12. スタッフたちの見解と問題
翌日、大磯さんはおばけ屋敷が終わってしまうことには触れず、他のスタッフさんたちに「同じ箇所でないはずの仕掛けを見たというお客様が増えており、パニックの可能性も考えて注意書きの追加。誰かのいたずらの可能性も考えられるため、点検の強化と点検時にスマホで録画をすることになった」とだけ説明した。
元々SNS等で覚えのない仕掛けの投稿が増えていることは、スタッフさん内でも軽く話題になっていたのでそこまで騒ぎとなることはなかった。
ただ、面倒事が起きなきゃ良いけど……と言わんばかりの顔をした他のスタッフさんと違い、水谷くんだけはらんらんと目を輝かせていた。
「だって監視カメラにはなんにも映ってないんすよ!? じゃあやっぱ本物の幽霊じゃないっすか!!」
「幽霊にしてはさー、いくらなんでも人為的すぎない? 私、ネットの悪い影響じゃないかなーって思うけど」
「ていうと?」
「ほら、誰かが『ここびっくりした』『これ怖かった』ってネットで書いてさ、それを読んだ人間がそういう仕掛けがあるもんだと勘違いして、見た気になっただけなんでないの?」
「いやいやないっすよ、それは。俺、監視カメラ見てるんすけど、明らかにネットなんか見てきてないような親子連れも驚いてんですよ?
それに、まー、あんま言いたかないっすけど、そこまで事前情報調べてうちにくる客そんないますかって話っす」
「まぁそれ言われたら、そうだけどさぁ。
でもこんだけ見てる人がいるなら、私らだって何かしら目撃して然るべきっしょ?
私らはなんも見てないし、なーんの異常もなかったのに、ほんとに急に広がりだしたじゃん。
幽霊説はさすがにちょっとなー」
「えー、ぜったい幽霊っすよ~!」
パートの江川さんは、あまりに人為的すぎるから幽霊じゃない派。
バイトの沼田さんは原因がわからない以上、論じても仕方がない派。
同じくバイトの金重さんは、幽霊だろうが悪戯だろうが迷惑は迷惑。これ以上騒ぎを起こすな派だった。
……申し訳ない、余計な騒動と不安を起こしてしまって本当に申し訳ない……。
唯一水谷くんだけが楽しそうで、この事件の謎を解明しようとわくわくしている。
内部点検の時も、カメラを持っていつも以上に張り切って見回ってくるのだ。
そんな水谷くんの姿を見て、大磯さんたちは苦笑するとともに、犯人の幽霊を見たら教えてくれと言っていた。
今のところこの『ないはずの仕掛け』現象に気づいているのは、内部のスタッフだけであり、外部ではそんなものがあるとは話題にもなっていない。
ただちょっとSNSでおばけ屋敷の感想を言うアカウントが増えて、気持ち評判が上向いた気がする程度だ。
もしかしたら大騒ぎにならないうちに、とっととおばけ屋敷から去ったほうがいいのかもしれないが、ここでぱたっと消えてもそれはそれで余計な憶測と騒動を生むだろう。
そのため脅かす人数をこれまでの半分に減らし、徐々にフェードアウトしていこうと決めたのだが。
『なんか……私の姿、見える人の割合増えてない……?』
川辺の道路にいたときは五人に一人見える人がいるかいないか程度だった。
おばけ屋敷で脅かし始めたときは、五人に二人ぐらい、もしかしたらもうちょっと多いかぐらいまで増えていた。
だからまぁまず脅かす人数を半分ほどに減らそうと思い、二回に一回脅かしに入ることにしたのだが……減らない。
いや、減ってはいる。というか、いた。減っていたんだけど、徐々に増えてる。
たぶん三人に二人ぐらい、見える人が増えてる。
『なんでえ……!?』
いや、脅かす母数を減らせば解決するから良いもんではあるけど、原因がわからない!!
なんかもう修行だのなんだの言う前に、おばけ屋敷が営業終了したら幽霊のルールを一度調べ直した方が良いのかもしれない。
トライアンドエラーで実験してけば何か掴めるかもしれないし。
『……いや、そこら辺のことは後で考えよう。とにかく今はおばけ屋敷に迷惑かけないよう、話題を収束させることに気をつかわなきゃ……!』
脅かす人数を減らすのももちろんだが、話題にならないよう出来る限りクオリティを下げて驚かすよう注意している。
腕を出すときはマネキンを意識して動かさず、拙く。
足を隙間から見せるときは絶対に微動だにしない。作り物を意識する。
人頭芋虫さんに合わせて後ろから声をかけて脅かすのは、距離をもう一メートル離して、声自体ももっと機械音っぽくする。
ついでに一番怖がってもらえてたのもこれなので、この脅かし方は回数自体を減らして、他の無難な脅かし方を主にやるように変えた。
『とりあえず脅かす人数をもっと減らして……急にゼロにするとまた余計な騒動になりかねないし……。
シーズン中には一日三、四組脅かす程度に調整して減らしてけばなんとか……! なんとか軟着地で終われないかな……!』
痛まないはずの胃がキリキリ痛むのを感じながら、ひたすらに無事に終わるよう祈った。




