10 剣術の試合
10 剣術の試合
馬の手入れを終えて着替えると、リリーは剣術の会場へ向かった。
来賓の観覧席には、いかにも偉そうな人々がずらりと並んでいた。ナタリーの父もそこにいた。そして、驚いたことに、リリーの父とアナベルの姿もあった。
(私の競技は、一度も見に来なかったのに。ロバート様の応援にいらしたのね)
自分の婚約者を応援しに来てくれた。ロバートのよさをわかってくれたのだと思うと、リリーはうれしかった。
(せっかく見に来てくださった二人を、がっかりさせたくないわ)
リリーはポーチからペン軸を取り出し、握り締めた。
障害馬術の結果は、すでに三位と出ていた。表彰は、剣術の試合が終わってから一緒に行われることになっていた。
だが、今は自分の結果より、ロバートの応援だった。
三試合目に、ロバートが出てきた。相手はロバートよりも背が高かった。
ロバートが剣を振り上げた瞬間、相手がその脇腹を打った。リリーはすぐにペン軸を向け、痛みを抑える魔法と治療魔法を放った。
ロバートは痛そうに顔をしかめたものの、何事もなかったように後ろへ下がった。
それからも、相手がロバートを打つたびに、リリーは治療を続けた。何度打たれても、ロバートは止まらなかった。がむしゃらに剣を振り回して前へ出る姿に、観客席から歓声が上がった。
「あの子、打たれ強いな」
どこかで、そんな声がした。
(私は婚約者なのだから、誰よりも大きな声で応援してもいいはずよね)
それでも、声を出せなかった。
アナベルが大きな声で応援していたからだ。
(ロバート様の婚約者は、私なのに……)
そんな思いが胸に浮かび、リリーはペン軸を握ったまま、試合を見つめていた。
そして、ついにロバートが振り回した剣が、相手の肩に当たった。相手は剣を取り落とした。
ロバートの勝利だった。
父とアナベルが拍手を送った。アナベルは身を乗り出し、ロバートを呼んだ。
「ロバート様ー!」
その声は、応援というより、自分のものを呼ぶようだった。
ロバートを認め、褒めてもらえてうれしいはずだった。それなのに、リリーは嫌な予感を覚えた。
(次の試合は、私も大きな声で応援しよう)
ロバートの次の相手が姿を現すと、会場に大歓声が響いた。騎士団長の息子だった。
(すごくすてき。ロバート様より、少しだけすてきだわ)
その相手の攻撃は、とても速かった。
だが、リリーは最初から治療魔法を飛ばしていた。
(私のほうが速いもの)
リリーの治療を受けながら、ロバートは戦い続け、その試合にも勝った。
勝ったのを見て、リリーは息を吸い込んだ。だが、やはり声は出なかった。
そして、決勝戦。
リリーはロバートにペン軸を向け、治療魔法を送り続けた。その助けを受けたロバートは、ついに決勝でも勝利し、優勝した。
(ロバート様が優勝した!)
婚約者として祝福しようと、リリーは競技場へ向かおうとした。
だが、アナベルがいち早く観覧席から降り、ロバートに抱きついた。
「ロバート様、さすが私のロバート様!」
アナベルの声が、リリーの耳に届いた。
(私の、って何? ロバート様の婚約者は、私なのに……)
リリーの足が止まった。
二人に向けて、歓声が上がっていた。
その歓声は、邪魔者はリリーだと告げているようだった。




