11. 犯人幽霊との最終点検
天ヶ原ワールドパークは家族向けの遊園地だ。
メインとなるアトラクションはジェットコースター、観覧車、ゴーカート。
あとは最近リニューアルしたメルヘン劇場という大きな舞台があり、そこで行うミュージカルやヒーローショーも人気らしい。
単純に子供が好きそうなアトラクションが人気上位を占める、そんな遊園地だ。
無論、天ヶ原ワールドパークがそこに力を入れ、大々的に売り出しているんだから当然と言えば当然だろう。
そんな中、ここのおばけ屋敷は中々特殊な立ち位置だった。
まず単純に子供からの受けはよろしくない。
おばけ屋敷に入りたい! と親にねだる子供も珍しいし、怖いもの見たさの子供が楽しむには雰囲気がちょっと特殊すぎる。
おばけ屋敷に率先して入りたがる強気なお子様も何人か見たが、よくある「ひゅ~どろどろ~」といった日本屋敷風のおばけ屋敷じゃないのを見て、「これじゃない」と言わんばかりの顔をしていた子が多かった。
じゃあ人気がまったくなく、潰してしまったほうがいいレベルなのかというとそうでもなく。
メルヘンホラーな雰囲気が一部の層に受けて、他にないおばけ屋敷だとそこそこ評判となったのだ。
だがしかし他のアトラクションほどの集客力があるというわけでもなかった。
おばけ屋敷の出来としては、当時そこまで力を入れて建てられたアトラクションではない。しっかりとお金をかけて建てられたおばけ屋敷と比べたら、やはり粗が目立つし、作りも安っぽい。
まったくお客さんが入らないわけではなく、評判もそこそこあり、しかしメインとなるにはあまりにも弱く、高いお金をつぎ込んで改修までするのは微妙なライン、というのがこのおばけ屋敷だった。
そして近年、交通事情も変わり、お客さんの数も昔よりも減り、遊園地としてもテコ入れしないといけないと言う話になり、お客さんがこない、未だ改修していない古いアトラクションに手を入れようということになった。
で、この度、いい加減おばけ屋敷をより本格的なものにするか、別のアトラクションに舵を切るべきか話し合われた結果。
夏季シーズンいっぱいでおばけ屋敷の営業を終了し、新たなアトラクション施設を新設することに決まったということだった。
「もう決定ではあるんだけど、今のところはまだ上の方で止めてる状態の話なんだよ。
まぁそれなのにその話がどこかから漏れて、ホラーハウスの営業終了を避けるために勝手に手を加えたんじゃないかという話がちょっと出てね……」
「いや、ありえませんよ。そんなこと。クビになるわけではないんでしょう?」
「そりゃあもちろん。次オープン予定のアトラクションにそのまま入ってもらう形になるよ」
大磯さんドライだなぁ……おばけ屋敷二十年勤めたって言ってたのに……。
仕事をするってこういうもんなのだろうか。まぁ人の来ないおばけ屋敷よりも、賑やかなアトラクションの方が働き甲斐があるのかもしれない。
「一応、来月の頭には他のスタッフたちにも周知はするし、外部にも告知をする予定だけど……それまではここだけの話にしておいて」
「わかりました。しかし……夏季シーズン中は原因もわからないまま、このまま営業するってことですよね。終わるまで何事もなければいいですが……」
「そうなんだよねえ。でも原因がわからないとどうしようもないし……」
そう言って頭が痛いとばかりにため息をつく。
いくら見回ろうが確認しようが何も出てくるわけがなく、そうなると施設としては確認の上で問題はなかったと言うしかないわけで……。
……本当にクソ迷惑かけてるな……私。
「とりあえず内部点検の回数を増やすのと、点検時の確認の強化、あとは念のため入り口の注意書きを足そうか。
そうだな……『衝撃の強い恐怖演出が含まれるアトラクションです。パニックに陥る方もおられますので、苦手な方はご入場をお控えください』こんな感じの文言を入口に貼ろうか。
あとは念のため監視カメラの映像保管日数も変更しておいてほしい。今保管してある分とこれから撮る分は、保管日数を最長に設定を変えておいてくれ。それくらいかな」
「わかりました」
「よし、じゃあ最後に点検して閉めよう。該当の場所はちょっと念入りにチェックさせてくれ」
「はい……点検の時ですが、社内スマホで録画しておきましょうか?」
「そうだな。そうしようか。オープン前と最終点検のときだけでいいから。一応そのデータも残しておいてくれるかい。保存用のメモリーカードはあとで支給するよ。
よし、じゃあ行こうか」
「はい」
そう言っておばけ屋敷に戻る二人の後ろを、しょぼしょぼしながらついて歩く。
……おばけ屋敷に本物のおばけが出るとこんなに迷惑かけることになるのか……。
お客さんが楽しんだんだから、人気になったからいいじゃん、ではないのだ。
とにかく営業終了までは全力で自分の尻拭いに走って、次からは化けて出る場所はちゃんと選ばなきゃな……。
おばけ屋敷に着くと、備品のライトを持って二人は慣れた様子で中に入る。
最終確認はお客さんが万一残ってないか、異常がないか、あと落とし物がないかとかも見たりする。
異常がなければ報告書にチェックしておしまいだ。
「まずここの茂みですね。ここから腕が出て、地面をひっかきながら奥に入っていったという投稿がSNSでありました」
「……何もないね。奥に隙間があるからなにか置けそうではあるが」
『あっ……』
……私は物理的に干渉できないから、どうしても脅かすポイントは人一人入り込める隙間がある場所になる。
これ、私も詐欺だしひどいと思うんだけど、存在感を強めるというのはマジで『人に気づかれる』以外の効果が一切ない。
物に触れないのも、動かせないのも、透過できないのも、カメラや鏡に映らないのも、一切合切なんの変化もない!
