7. 首がとれた女の子のマネキン(仮)
私が考えるホラー耐性を上げる修行は簡単。
慣れるまでおばけ屋敷に入る! 以上!!
いや、本音を言うと子供向けの怖い話とか、そんな怖くないアニメとかから入りたいけど、それを調べる手段も見る手段もないので……。
幽霊ってのはネットも使えないし、人に話も聞けないし、情報収集するのがすごく大変だ。
物に触れても動かすことができないから、パソコンがあっても調べられないし、本があっても読むことができないときた。
……いつかこの辺もなんとか調べたいな。幽霊ってポルターガイスト起こしたり、触ってきたりする話いっぱいあるんだから、できなくはないはず……。
まぁ幽霊としてのパワーアップは、ホラー耐性を上げる以上にとっかかりないから暇ができたら考えるとして。
『いや、勢いで決めた修行だけど、おばけ屋敷周回は思いの外効率的だったかも……!』
初手泣き叫んで逃げてしまったおばけ屋敷だが、何度も何度も入れば嫌でも慣れる。
よくよく考えたら自分のこのスプラッタな見た目だって、二か月ぐらいでなんとか見慣れたわけだし。
まぁゾンビが雨戸に張り付く瞬間は未だに怖くてびくってしちゃうけど。
一番いいとこはお客さんに同行しながら周回することで怖さを半減できる点だ。
一人でおばけ屋敷回るのと、たとえ見えないとはいえ誰かと一緒ってのは心強さがまるで違う。
ちなみにやや慣れてきたが、未だに一人で入る勇気はない。もうちょっとしたら頑張れる気はしてる……!
あとここは遊園地のおばけ屋敷なので、精神が限界を迎えたら他のアトラクションでメンタルを回復できる点も大きい。
見えないことを良いことにメリーゴーランドも観覧車も乗った。さすがに高校生が乗るもんじゃないかとも思ったけど、正直楽しかった!
そして最後、これはおばけ屋敷なので当然担当しているスタッフさんがいる。
といっても受付のスタッフさんと、監視カメラで確認してるスタッフさんだけっていう超少人数だけど。
監視カメラ部屋からおばけ屋敷を見ると、なんというか管理されてる感というか、作り物感というか、こう、とても客観的に中を見ることができる。
自分がおばけ屋敷を提供してる側に回った気分になれるのだ。
これがだいぶ恐怖を和らげてくれた。
まぁそんなこんなでなんとか一周につき悲鳴一回程度で回れるくらいに、このおばけ屋敷に慣れてきた頃だった。
「うーん……」
「どうしたんですか、大磯さん」
このおばけ屋敷は超少人数だ。
おばけ屋敷担当のスタッフ自体はバイト込みで五人いるが、基本受付二人と監視カメラ一人の三人体制。
休日とたまの平日には受付二人に監視カメラ二人の四人になったり、受付の人数が減ったりもする。
ちょうど午後すぎ、出勤してきたアルバイターの沼田さんを見かけたから「じゃあ今日はカメラの方行こうかな」と思ってついてきたのだが。
監視室に入るとベテランの大磯さんがなにやら書類を見つめて難しい顔をしていた。
「いや、今日口コミ調査の報告日だからCoocleのうちの口コミチェックしてたんだけど……」
「あー、低評価書かれてました?」
今どきはネットの情報を見て出かけ先を選ぶ人がとても多いので、ここ天ヶ原ワールドパークではCoocle評価をとても重要視してるらしい。
なのでマイナスの口コミがあった場合はスタッフに周知させて、対策を考えるという業務があるんだとか。
正直言いがかりも甚だしい口コミも多いから、個人的にあの手のものあんま当てにならないと思うんだけど。
こういう口コミ調査の仕事もあるし、警備員みたいに毎日内部点検もしなきゃだし、おばけ屋敷のスタッフって意外とやること多いんだなって思う。
「いや、うーん……そうなんだけど、変なっていうか、うちのアトラクションで覚えのない低評価と高評価があって……これなんだけど」
そう言って大磯さんが報告書を見せてくれたので、沼田さんと一緒に覗き込む。
「……ええー?」
『あっ……』
