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うらめしちゃんはうらめしい!  作者: 花山 花
存在しないおばけ屋敷の仕掛け

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9. 幽霊、おばけになる2


「……思ってたより怖くないっていうか、ちゃちいなぁ……」


 そう言って歩くのは十六、七歳位の女の子。

 おそらく天ヶ原ワールドパークの遊園地には他にないおばけ屋敷があると聞いてやってきた口だろう。

 家族で来ていたが、おばけ屋敷と聞いて両親と妹は渋ったため、一人で入ってきている。


 不気味な妖精たちが潜む森を過ぎれば、血まみれの斧と腕が置かれた切り株。

 しかし彼女にはその演出も物足りなかったようで、少しばかりつまらなそうに口を尖らせる。


 かりっ


「っ!!」


 僅かに気を抜いた瞬間、目の前の茂みが音を立てた。

 見下ろせば、茂みの中から伸びた一本の腕が、かりっかりっと小さく地面をひっかき、音を立てながらゆっくりと茂みの奥へと消えていくところだった。

 

「ちょっと……今のはびびったかも……!」


 切り株の上の手とは比べ物にならないリアルなのもあるだろうし、『入ってきたときにはなかったはずの腕がいつの間にかあった』のもきっと恐怖の一因となっている。

 しかし彼女は泣くことも足を止めることもなく、少しばかり身を縮こませて足を進めた。


 次に飛び出してきたのは動物のパーツをいくつも継ぎ接ぎしたような人形。その先の小屋には不気味なミイラや内臓が並び、さらに奥には人体を埋め込んだ巨大トンボ。

 きょろきょろと物珍しげに辺りを見渡していたが、その辺りの仕掛けはあまり怖くもなかったようだ。

 唯一、雨戸にぶつかってきた黒いローブのゾンビにだけは肩をビクつかせて、小さく悲鳴を上げていたが。


 小屋を抜け、死体の廃棄された井戸を抜ければ出口までもう少し。

 井戸の上の人頭芋虫がこのおばけ屋敷最後の大きな仕掛けだ。

 つまり――一番の怖いポイントはここであり、この場所こそが一番の脅かしどころだった。


 女の子が井戸を見て足を止める。

 センサーが反応して、人頭芋虫が動く。

 それに合わせて響く機械音のような悲鳴。

 悲鳴を上げるほどではない、でも驚いて少女が僅かに身をそらす。

 この瞬間! ずらさず! すぐ後ろ! ベストポジションで姿を現す!

 と同時に!


《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛》

「ひゃ――」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「っきゃあああぁあぁぁぁ!!」


 耳元すぐ側で、機械の音声のように意味のない声を出した瞬間、女の子が飛び上がって後ろを向いた。

 しかし振り向くより前、もっと言うと悲鳴を上げたとほぼ同時に、姿を消すよう力を抜いている。

 ので当然、振り向いたそこには誰もいない。

 彼女は顔をひきつらせ、出口に向かって小走りで走っていった。


『……完璧では!?』


 いやーこれまでで最高の出来! タイミング絶対完璧だった!!


『やっぱ悲鳴あげてから姿消すんじゃ間に合わないな。

 悲鳴あげながら力を抜くぐらいでちょうど振り向くときには消えてる感じか』


 この真後ろから声は本当にみんなビビってくれるから実にやりがいがある。

 まぁ誰もいないはずの後ろから唐突に声は絶対怖いよな。それも耳元側だもん。怖くないわけがない。


 ただ近くで声をかけるというのがかなり際どい。

 全身を見せる・全身を消すという二択しかないので、タイミング外すと見られちゃうんだよね。ぶっちゃけ、二回ほど失敗した。

 ただ本当に真後ろだし、即消えたから顔しか彼らには見られてない。

 その顔だって一秒もしないうちに消えたんだからろくに見えちゃいないし。下手したら影と見間違えたと思われる程度のほんの一瞬だ。


『でもタイミングはこれでいいとして、やっぱり掛け声はもうちょっと工夫を入れたいなぁ……できる限りおばけ屋敷に演出は合わせると決めたとはいえ、こんなあーあー言ってるだけより、もっと怖がらせるセリフあるはず……いやでもなー!』


 なんかいいセリフないかねえ、と人頭芋虫さんに聞くが当然無言である。

 

 あれからさらにおばけ屋敷に入り、自分が脅かすことを念頭に色々見て回り、さらなる修行を一か月積んだ結果。

 なんとこのおばけ屋敷だったら平気で居座れるようになったのだ!!

 今なら一人でも入れる! ……まぁ一人で入るとセンサーが反応しなくて、ただただ歩くだけになるから、思いの外怖くなかったのも大きいけど。


『それにおばけ屋敷が特殊なのか、それともわざわざおばけ屋敷に入るような人は霊感高い人が多いのか、前よりも私のこと見える人が多いんだよなぁ。

 たくさんの人に見てもらえるなら、よそに行く前にここで色々試していきたいし……』


 もしかしたら私の力が強まったという可能性もあるが。なんだか前に比べて私のことを見れる人が増えてる。

 前は見えてる人と見えてない人が二:八くらいで、見えない人の方が圧倒的に多かったのだが、今では体感で四:六ぐらいまで見えている人が増えている気がする。


『でもあくまで間借りしてる身だし、下手なことしてクレーム起こしたら最悪だし……』


 そうなんだよなぁ……。

 このおばけ屋敷のコンセプトと仕掛けに合わせてってなると、あんまりできることないんだよね……。

 ある程度慣れたら、私と相性の良い他所のおばけ屋敷に行ってみてもいいかも……いやでもやっとここに慣れたのに、また新しいおばけ屋敷に慣れようと思ったら何ヶ月かかるか……。


『どうしよ……あ、お客さん! 平日なのに今日はよく来るなぁ』


 というか最近お客さんの数がちょっと増えてる気がする。

 特に長期休みの時期に被ってるわけじゃないと思うんだけど。


『……おばけ屋敷が評判になったからお客さん増えてるのかな? だったらいいなぁ』



 なんてそんなことをのほほんと考えていたが。



「あ、江川さん。今日は自分が最終点検やるからそのまま帰っていいよ」

「え? いいんですか。大磯さん、昨日も残ってたのに」

「いいよいいよ。今日はちょっと原田チーフとのミーティングがあってね……点検と閉めるのはその後になりそうだから……」

「……なにかあったんです?」

「いやぁ……ちょっと、最近の口コミの件で……まぁ、今日まとめた話を明日辺りにみんなにもすると思うから」


 そう言って大磯さんは疲れたように息を吐いた。

 ……えっ、なにごと。


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