13. くびのとれたおねえちゃん
それから祈りが届いたのか、もともと外部のお客さんたちが騒ぐようなことでもなかったからか。
無事脅かす回数も三分の一ほどに減らし、変な騒ぎを起こすこともなく、一番お客さんがくるという夏季シーズンを迎えることができた。
夏季シーズンの半月前には、おばけ屋敷営業終了のお知らせがスタッフと外部に出されたが、スタッフさんたちの話を盗み聞くに、外部の反応はあっさりしたものだったらしい。
まぁ遊園地が閉園になるわけでないし、後には新しいアトラクションもできるのだ。
おばけ屋敷を惜しむ声もあるにはあったが、新しいアトラクションが楽しみという声の方が若干多いくらいだったらしい。
また内部のスタッフさんの反応も、同じく実にあっさりしたものだった。
バイト、パートさんの半数は繁忙期までの短期だし、正社員の大磯さんはもちろん、長期の方も別に遊園地をクビになるわけでもないし、騒ぐほどのことでもないという感じだ。
ただ、私が脅かすようになってしばらくしてのこのニュースだ。
何かしら関係があるのか、やっぱ人為的なものだったんじゃと疑う人もいたが、大体の反応としては「繁忙期に余計な騒ぎが起こらなきゃ良い」といった様子だった。
予定ではこの年一忙しいという夏季シーズンの半ばくらいで、フェードアウトして消える予定を立ててる。
夏季シーズン前に消えたほうが良いかとも思ったけど、それはそれでいらない憶測を呼びそうなのでできる限り考えた結果だ。
そんなこんなで徐々に増えるお客さんに戦々恐々としつつ、粛々とクオリティを下げた内容で脅かす頻度を減らしつつ対応を続けていた。
「ああ、大磯くんホラーハウスの様子はどうかな? 去年までと比べて、やっぱり変わってるかい?」
「そうですね……この夏で終わりということもあって、例年に比べるとやっぱり多いですよ。ただ月初に比べて客足は減ってきてはいます。それでも去年から見れば二、三割ぐらいは増えてますね。
短期バイト多めにこっちに回してもらって正解でした」
「……ちなみにあれのほうは?」
濁された『あれ』だが、それでもピンときた。
うん、私のことですね……。
「前に比べて減ってますね……監視カメラで確認できる限りですが。
あと……起こる場所は以前伝えた四ケ所から変わってないんですが、最近はお客の驚く反応が小さくなってる気がします。あくまで私の所感ですが」
「うーん、謎だねえ……まぁ何もないならいいんだ」
「ネットの方も静かなもんですよ。ホラーハウスが終了するってことで注目が集まってるのに、あれに関しての話は最近全然あがってませんし」
「あと半月か。このままいけばなんとか何事もなく終わらせることができるかな」
『意地でも終わらせます! もうここまできたら何も問題起こしませんよ!!』
あれから今日までネットでもおばけ屋敷でも何も起きることはなかった。
そう、何事もなくここまでこれた!
原田チーフと大磯さんも徐々に件数が減り、かつ変な投稿や書き込みがないことに、忙しいながらほっとした様子で日々お仕事に励んでいる。
今では一日一、二回脅かすだけで、ほぼ丸一日何もしない日も多い。
もうあとたった半月だ、このまま何事もなく楽勝で終われるな! ……なんて、そんな事考えたのが悪かったのかもしれない。
後から思えば、完全にフラグ以外の何物でもなかった。
「いーの、一人で行く!」
「ぼくもひとりでいく!」
「えぇ……本当に大丈夫?」
「うん!!」
おばけ屋敷前で自信満々に主張するキッズたちに、お母さんが心配そうな顔で何度も大丈夫かと尋ねる。
その度にキッズたちは気を損ねるようで、もう頑なになってしまい、「お母さんはついてくるな!」とハリネズミのように気を尖らせて叫ぶ有様だ。
十……いや、もっと小さいかな。八、九歳くらい?