報告書にはここ最近の口コミと、評価数が印刷されていた。
前回より低めの評価が二つ、高めの評価が八つ増えている。
そのうち口コミでおばけ屋敷について触れているユーザーが低評価一人、高評価二人……なのだが。
まず低評価の人のおばけ屋敷に関する部分のコメントがこれ。
【★☆☆☆☆
ファンタジーやメルヘンを組み合わせた独特な雰囲気がここのホラーハウスの売りなのに、途中にあった首がもげた女の子のマネキンがどうみてもセーラー服だった。
見るからに後から置いたと思われる人形だった。
雰囲気が台無し】
「セーラー服の人形なんてないですよね。普通に見間違いじゃないです?」
「いやでもさ、こっちの高評価の人も似たようなこと書いてるんだよ」
高評価のおばけ屋敷に関するコメントはこんな感じだ。
【★★★★★
ホラーハウスが西洋のホラーハウスとも日本のお化け屋敷とも違う、ファンタジーチックな珍しいホラーハウスで、雰囲気がとても素敵でした。】
【★★★★☆
ホラーハウスは雰囲気は独特ですが、怖さとしては子供も一人で入れるぐらい。
ただ首が取れた女子高生の人形だけ異様に出来が良くて怖かったです。一瞬、ガチで死体かと思いました(笑)】
「二人も見てるとなると、見間違いじゃないっぽいだろ?」
「えぇー……ならセーラー服着たお客様とすれ違ったとか……?
きちんと入場の間隔開けてはいますけど、入った瞬間にお客様が走って逃げて、前のお客様追い越しちゃったこと、前にありませんでしたっけ?」
「いや、さすがにそんなこと起きたら覚えてるし、水谷くんだって江川さんだって俺に報告するよ。
そもそも江川さんにも確認したけど、制服着たお客なんてここ最近入れてないって。
うち、中高生が修学旅行や行事で来るような遊園地じゃないし、来ても地元の小学校の遠足程度だし……」
「たしかに。それによく見たらこの口コミ、二週間ぐらい離れてますね。お客様じゃなさそう……」
「そもそも首が取れたなんてあるんだから、お客と間違えたは無理があると思うんだよな。
かといって人の形した仕掛けなんて、小屋の黒ローブのゾンビぐらいだし」
やばい。
痛みも温度も感じない幽霊なのに。めっちゃ胃が痛むし、顔から血の気が引いて冷えてる気がする。
めっっっちゃ迷惑かけてる!!
嘘でしょすんごい気合い入れても姿見れる人なんて五人に一人ぐらいなのに、こんなちょっとびっくりして力入れちゃっただけで目撃されるとかある!? しかも二人も!!
「でもこれ報告書、なんて書くんです?」
「まぁそんな仕掛けないし、原因わからんからなぁ……見間違いだと思うが、点検でおかしなところがないか、チェックを念入りにしますって書くぐらいしかないだろう」
『あああああ低評価の原因になった上に、報告書の仕事まで……申し訳ない……っ!』
ただでさえおばけ屋敷のスタッフはほぼバイトで、正規スタッフの大磯さんは仕事多くて大変なのに……!!
これから人について歩くときは力入れないよう気をつけ……気をつけてどうにかなるか……? もう怖いのは反射だからどうしようも……いや! これ以上迷惑かけるわけにはいかないんだから無理もクソもない!!
一人で入るのはまだ絶対無理だからなんとか頑張らないと!!
「沼田さんお疲れ様でーす」
「水谷くんおつかれー」
お客さんがいない間に軽く内部点検をしてた水谷くんが帰ってきたらしい。
二人で口コミの報告書を覗き込んでいるのを見るやいなや、水谷くんが楽しそうに笑った。
「あ! 沼田さんも聞きました? 口コミの話!」
「聞いたよー。見間違いでもお客様でもなさそうだし、何なんだろうね」
「俺その話めっちゃしたかったんですよ! 朝、大磯さんにその話聞いて、休憩の間ちょっと調べたんですけど……その口コミだけじゃないんすよ!!」
え、なにそれ。
水谷くんは机の上に置いていたスマホを取って、嬉々として画面を見せてくれた。
「ほら! SNSでうちのホラーハウスのこと調べたら、すっげー出てくるんすよ!
