14. 「結局、あれなんだったんだろうね?」
「結局、あれなんだったんだろうね?」
夏休みが終わり、繁忙期の夏季シーズンも過ぎ去って。
シーズン中のみのバイトはすでに辞めているし、長期バイトの水谷と沼田は今日から別のアトラクションで働く事になっていた。
封鎖され、業者による改装を待つばかりの、もう入ることのないホラーハウスを思い浮かべる。
そこそこの付き合いとなった仕事場だったが、まさか最後の最後でこんなわけのわからない事が起こるとは思わなかった。
「さあ? でも外部で騒ぎにならなくてよかったじゃないですか。下手したらなにか問題があったから閉鎖したんだとか、あることないこと言われる羽目になってましたよ」
冷めたように言う金重と裏腹に、目をらんらんと輝かせたのが水谷だ。
「いやあれ絶対幽霊っすよ!! 俺、監視カメラ何度も見ましたけど、まじで意味わかんねーなんにもないとこでお客さん驚いてるんすよ。
しかもですよ!!」
そこまで言って声を潜めたが、しかし言いたくて仕方がないと言わんばかりの弾んだ声は隠しもしない。
「……最後にあれが出たとき、カメラにもちゃんと映ってたんすよ!!」
「ええ?」
「え、本当? いつ?」
「お盆後の日曜日っすね。沼田さんが受付やってた日曜っす。ほら、小一くらいの兄弟が子供だけで入って泣きながら出てきた」
「あー」
小学校低学年で、おばけ屋敷に子供だけ入ることは珍しいのでよく覚えていた。
だいたいは親が一緒だし、まして幼い兄弟となれば印象に残りやすい。
「……たしかにちょっと引っかかってたんだよ」
「何がですか?」
「いや、その子たち……ていうか弟くんの方かな? 出てきたときに、首がとれたお姉ちゃんが出たって言って泣いてたんだよねえ。
この件のさあ、一番最初に出た変な口コミ、『首が取れたセーラー服の女の子のマネキンがある』だったんだよ。
それで聞いててさ、うわって思っちゃって」
「……あの最後の人の頭乗っけた芋虫の人形じゃなくてですか?」
「じゃないと思うよ。あれを首が取れたお姉ちゃんとは呼ばないでしょ、いくらなんでも。
お母さんは中に入ってないから、そんな仕掛けがないこと気づかなくて、まぁはいはいって感じで帰っていったんだけどさぁ」
ちょっとぞっとしたよねえ、と沼田がこぼす。
「え、じゃあもしかしてカメラにその首の取れたお姉さんはっきり映ってたの?」
「それは映ってなかったっす!!」
「ちょっと!」
「さっき映ってたって言ったじゃん!」
「女の人は映ってなかったっすけど、変なことは映ってたんすよ!!
その兄弟があの小屋のゾンビが出てくるところで、泣き叫んで逃げ出しちゃったんすけどね。
そのときお兄ちゃんが弟押しのけて先に小屋から飛び出そうとしたんすよ。
そんで押された弟が転んで、柵の方にぶつかりそうになったときにですね」
「危ないじゃない!」
「いやそれがぶつからなかったんすよ」
面白そうに、でもどこかわざとらしい不気味さを含めるように、声を潜めてそう言った。
意味がわからずきょとんとした二人に、水谷はさらに楽しそうに笑みを深める。
「カメラ見て危ね! って思ったら、その弟くんの後ろに真っ白なモヤみたいなのが、ぱって出てきたんですよ!
そんでその弟くんがそのもやに当たった瞬間、ぽんって感じで止まったんすよね。
モヤに寄りかかったみたいな、すげー不自然な体勢で!!」
「……監視カメラの画質って悪いし、ノイズとか宙に舞った埃とかじゃなくて?」
「そんなんじゃないっすよ。まじで不自然にわって出てきて、そこに留まって、弟くんが走って逃げた瞬間にぴゅって消えたんすよ!!」
嘘くさいなぁという顔を隠しもしない金重に、水谷が本当だと言い募る。
映像は残してあるはずだから大磯に頼んで休憩時間にでも見せてもらおうと、やいやい水谷が騒ぐのを尻目に。
沼田はぼんやりと最後の最後にホラーハウスで巻き起こった幽霊騒動を思い返した。
ホラーハウスの演出としか思えない脅し方といい、倒れそうな子供を助けたことといい、もし本当に幽霊ならば、悪い幽霊ではなかったのかもしれない。
長年続いたホラーハウスが終わってしまうと聞いて、このホラーハウスに思い入れのある幽霊が最後に盛り上げようとしてくれたのかもしれない……中の人であるスタッフ的にはいい迷惑だったが。
「うーん、子供を助けたなら悪い幽霊でもなかったのかもね」
「えぇ、沼田さんも信じるんですか?」
「映像があるなら信じざるを得ないんじゃない。中に仕掛けも何もないことが私たちが一番わかってるし、監視カメラの映像に手なんて加えられないこともわかってるでしょ」
「そーっすよ! なんで金重さんはそんなに頑なに否定するんすか!」
「だってあれだけ大騒ぎになったのに、結局私たちスタッフは誰も見てないんですよ?
お客様しか見てないなんて、どう考えても不自然でしょう。毎日見回り点検してたんですから、本当にいるなら誰かしら目撃してないとおかしいじゃないですか」
要は自分が見てないものは信じない、というのが金重の主張なのだろう。
だがそういった瞬間、水谷がにんまりと笑った。
「……見たそうっすよ?」
「え?」
「原田チーフ。あの大磯さんと最終点検した日に。
スマホって画面消したら鏡みたいに見えるじゃないすか。
点検が終わった後、録画停止して画面落としたら、反射するスマホの黒い画面に映ってたそうっすよ……首がちぎれたセーラー服の女の子が、自分たちの後ろから立って覗き込んでるの」
「嘘でしょ!?」
「ほんとーっすよ! チーフ本人に聞いたんすから!!」