ギリギリ一人でも入れる年齢だろうけど、いやー無理じゃないかなあ。
年齢制限ギリギリの子が「自分だけで行く!」と主張して入っていくのを十回くらいは見たが、泣いて出てくるか、入口入ってすぐ途中で引き返してくるかの二パターンしか見たことない。
キッズたちの主張にお母さんも折れたらしく、そんなに言うなら泣いて出てきても知らないわよとばかりに、おばけ屋敷の列に並ばせた。
キッズたちは鼻息荒く自分たちの番になるのを待ってるが……。
『えー……ちょっと一緒に行こうかな……』
今日はもう入るのやめとこうと思ったんだけど……ちょっと心配だ。
まぁ一緒にいったところで、幽霊の私に何かできるわけでもないのだけど。
中に入ったキッズたちは最初は威勢がよかった。
おばけ屋敷に率先して入ろうというだけはある。
血まみれの斧と継ぎ接ぎ人形には小さく悲鳴を上げ、ちょっと腰が引けていたが、直ぐに気を取り直して先に進んでいく。
だがしかし。
「うわああああぁぁぁ!!」
「うええぇぇぇんん!!」
『言わんこっちゃない……』
小屋のゾンビがぶつかってくるのはさすがにビビったらしい。
悲鳴と泣き声を上げて、二人は小屋から飛び出した……いや、飛び出そうとして。
『あっ!』
小屋の裏口は狭い。混乱した子供が二人、並んで走り抜けるほどの広さはない。
足の早いお兄ちゃんが、弟くんを押しのけるようにして先に裏口を出た。
弟くんが倒れる――ちょうど、後ろの柵に頭をぶつけるような角度で。
「危ない!!」
気付けば体が飛び出してた。
触れられないのはわかっていた。でもその瞬間、そんなの頭になかった。冷静に考えたら受け止めようとしたところで、私の体が弾き飛ばされて弟くんが頭をぶつけるだけだ。
そのはずだった。
「……うん……?」
「ぇ……?」
お腹に感じる確かな衝撃。
腕に伝わるしっかりとした温かさと掴んでいる感触。
しっかりとお腹と両手で受け止めた弟くんが、こちらを見上げていた。
「うわああぁあぁぁぁぁ!!」
「っちょ、え、あ」
やっべええええええぇぇぇぇ!!
「だからくびのとれたおねえちゃんがでたの!!」
「いなかったよそんなの!!」
「にーちゃんみてなかった!! さきににげたから!!」
「にげてない!!」
「にげた!!」
やばいやばいやばいやばい……!
びゃーびゃー泣くキッズたちに、お母さんはだから言ったのにと言わんばかりの顔で流し、ほとんど話半分の様子であやしていた。
子供が言うことなのと、内容が普通のおばけ屋敷の仕掛けと区別つかないから、お母さん的にはおばけ屋敷が怖かったのね、くらいにしか思ってないんだろう。
うん。余計な騒ぎにならなそうなのは不幸中の幸いだけど、問題はなくなってない。
『なんであの子のこと触れたんだろ……?』
幽霊は物に触れない。そのはずだ。
何度も確かめたし、色々試してみたけど成果は一切上がらなかった。
『やっぱここに来てからおかしいよねえ……!? だんだん見える人の数増えてきてるし!
この場所のせい? にしてもなんでここだけこんな……』
さすがにこれはちょっときちんと調べないとまずい。
ホラーレベルを上げる特訓はひとまず置いておいて、もう一回なにができるかきちんと調べておかないと、またとんでもない事故起こす気がする。
『でもできることが増えるなら、憑りつける場所もやれる演出も増えるから嬉しいことではあるよね。
ここは絶対はっきりさせておかないと……!』
もう二、三回くらい脅してからフェードアウトしたほうが自然かと思ったけど、こんなよくわからん実体化現象まで起こしてしまった以上もうやめだ。
おばけ屋敷が営業終了するまで念のためいるけれど、これ以上脅かしに入るのは何が起こるかわからなくてさすがに怖い。
営業終了見届けて、何ができるのかもう一回きちんと調べる!
そしたら!
偶然だけど見つけることのできた、待望の『次』の場所で本格的な怪談を目指すのだ!