首が取れた女の子のマネキンだけやたらリアルでビビったとかとか、すぐ後ろから女の子の叫び声がして思わず逃げたとか!」
『うそでしょ!!』
「うわ、ホントだ。しかも結構件数あるじゃん……」
「普通の感想の投稿もあるんで、これ全部じゃないっすけど……でも俺が見ただけで六件もあったんすよ。こんだけあったら見間違いじゃないですって絶対!!」
まってまってまって!!
それは多い! 多すぎる!! たしかにここ数週間たくさんのお客さんについて回ったけども!!
途中で他のアトラクションで遊んだり、監視室の方にお邪魔したりしてたし、そんなに見られるほど入ってはないよ!?
しかもびっくりした時ぐらいだよ、力入れちゃって姿見られちゃうタイミング!!
わざわざSNSでコメントしない人もいることを考えたら、それはいくらなんでも多すぎる!!
「えー、じゃあ水谷くんはなんだって思うの?」
「そりゃやっぱ本物ですよ! よく言うじゃないっすか、おばけ屋敷には本物が出るって!!」
鼻息荒く言う水谷くんに、沼田さんと大磯さんは二人揃って苦笑した。
「いやぁ、それはないだろ。俺、このホラーハウスのスタッフやって二十年経つけど、それっぽいもの見たことないよ」
「まー、出るにしたってうちじゃあないですよねえ。
そういうのはちゃんとしたおばけ屋敷に出るもんだって」
「えー、うちだってちゃんとしたホラーハウスじゃないっすか。他にないホラーハウスだって、評判悪くないっすよ?」
「そりゃゾンビでも白装束でもキラー系でもないホラーハウスで、珍しいからってだけだよ。
仕掛けは全部センサー式だから機械っぽさが抜けないし、照明で一生懸命誤魔化してるけど作りの安っぽさや、経年劣化の傷みや汚れはわりと目立つし。
やっぱ子供向けの遊園地のホラーハウスなんだよね、うちは」
「そうそう。ホラーハウスだけは改修されたことないくらいだからなぁ」
世知辛いなぁ……。
まぁジェットコースターとか、観覧車とか、ああいう大掛かりで遊園地の目玉になるアトラクションのほうが優先されちゃうんだろうな、やっぱ……。
個人的にこれが子供向けのおばけ屋敷とか嘘だろと言いたいが、たしかによくよく見ると機械や人形の粗ははっきり見える。
井戸や森に配置されてる手足は、近くで見ればデパートにあるような安っぽいマネキンだ。
死ぬほどビビったローブのソンビも人頭芋虫も、慣れると動きが機械的でラジコンじみてる。
森から響く笑い声や、地から響くような悲鳴も、良く聞けば録音だって丸わかりだった。
それでも雰囲気がめちゃくちゃ怖いから、普通にビビるけど。
「じゃあこの謎の首のとれた女と声は何なんだって話じゃないですか」
「他のお客さんの悲鳴が聞こえたか、見間違えたか、勘違いか……まぁそんな仕掛けないんだから、ないもんはない。気のせいだとしか言えんだろ」
「本物が出てくるような、目玉になるような怖いおばけ屋敷だったら『本当の幽霊が出たかも』って言えるかもしれませんけどね。うちが言ったところですよ」
『本物だけど、こんな見られるつもりじゃなかったから出たって言われると逆に困る……』
SNS見る限りは驚いた、怖かった、すごかったというプラス意見ばっかでほっとするが、そもそもビビって逃げたところを目撃されてるわけで……。
『こう、怖がってくれたのを見ると嬉しいけど、醜態晒しただけで、怖がらせるつもりも見られるつもりもなかったからな……見られないように気を付け――あれ、いや、でも……』
そもそもなんで昼間なのにこんなに姿見られてるの?




