの馬を従わせました」
「思い切り鞭を使いましたから」
「確かに、見事でした。あんなに力強く、ばしっと」
(なんだか、私がひどい人間みたい……)
リリーの顔を見て、役員は慌てて話を戻した。
「すみません。あまりに見事だったので、つい……。今日伺ったのは、あの馬を譲ってほしいという問い合わせが、生徒会に届いたからです」
役員は言葉を選びながら説明した。
「先方は、ご実家へ直接連絡すると話が大げさになるのではないかと、心配なさっていまして」
「それで、私たちが代わりにお話を――」
「あの馬は、うちが買います」
ナタリーがきっぱりと言った。
(お父様はまだ、何も決めていないはずなのに)
リリーは驚いてナタリーを見た。
「ああ、すでにお話が進んでいたのですね」
「当たり前でしょ。親友よ」
ナタリーは胸を張った。
「わかりました。すでに決まっていたとお返事します」
生徒会の役員たちは、そう言って帰っていった。
「ちょっと、ナタリー。買うって?」
リリーが尋ねると、ナタリーは頼み込んだ。
「お願い。今日の帰りにうちへ寄って。父と話をして」
「わかった」
競技会で応援してくれた、あの父親に会うのだと、リリーは思った。あの方がナタリーのお父様だったのだ。
放課後、ナタリーの家へ行くと、父親のフォード伯爵が待っていた。本当に、あの馬が欲しいということだった。
リリーも馬をどうしようかと心配していたので、引き取ってもらえるならうれしかった。代金はいらないと伝えたが、フォード伯爵は、どうしても代金を払いたいと言った。
そこでリリーは、馬について父と兄が言ったことを、正直に話した。
続いてナタリーが、生徒会の役員たちとのやり取りを説明した。
「危なかったわね。生徒会に先に動かれたら、リリーのご実家に話が伝わるところだったわ。朝一番に話しておいてよかった」
「いや……生徒会から……それは……」
フォード伯爵は考え込んだ。生徒会を通して問い合わせてくる者に、心当たりがあるようだった。そして、改めてリリーに向き直った。
「なるほど、そういうことなのですね。……そういうことでしたら、こうしましょう。リリー嬢、生徒会の人ともう一度話をして、そちらに引き取ってもらいなさい。そのほうが、あなたのためになる」
リリーは驚いて伯爵を見た。
「うちで引き取ると、あなたとご家族の関係や、貴族同士の付き合いで、面倒が生じるかもしれません」
伯爵はそう説明すると、穏やかに話を締めくくった。
「今日はよく来てくれたね。ゆっくりしていってください。ナタリー、頼んだぞ」
そう言って、フォード伯爵は部屋を出ていった。
「はあ、面倒ね。でも、お菓子を食べちゃお」
ナタリーはマドレーヌに手を伸ばした。
「あの馬、いつまでも学院に置いておけないし、どうしようかと思っていたのよ。だから、引き取ってくださるなら、どなたでもありがたいわ」
リリーが言うと、ナタリーは不思議そうに首をかしげた。
「でも、どうしてあなたのおうちでは、あの馬をいらないって言うのかしら」
「そうね」
リリーは小さく答えた。
(私の治療が上手だから、あそこまで回復したのよ。今の馬を見たら、父も兄も、いらない馬だなんて言わないでしょうね)
けれど、二人は見もしないで処分しろと言ったのだ。
(こちらが気を遣う必要はないわ)
お菓子とおしゃべりを楽しんだリリーは、馬車で送ってもらい、家へ戻った。
翌日、リリーは生徒会室へ行き、手続きをすべて任せられるなら馬を譲りたいと伝えた。
「よかった。先方もお喜びになります。それでしたら、ご実家への報告は、手続きがすべて終わってからでよろしいですね」
役員の言葉に、リリーはうなずいた。
(これで、馬の問題は終わりね)
放課後、リリーはリンゴを持って厩舎へ行き、馬に別れを告げた。




