10. 注:おばけ屋敷はサービス業である
「悪いね、大磯くん。こんな時間まで残ってもらって」
営業終了後。
原田チーフという方と大磯さんがやってきたのは、おばけ屋敷に一番近い建物にあるスタッフルームだ。
長机とパイプ椅子が置かれた、遊園地の華やかさとは裏腹の会議室のようなシンプルで事務的な部屋である。
聞いといたほうが良いだろうな、と姿が見えないのをいいことに大磯さんについてきたのだが。
……なんか空気が重い……いや、困惑というか……何の話だろう。
「いえ……まぁこの間報告したSNSや口コミのことでしょう。ただ先の報告で上げた通り、現場としては何もないとしか言いようがないんですよ」
「ああ、うん。それはわかってるよ。念のためこの後一緒に最終点検をさせてもらうけど、先にカメラの映像は確認させてもらってるからね……」
「……監視カメラの映像からは、どの客も何もないところを見て驚いてるようにしか見えないんです。なのにSNSではまったく同じ内容の投稿が複数見つかって……。
水谷くんなんかは本物の幽霊だって騒いでますが」
「いっそ本物だって目に見えてわかる現象が起きてくれればと思うよ、もう。
こんな同じ場所で同じ『仕掛け』をする幽霊が本当にいるんならね」
『えっ』
「……ですよね。投稿やカメラ映像での確認になりますが、全部で四ケ所。そのうちの一ケ所だったり三ケ所だったり、お客によって変わりますが、必ずここのどこかです。
……まぁもともとうちはそんな集客数が多いほうじゃないですし、SNSで感想まで、それも細かく言ってくれる人なんて数えるほどです。
何が起きてるのかきちんとわかってるのは、うち二ケ所だけですが」
「……ここまで同じ目撃が複数となると、仕様にない『仕掛け』を勝手に設置したと取るべきなんだろうけどね……普通は」
『あっあっ……!!』
ものすごい神妙な顔で話す二人の話をまとめると、つまりだ。
おばけ屋敷の雰囲気に合わせた私考案の脅かし方のレパートリーの少なさ、そしておばけ屋敷の仕掛けに紛れるような脅かし方が、あまりにも『仕掛け』として整いすぎて、まずいことになっているらしい。
二人の話を聞いて今更ながらきちんと理解したのだが、おばけ屋敷は遊園地の一部であり、きちんと計画されて建てられたレジャー施設なのだ。
プロの考えた設計に基づき、安全管理をきっちり守った仕様で作られ、きちんとした運用ルールを徹底的に守り、お客様を『驚かしてビビらす』のではなく『安全に恐怖を楽しんでもらう』サービス業なのだ。
当然ながら守らなければ営業すら許可されない規約や項目もたくさんある。
たとえそれでお客さんが喜んでくれようが、売上が上がろうが、現場が勝手に変えていい訳がない。
……おばけ屋敷って怖がらせればいいわけじゃないんだな……。
よくよく考えたら当たり前だけど、お金もらってるんだからそれ相応のサービスを提供する義務があるわけで。
「一回、二回ぐらいならまぁ珍しくもない話なんですが……」
「きっちり二ヶ月前から、それもこうも同じ目撃証言ばかりじゃあねえ……」
『あうあうあう……!』
たぶんこれで目撃情報がバラバラだったり、こんなに目撃数が集中してなかったら「見間違いだろうね」で済んだんだろう。
おばけ屋敷ではパニックを起こす人だって珍しくないし、何よりとても暗い。見間違いを起こしやすい環境だ。
あるはずのない仕掛けを見たっていうのはおばけ屋敷でもよくある話らしい。
じゃあ私もセーフじゃない? カメラにだってなんにも写ってないんだし! ……とはならない。有罪。
まずい点その一。
必ず同じ四ケ所のうちで起こること。
一応うち二ケ所はおばけ屋敷本来の仕掛けに合わせて驚かしてるので、お客さんの勘違いだとギリ言い張れなくもない。
でも残りの半分がアウト。本来仕掛けも何もないところで、見間違えるようなものも一切ないのだ。
まずい点その二。
私がここにきた二ヶ月から急に目撃されるようになった、しかも勘違いと言えないほど目撃数が多い点。
前々から似たような目撃情報があった、それも数が少ないならまだしも、こんだけ急に増えたら当然普通は二ヶ月前からなんか起こったと考える。
まずい点その三。
その目撃がすべて、このおばけ屋敷の流れや仕掛けに沿ったものであること。
初期のセーラー服の女の子がいた! とか、道を塞ぐように首の取れた女の子が出た! とかだったらこんな疑いは起きなかった。
お客さんからクレームは入ったかもしれないが、監視カメラにも何にも写ってないし、そんな雰囲気ぶち壊しのお客さんにもスタッフにも迷惑でしかない脅かし方なんて普通ありえない。
それなら「さすがにこれは本物の幽霊では?」とワンチャンなったかもしれない。
しかしこのおばけ屋敷に則った脅かし方、よく言えば「お客さんがおばけ屋敷の仕掛けとして楽しんだ」で収まる脅かし方しかなかったのが、「これはおばけ屋敷の客を増やそうと誰かが勝手に仕掛けを追加したのでは?」という疑惑をより強めることとなった。
「いやいっそ誰か犯人がいて欲しいと思う気持ちは私もわかりますよ。
下手したら監査が入る可能性があるのもありますが……この投稿を見て来場される客が増えたらと思うと……。
うちにはない仕掛けだといったところで、これだけ投稿があれば納得もしないでしょうし、この投稿を見て来場して、聞いてた話と違うとクレームが起きる可能性もありますし……」
「原因がわからない以上、いつまで目撃者が出るかもわからないのもね……」
『すみ、すみませ……!』
驚かして、お客さんが恐怖を楽しんで、怖かったって評判になれば良いんじゃないんだ……。
やばい、どうしよう……!
しかもずっとここで脅かし続けるつもりもなかったのにやるべきじゃなかった……。
迷惑をかける脅かし方はしないと誓っておきながら、初っ端からこのザマ……!
と、とりあえず迷惑だからってすぐやめるのも問題だよね……評判良さげだった脅かし方は一日二、三回程度まで減らして……脅かすお客さんの数もちょっとずつ減らしていこう……! あと驚かし方もちょっと手を抜いてお客さんがわざわざ口コミに書いたりしない程度の出来にして……い、一ヶ月くらいかけて、ゼロにすればやんわり収まる……? いける? 無理? 無理かな……!?
「……ただまぁ、とりあえず今回は大磯くんたちが関係ないってわかればいいよ。
運よくというか悪いと言っていいのか、わからないけどね……」
「? どういうことでしょう」
「うん。ここだけの話にしといてほしいんだけどね。
ホラーハウスなんだが、夏季シーズンで営業終了することに決まったんだ」
「は……?」
『えっ!?』




