13 ひとりのお茶会
13 ひとりのお茶会
「あずまやでお茶を飲みたいから、用意して」
リリーは専属の侍女、ルビーとエメに命じた。
二人は子どもの頃からリリーに付いていた。専属の侍女は付けてもらえていた。令嬢としての体裁も、一応は整えられていた。
ただ、両親は侍女がきちんと働いているかどうかを気にしなかった。リリーに関心がないのだ。
(侍女だって、ないがしろにされている私より、アナベルに仕えたいでしょうね。それは理解できるわ)
だが、侍女たちは命令に従うどころか、言い返してきた。
「なんですって、お嬢様。私たちは忙しいのですよ」
「私の世話以外に、何が忙しいの?」
リリーが尋ねると、侍女の一人が吐き捨てるように言った。
「これだから、考えなしは」
「わかりました。お忙しいところ、どうも」
リリーは自分で厨房へ向かった。
お茶を入れたポットと、お菓子を載せた皿をお盆に載せ、自分であずまやへ運んだ。
あずまやは客間から見える場所にあった。見せつけるには、ちょうどいい。
リリーは一人で悠々と席に着き、お茶を飲み、お菓子を食べながら泣いた。水魔法で涙を増やした。
悲しいからではなかった。悔しいからだった。
涙を流し、ハンカチで大げさに拭った。
さりげなく客間を見ると、向こうでもこちらを気にしているようだった。
(やりすぎは禁物ね)
リリーは自分でお盆を持ち、席を立った。
夕食の席で、母がリリーを叱った。
「ちょっと、いい加減にしなさい。どれだけ軽率なの。侍女は何をしているの?」
「何のことでしょうか?」
「あずまやよ。何故、自分でお盆を運んでいたの? それに、婚約を解消したばかりなのに、よく平気でお茶など飲んでいられるわね」
リリーは落ち着いて答えた。
「はい、お母様。最初のご質問については、侍女が働かないからです。婚約解消のことですが、婚約を解消された場合、どのような反応を予想なさっていたのですか?」
そして、母の顔を見ながら付け加えた。
「婚約を解消されたので、泣いていたのですが……」
「そ……それ……それは……」
母が口ごもると、すかさずアナベルが口を挟んだ。
「お姉様は考えなしですね」
いつもの得意な言葉だった。
「本当にそうだ」
父が同意した。
「まったくだ」
兄のパーシーも続いた。
「本当だ」
弟のカールまで賛同し、母もそれにうなずいた。
リリーはすべて無視した。じっと母を見据え、答えを待った。
慈愛に満ちた微笑みを浮かべているつもりだった。
「奥様」
リリー付きの侍女、ルビーが呼びかけた。
「何?」
母が振り向くと、ルビーは言い訳を始めた。
「その、私たちは忙しかったのです」
「ブラックレイク侯爵様をお迎えするお茶会の準備で、忙しかったのです」
もう一人の侍女、エメも続けた。
「なるほどね。わかりました」
母はそれで話を打ち切った。これ以上は夕食時に話すことではないと判断したようだった。
リリーが謝れば、それで終わるつもりだったのだろう。だが、リリーは謝らなかった。
むしろ、追い打ちをかけた。
「婚約者を妹に取られて婚約を解消された姉は、どういう態度を取るのが正解なのか、明日にでも教えてくださいませ。お母様」
そう言いながら、リリーは涙をぽろぽろと流した。
(水魔法って便利)
「ひどい。私が取ったって……」
アナベルが抗議すると、リリーは優しく説明した。
「あら、アナベル。この二人が話していたの。お茶会を早々に抜けて、あなたと会っていたのにって。婚約者の私とのお茶会を十分で終わらせて、あなたと会っていたのでしょう?」
リリーはルビーとエメに視線を向けてから、アナベルに戻した。
「ブラックレイク家とうちの両親がそれを認めていたという話が、使用人の口から広まるのよ。だから、私が取るべき態度を、お母様にご指導いただきたいの」
父が何か言いたげにリリーを見ていた。
(珍しい! ううん、初めて?)
母はショックを受けたようで、顔色が悪かった。
だが、リリーにはどうでもよかった。涙を拭きながら、デザートが配られるのを待った。
(席を立って、これで終わりになんてしないわ)
パーシーとカールは、居心地が悪そうにしていた。