この柔らかな作り物の茂みだって、揺らすことすらできないので、無理やり上に乗って奥の隙間にえっちらおっちら入り込んで、肩を痛めるような姿勢で、腕が通れそうな隙間から無理矢理突っ込んで演出しているのだ。
ただ明らかに人が触ったら壊れる、動く、潰れるようなものも硬いコンクリートのように上に乗れたり、ぶら下がれたりできるのと、普通の人なら体を痛めるような無理な態勢でも痛みもなく、疲れもせず、難なくできることだけがちょっと幽霊としての強みと言えないこともない。
まぁつまり、ふつーに生きてる人が潜めそうな隙間がある場所でしか脅かせないのだ。幽霊なのに。
『生きてる人でもやれそうな場所しか行けないせいで余計な疑いを生もうとしてる……!』
「いや、ちょうどあそこにカメラがあるので無理ですよ」
「ああ……たしかにあそこならここに何かあれば間違いなく映るね」
『あっっぶな!!』
監視カメラには何も映ってないことは確認済みだ。
二人は念のため茂みの奥を再度確認してから、続けて先へと進んでいく。
私が脅かすポイントとしていた場所は念入りに確認しているが、まぁ当然ながら何もない。
「うーん、わかってたけど何かあった形跡すらないねえ」
「まぁそもそも監視カメラはずっと回しっぱなしですからね。
なにかする人間がいたらすぐに気づきますし」
「そうなんだよねえ……でも明らかに人為的なんだよなあ……」
なんかもういっそここで姿見せた方が良いのかな……素直に本物の幽霊です、私がやりましたって自首するのが早い気がする。
原田チーフが私の姿を見ることができればだけど……絶対無理な予感はするがでも試すだけは試してみよう。
「ごめんなさい犯人は私です!!!」
「もうそろそろ出口ですね」
「やっぱりなにもないよねえ」
「だよね知ってた!!」
案の定全力で姿を現して叫んだにもかかわらず、二人は振り向きもせずにすたすた進んでいった。
まぁだろうなと思ってはいたけど!!
というのも、おばけ屋敷のスタッフさんは全員私の姿が見れなかったからだ。
おばけ屋敷内だと三人に一人は見れるはずなのに、六人全員に気づかれないってのはちょっとたまたまとは言えない気がしてる。
が、なんでおばけ屋敷だと昼でも夜のように気づかれやすいのか、そもそもなんで気づかれる割合が上がってるのか、その原因すら不明だし。
もっと言うと幽霊を見れる人間と見れない人間の違いすらわかってない現状、考えてもどうしようもないわけで。
「……出口まで来たけど、やっぱり原因になりそうなものは見当たらないな」
「自分もそこは事前に確認してますし、毎日の点検でも変わったものを見た覚えもないですし」
「とりあえず確認はしたし、さっき言った通り注意書きと点検だけ念入りにするようにしておいてくれ。それから録画と」
「わかりました。いやぁ、このホラーハウスで働いて二十年経ちますけど、こんな訳のわからないことが起こるとは思ってませんでしたよ」
「私もだよ。まぁなんだかんだ長い間営業してたホラーハウスだ、知らない間に居ついてた幽霊がいたとしてもおかしくないかもしれないけどね」
笑いながら二人は鍵を閉める準備をする。
大磯さんが録画していたスマホをしまう為に画面を消した、そのときだった。
「――ッ!!」
「っ、どうしました原田チーフ?」
『え、え、なに?』
ぎょっとしたように原田チーフがこちらを振り返る。
もしかして見えたのか!? と思ったが、目の間で手を振ってみても相変わらず視線は合わず、ただじっと強張った顔でおばけ屋敷の出口を見つめていた。
「いや……気のせいだったみたいだ。さ、閉めよう」
「わかりました」
『ごめんなさい……明日から気をつけます……』




